昭和の奇跡AE86から、86/BRZが平成の奇跡となるまで Vol.2

ターボ化も余裕! 86mm×86mmのスクエア燃焼室がトヨタ86/BRZのパワーの源

黄金比を採用しながら、コンパクトな86のエンジンルームに収まるように開発されたFA20
2012年に86/BRZとして戻ってきた待望のライトウェイトFRスポーツ。普通の2.0ℓ+NAエンジンに普通の6MT/6ATを組み合わせた「普通のFR車」はなぜここまで支持されるのか。GR86を迎える前に、その秘密に迫る短期集中連載。2回目となる今回は、採用されたスバル製エンジン FA20について見ていこう。

TEXT:加茂 新(KAMO Arata)

86mmのスクエア燃焼室が86を生む!

スバル製造の86/BRZだけに水平対向エンジンとアナウンスされた際にはEJ20かと思われたが、至るところをブラッシュアップされたFA20の採用となった。

86には水平対向・自然吸気4気筒エンジンFA20が搭載された。大きな変更点としてはボア×ストロークが大きく変わったことが挙げられる。水平対向エンジンは重心が低くできるが、幅が広くなってしまうことが難点。幅が広すぎるとエンジンルームに搭載できない。そこでEJ20ではピストンは幅であるボアは92mm。ピストンのストロークを75mmと短くした。それによってエンジンの横幅を抑えていた。しかし、ビックボア&ショートストロークには弱点もあった。

ボアが広くショートストロークなエンジンは高回転型になりやすい。高回転型というとスポーツカーにピッタリとも思えそうだが、簡単にいうと低回転でトルクがないということ。ながらくEJ20の課題だった低中速トルクの薄さの根源だったわけだ。EJ20では30年以上の歴史のなかで徐々にそれを克服してきたのだ。

そこでFA20では、そもそもボア×ストロークをどちらも86mmに設定。この数値が同じエンジンは「スクエア」と呼ばれ、オールマイティな性能が出しやすいのだ。
日産のシルビア、パルサーなどに使われた、名機SR20も86×86mmのスクエア。トヨタのセリカ、アルテッツァ、スーパーGT500クラスのスープラなど、数々のスポーツカーを支えたヤマハ製3Sエンジンも86×86mmのスクエアだった。

黄金比を採用しながら、コンパクトな86のエンジンルームに収まるように開発されたのだ。それこそがポイントで、エンジンはノーズの先の方ではなく、できるだけ後方にマウントされている。これによってフロントヘビーさは解消され、前後の重量バランスは改善。フロントヘビーからくるアンダーステアに悩まされることもなく、コーナリングスピードのアップに貢献しているのだ。

そして、直噴インジェクターとポートインジェクターの併用によるD-4Sシステムによって燃料をコントロールする。
これには大きなメリットがある。
直噴エンジンは燃焼室に直接ガソリンを噴射できるので、あらかじめガソリンを混ぜた混合気を圧縮するこれまでのエンジンに比べて、圧縮途中での自己着火=ノッキングが起きにくい。そのため圧縮比を高めて、パワーやトルクを引き出しやすい。

そこに通常のポートインジェクターもあるのがポイント。直噴インジェクターはその特性がシビアで現時点で交換用のアフター品が存在しない。そこでなにが起きるかというと、直噴インジェクターのみの自然吸気エンジンをターボ化やスーパーチャージャー化したときにガソリンの噴射量が足りなくなってしまう、つまり直噴の自然吸気エンジンはターボやスーパーチャージャー化ができないのだ。

それがなんと86/BRZのFA20エンジンの場合は、ポート噴射併用! 直噴で足りないぶんはポート噴射で補えるし、ポート噴射のインジェクターであれば大容量のアフター品がいくらでも存在する。ガソリンは増量し放題であり、過給器化も難しくない。直噴+ポート噴射は、まさにトヨタ&スバルの産んだ奇跡と言えるだろう。

過給器取り付けこそ、86/BRZのチューニング!?

直噴エンジンはこれまでのポート噴射に比べてノッキングが起きにくく、高圧縮比化が可能。それによってパワーもトルクも引き出しやすい。しかし、直噴インジェクターの噴射量が限界になったとき、大容量品への交換が現時点では不可能なので、それ以上パワーを出すことができない。
NAチューンではそんなことはそうそう起きないが、NAエンジンに過給器を取り付けると普通に起きることである。強度不足などの前に、ガソリンが増やせないのでターボ化などを諦めざるを得ないのだ。

ところが86/BRZのFA20は直噴インジェクターとポート噴射の併用。これはトヨタとスバルからの壮大なプレゼントである! 86を名乗るからにはあらゆる楽しみかたができるようになっていなければならない。実際AE86も定番チューンとして後付けターボが流行した。
今回の86/BRZにはポート噴射インジェクターも備えておくことで、ターボ化などの大幅パワーアップ時にはポートインジェクターを使い、必要であればそれを拡大することで、ガソリンを大量に噴射し、パワーを引き出せるのだ。

もちろんそんなにパワーを引き出さなくても、稀代のコーナリングマシン86/BRZは充分に速い。しかし、もっと速くしたい人もいるし、街乗りの加速で楽しみたい人もいる。そんなあらゆるニーズに応えられる準備としてインジェクター併用になっているのだろう。

ちなみにでは過給器化などをしたときにエンジンは保つのか? それが結構保つのである。
いまどきのNAエンジンは必要最小限の強度で軽量に作り、燃費向上に努めていると思われていたがFA20に関してはかなり余裕がある。パワーがドカンと出やすいターボ化でも300psはまったく問題なし。パワーがエンジン回転数に比例して伸びていくスーパーチャージャーなら、トルク変動がおだやかなので400psでも可能。ノーマルの約2倍でも大丈夫だというのだ。

エンジン内部やクランクケースの強度、直噴とポートインジェクターの併用。これはもうメーカーから、そうやって遊んでくれというメッセージである! と思いたい(笑)。

だが、それだけパワーアップしてくると問題になるのが冷却。エンジンで発生する熱が大幅に増え、水温、油温が上昇してしまう。しかし、水温に関しては相当キャパシティがあり、一般的なターボならラジエーター交換は不要で、水温上昇もしないほどの容量を持つ。これは国産スポーツとしては驚異的な冷却能力。

エンジンオイル温度はノーマルでも上がりやすくサーキットでは140℃以上にもなる。ここはオイルクーラーを取り付ければ解消される。その取り付け位置も充分にあり、取り回しにも無理がない。オイルクーラーはアフターマーケットで好きなものを各自で付けてね! と言わんばかりである。

しかも、そのオイルは容量がすごい。エンジンオイルは6ℓ弱入る。これまでの国産スポーツといえば4ℓがいいところ。水平対向エンジンとはいえ、オイル容量が多いので温度は上がりやすいがオイルの劣化を抑制できる。アウトバーンを疾走するのが前提のメルセデス・ベンツは7ℓ程度入ることが普通だが、それと同様に大容量のオイルでエンジンを保護して、長く楽しめるようになっているのである。
いや~スゴいわ、86/BRZ。次回はミッションとサスペンションを見ていこう。

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著者プロフィール

加茂 新 近影

加茂 新

1983年神奈川生まれ。カメラマンの父が初代ゴルフ、シトロエンBX、ZXなどを乗り継ぐ影響で16歳で中型バイ…