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旧車イベントでもなかなかお目にかからない
LD28型直6ディーゼル搭載の430セドリック・ハードトップ後期型
ランクルやパジェロ、三菱ジープなどのSUV系のミーティングでもなければ、クルマのイベントなどでディーゼル車のクラシックモデルはなかなかお目にかかる機会はない。が、『第12回KAZOクラシックカーフェスタ』では、珍しい日産セドリック(430型)のディーゼル車がエントリーしていた。しかも、営業車や社用車としての需要から販売台数が多かった4ドアセダンではなく、4ドアハードトップの後期型である。
セドリックとしては五代目となる430型が登場したのは1979年6月のことで、ディーゼルエンジン搭載車が追加されたのは、それから4ヶ月後の同年10月のこととなった。
LPGスタンドのない地方でのタクシー・ハイヤー需要を満たすため、セドリックには初代からディーゼルエンジンの設定があったのだが(グロリアはプリンスと日産の合併後となる四代目から設定)、ハイオーナーカーの4ドアハードトップにディーセルモデルが設定されたのはこのモデルから。しかも、搭載されたのは日本初の直列6気筒ほディーゼルエンジンとなるLD28(最高出力91ps)だ。組み合わされるトランスミッションは、5速MTのほか3速ATも選ぶことができた。
開発元の日産にとってLD28は当時の技術の粋を集めた自慢のディーゼルだったようで、従来までの経済性に加えて、動力性能、ドライバビリティ、防振・防音、排出ガス低減などガソリン車に匹敵する性能を実現したとメーカーは主張した。そして、そのことを裏付けるようにディーゼル車を「Vシリーズ」(Valuable Vehicleの略で「「大切な車両」の意味)との名称を与えて、4ドアハードトップにはVX-6、VL-6、VS-6(セダンにあった廉価グレードのVO-6の設定はなし)の3種類が用意されていた。
オーナーは昭和のセダンを愛する20歳の青年?
希少な430型セドリック4ドアハードトップのディーゼルが美しいコンディションで残っているだけでも驚きだが、さらにびっくりさせられたのがオーナーだ。このクルマを所有する内藤巧汰さんだ、なんと年齢はハタチ、この渋いセドリックを所有するのは20歳の青年なのだ。
なぜ430のセドリックを愛車に選んだのか内藤さんに尋ねると、「昭和の時代のセダンが昔から好きだったので、免許取得後に最初の一台にこのクルマを選びました」と答えが返ってくる。とは言っても、希少な430型セドリックのディーゼルだ。どのように入手したのだろうか?
「業者オークションで中古車店が見つけてくれました。幸い僕の済んでいる場所はNOx・PM規制の対象外地域ですので、登録も問題なくできました」という内藤さん。「購入してから故障もなく、調子よく乗れているので満足しています」とのことだ。
じつは内藤さんのセドリックの取材を推薦してくれたのは、『KAZOクラシックカーフェスタ』にエントリーした日産車のオーナーたちだった。「若いのに430セドリックのディーゼルに乗っている子がいるから、ぜひ取材してあげてよ」と言うのだ。そんなことからも同好の先輩たちにもかわいがられている様子の内藤さん。彼のような若手旧車オーナーがもっと増えれば、日本のモーターカルチャーの未来は明るいものになるだろう。
日本でディーゼル乗用車が少ないのはなぜ?
石原都知事の排ガス規制で所有が難しくなる
ガソリンエンジンに比べてディーゼルエンジンは3割程度燃費が良いという利点はあるものの、同時に環境面で問題の多いエンジンでもある。かつては振動や騒音の大きさ、排気ガスの臭い、パワー不足がディーゼル車の課題であったが、近年それらの問題はかなり改善されている。しかし、ディーゼルエンジンはNOx(窒素酸化物)を減らせばPM(粒子状物質)が増え、PMを減らせばNOxが増えるというトレード・オフの関係にあり、この問題は依然として抜本的な解決には至っていない。
その経済性からヨーロッパではVWの「ディーゼルゲート事件」が発覚するまで人気の高かったが、日本市場では昔から盛り上がりに欠ける。おそらくは欧米と違って日本のユーザーはクルマでの移動量が少なく、その燃費性能と燃料代のメリットを享受する機会が多くない割に車両価格は高く、ディーゼル特有の騒音や振動などが問題になりやすい周辺環境から、ことさらネガティブな印象で受け止められた結果だと思われる。乗用車生産から撤退する前のいすゞなどは主要車種すべてにディーゼルモデルを設定するなど頑張っていたが、SUVやワンボックスなどの大型乗用車を除くと普及率はわずかなものだった。
国内市場におけるディーゼルエンジンの死命を制したのが、2002年に石原都知事(当時)が黒い煤の入ったペットボトルを振り回したパフォーマンスだった。これをきっかけに始まった東京都の「ディーゼルNO作戦」により、2003年から基準に満たないトラックやバス、特殊用途車などの域内走行および登録が禁止され、首都圏・中京圏・関西圏の7府県もこれに続き、東京都にほぼ準じた規制を実施した。
規制の範囲が事業用の大型車に限ったものなら良かったのだが、個人所有のディーゼル乗用車やSUV、小型貨物車にもその範囲が及んだことで、古いディーゼル車を所有するオーナーは、高価なDPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)を装着してNOx・PM規制に対応するか、泣く泣く愛車を手放すかの二者択一を迫られることになった。
こうした経緯もあり、三菱ジープやトヨタ・ランドクルーザーなどの人気車を除くと、ディーゼルエンジンを搭載した旧車がこのときに数多く処分されてしまった。何かしらの救済策を取ることもなく、行政が率先して「ディーゼル車は悪者」とのレッテルを貼って排除の論理を振りかざしたことは、返す返す残念でならない。