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自衛隊新戦力図鑑

防空戦闘で、きわめて有利なVLS

VLSとは文字通り、ミサイルを垂直方向に発射する装置であり、甲板上に並んだ蓋の下にはミサイルが縦向きにおさめられている(これらひとつひとつの発射管を「セル」と呼ぶ)。現代艦艇の主要な脅威は対艦ミサイルであり、基本的にVLSはこれらを迎撃する対空ミサイルの発射機として使われている。

MK.41 VLSから発射される、スタンダードSM-3弾道弾迎撃ミサイル。ミサイルの後ろのカーテン状の炎は、ミサイル自身の噴射ガス。セル内でロケット・ブースターに点火するので、噴射ガスを逃がすための排気管がセル間に作られており、写真のように排出される(U.S. Navy photo)

海上自衛隊の護衛艦で使われているのは、アメリカが開発した「Mk.41」というVLSだ。Mk.41は、中~長射程対空・弾道弾迎撃ミサイルの「スタンダード」シリーズや、短距離対空ミサイルの「シースパロー」、「ESSM(発展型シースパロー)」を搭載する。また対地巡航ミサイル「トマホーク」や対潜ミサイル「垂直発射型アスロック」も使用でき、汎用性が高いことで知られている。

セルはそれぞれミサイルの格納場所 兼 発射機なので、これら搭載した多様なミサイルはすべて発射可能状態にある。また、短時間にミサイルを連続発射できるし、真上に打ち上げるので360°全方向に対して攻撃・迎撃できる。これらは過去の箱型やアーム式チャーに比べて、VLSが防空戦闘(対艦ミサイル迎撃)に優れている点だ。

箱型のMk.25ミサイル発射機(左)と、アーム式のMk.13ミサイル発射機(右)。一昔前の対空ミサイル発射機の主流といえばこのふたつだろう。目標方向を向いてミサイルを発射するが、そのため艦橋など構造物で遮られた方向には発射できない(U.S. Navy photo)
護衛艦「はたかぜ」。「こんごう」型の一世代前の対空ミサイル搭載護衛艦であり、艦首にMk.13ミサイル発射機を備えている(U.S. Navy photo by Petty Officer 1st Class Benjamin Wooldridge)

整備の面でも、「ぐるんぐるん」と回転する過去のランチャーに比べて機械的にシンプルな構造なので信頼性が高く、ミサイル自体が保護容器を兼ねたキャニスターごとセルに挿入されているため、メンテナンスの手間は少ない。

 

もちろん、欠点がないわけではない。ミサイルは真上に打ち上がってから目標へと向きなおす「ひと手間」があるため、近距離まで接近した敵ミサイルの迎撃に使うには時間のロスが大きい。そこで近距離防空用ミサイルでは、いまだに回転式ランチャーが使用されている。

近接防空ミサイル「SeaRAM」。至近距離まで接近したミサイルの迎撃では、真上に打ち上げている余裕がないため、目標を指向して発射できるランチャーが今も現役だ。前述したMk.25発射機も同様の理由でいまも現役だ(U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Robert Stamer)

洋上再装填という課題

さて、VLSの運用で課題となっているのが「再装填」にかかる手間だ。ミサイルを発射したら、当然、新しいミサイルをセルに装填しなければいけないのだが、そのためには補給設備のある港に戻らなければならない。不安定な洋上では繊細なミサイルをセルに挿入する作業が困難なためだ。特に、中国のような大国との戦争が現実味を帯びるなかで、アメリカではこの課題がクローズアップされている。

ミサイルは保護容器と発射管を兼ねたキャニスターに収納した状態でVLSに搭載する。この作業は慎重を要するため、不安定な洋上では不可能だったが、アメリカは洋上再装填能力の構築に取り組んでいる(U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Taylor Crenshaw)

敵が大量の対艦ミサイルで攻撃してくることで、対空ミサイルを使い切る心配もあるが、それ以上に長射程の巡航・弾道ミサイルによって西太平洋の海軍拠点が脅かされることへの懸念も大きい。その場合、ミサイルが尽きるごとに艦艇はハワイなど、より後方の拠点に戻らねばならず、時間的ロスは計り知れないものとなってしまう。

そこでアメリカ海軍では洋上再装填を可能とする新装備の開発を進めている。ある研究によれば、仮に太平洋戦域における戦いで洋上再装填が可能になれば、「駆逐艦を18隻増やした」のと同様の効果を生むとも言われている。見逃しがちだが、こうした戦力維持のためのシステム作りが重要であることを改めて認識させてくれる数字と言えるかもしれない。

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