昭和の奇跡AE86から、86/BRZが平成の奇跡となるまで Vol.3

トヨタ86の乗り味を作るトランスミッションと脚 AE86を彷彿とさせる、リヤのちょっと心もとない感じを再現!?

トヨタ86のコーナリング時
30年以上の時を経て、86のリヤサスはダブルウィッシュボーンに進化した
2012年に戻ってきた待望のライトウェイトFRスポーツ、86/BRZ。普通の2.0ℓ+NAエンジンに普通の6MT/6ATを組み合わせた「普通のFR車」はなぜここまで支持されるのか。GR86を迎える前に、その秘密に迫る短期集中連載。3回目となる今回は、2種類のミッションとサスペンションを見てみよう。

TEXT・加茂 新(KAMO Arata)

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2012年に86/BRZとして戻ってきた待望のライトウェイトFRスポーツ。普通の2.0ℓ+N…

トルセンLSDでいきなり走れる!

86に組み合わせられるミッションは6MTと6ATの2種類。
6MTはアイシン・エーアイ製(当時、いまはアイシン)のもので、アルテッツァやS15シルビアと同系列のもの。それだけ信頼性が高いということでもある。とはいえ、サーキット走行だとちょっとトラブルもあるのだが……。

ミッション内部パーツを組み直すのはなかなか大変だが、86らしく遊べる要素が用意されていた。それがファイナルギヤだ。これはメーカーからの提案というか、増えてしまったという感じもするが、デフに取り付けられるファイナルギヤのギヤ比が3.9/4.1/4.3が純正ラインアップとしてあり、さらにアフター品で4.5/4.8/5.1が発売されている。こんなに幅広いラインアップのある車種がほかにあるだろうか。

もともとはグレードごとに3.9と4.1で発売されたが、エンジンパワーに対してギヤ比がロングすぎて「遅い」と言われた。たしかに普段乗りの加速でかったるさを感じたのは事実で、街中なら2速と3速でほぼ走りきれてしまう感じもあった。そこで86後期のマニュアル車は4.3が標準になった。4.3になることで、普段乗りでの軽快感が増し、街乗りでも2速から5速くらいを使って走れるようになった。

もちろん前期86にも4.3ファイナルギヤは取付可能。後期仕様にしている人も多い。そういった楽しみかたができるからこそ、ハチロクの名にふさわしい。

デファレンシャルはGグレードの6AT以外、トルセンLSD(リミテッド・スリップ・デフ)が標準装備されてていた。よほどのスポーツモデルか高級モデルでない限り、LSDが標準装備になっていることは少ないが、86は6MTにはすべて、AT車でもGTグレードにはトルセン式が組み込まれている。トルセンLSDは、ギヤを用いて差動制限を行なうLSDとして、高いトルク配分性能と高耐久性を誇る。トルセンLSDはジェイテクトの製品だ。86に装着されているのは、トルセンのタイプBである。(※修正しました。12/16)
サーキットでも充分な効きで、まったく不満がないほど。連続して走行したり、もっとLSDを効かせて走りたいならもちろん機械式を入れたほうが安定度は高まるが、普通にサーキットを楽しんでみたいレベルなら全然ノーマルLSDでOK。後付けの場合、工賃込みで15万円はかかるだけにLSDがついているのは大サービスなのだ!

そして忘れてはならないのが6AT。これがまた結構イケている(ATはアイシン・エィ・ダブリュ製・こちらも現アイシン)。

IS Fの系譜というATはかなりのレスポンス。GT-Rのようなツインクラッチではなく、通常のトルコン方式だが、そのレスポンスは決して悪くない。街乗りからサーキットまでサクサクとシフトできるし、なによりも「滑り感」が少ないので、アクセルペダルとクルマの一体感が高い。
そして、意外なことにATと過給器の相性が良い。このATはかなり対応トルクが大きく、普通にターボやスーパーチャージャーを取り付けたレベルではまったく問題がない。むしろMTの方が対応トルクにはシビアで、300psを超えてくるとちょっと不安なレベル。それがATは350psでもまったく問題なし。IS F譲りのオートマティックの面目躍如といったところ。

エンジンもオートマも過給器に対応できる。となれば2ペダルスポーツを作るしかないと、オートプロデュースボスが製作したのが青い86AT+スーパーチャージャー仕様だ。サーキットを難なく走れて、ドライバーはF1やスーパーGTのような2ペダルドライブが可能。そんなちょっと変わった楽しみかたにも対応できる86、さすがハチロクの血統である。

86のカギは、Wウィッシュボーンのリヤサス

リヤサスはWRX STI系のダブルウィッシュボーンを採用。86はこのリヤサスがカギになる。

フロントサスペンションはストラット式。決して豪華なシステムではない。だが、シンプルゆえにアライメント調整はタイロッドによるトー調整でほぼ終わり。アフターのサスペンションなら、ナックル取付部とアッパーマウントでキャンバー角調整ができるくらい。いじる箇所が少ないだけにアライメント調整時の費用も抑えられるし、DIY派にもうれしいところ。

AE86もそうだったが、リヤのサスがカギ。AE86はリヤがほぼトラック。ご存じないかたに解説するとAE86のリヤはリジッド式などと呼ばれる、左右が強固に繋がっていて右側と左側にばねとダンパーが別々についているものである。一番近い方式はトラック(笑)。ダンプカーを思い出してもらえるとわかるが、デフ玉から伸びた鉄の塊に左右のタイヤがついている。ばね下重量!? ナニソレ、美味しいの? 状態のアレである、アレ。

30年以上の時を経て86のリヤサスはダブルウィッシュボーンに進化した。フリクションの少なさ、ストローク時のアライメント変化の少なさに優れた高級なクルマに使われる方式である。乗り心地に直結するリヤサスはそのフリクションが出にくいほど、突き上げも感じにくくなる。
86のスポーティだけど、乗り心地の良さはここから生まれている。それでいてしっかりとロールしながらよく曲がるのも、このダブルウィッシュボーンサスがきっちり機能しているからにほかならない。

低速から楽しめるのが、86

そして86のポイントは、そのダブルウィッシュボーンサスペンションのストローク量がちょこっと短いのである。もうちょっと伸びてくれるといいのだが、ちょこっと短いので大きくロールさせるとリヤタイヤの接地が弱くなる。すなわちオーバーステア的な挙動が出やすくなるのだ。これによって86はややオーバーステア的な挙動が出やすい。とくにアクセルON時のトラクション性能ももう少し欲しいところである。

だが、逆に言えば低い速度からテールスライドをさせて楽しみやすいということである。これはレベルが低いということではなく、低速から遊べるように作っているということだ。
発売当時の話として、ゴルフで100を切れるくらいの人(ドライブスキルとして)なら、ドリフトができるように味つけをしてあると多田主査は言っていたように思う。まさに誰もがFRの挙動を楽しめるよう、味つけられているのだ。

もっとリヤのトラクション性能を高めたいなら、そこはアフターパーツの出番である。リヤのサブフレームマウントをリジッド化して、リヤまわりの挙動遅れを解消。アーム類のブッシュをピロボール化したり、フリクションが少なく適切に減衰力が効いたサスペンションにすることで、リヤのトラクションは稼ぐことができる。また伸び方向のストロークを確保するべく、長いスプリングやヘルパースプリングを使うことでリヤタイヤを路面から離れないようにすれば、全体の挙動をマイルドにすることができる。

素晴らしき哉。そんなあらゆるパーツが揃っているのが86なのだ。さて次回、A型からH型までの変化のおさらいで最終回となる。是非ご覧ください。

著者プロフィール

加茂 新 近影

加茂 新

1983年神奈川生まれ。カメラマンの父が初代ゴルフ、シトロエンBX、ZXなどを乗り継ぐ影響で16歳で中型バイ…