海上自衛隊の最新哨戒ヘリコプター「SH-60L」は、中国の潜水艦とどう戦うのか?

海上自衛隊 館山航空基地サマーフェスタにて展示されたSH-60L哨戒ヘリ。昨年末に開発が完了したばかりの最新機だ(写真/ふにに)
昨年2023年末、海上自衛隊の新型ヘリコプター「SH-60L」の開発が完了した。見た目にはこれまでの「SH-60K」と変わるところがないが、その対潜水艦能力は大きく進化している。【自衛隊新戦力図鑑】
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

日本育ちのSH-60シリーズ

海上自衛隊ではアメリカ海軍のSH-60Bをベースとして、独自の対潜機材等を搭載したものを「SH-60J」として1991年に導入した。のちに、同機をベースとして、三菱重工と防衛庁(当時)による大幅な再設計を経て「SH-60K」が開発され、2005年の登場から現在まで使用されている。

上が従来のSH-60K、下がSH-60L。外観はほぼ同じ。わずかな違いとして機体側面、「日の丸」の国籍表示の後ろあたりに、L型は四角い出っ張りが追加されていることがわかる。これはレーザー警報装置で、L型で追加された(写真/ふにに)

K型は日本の優れた技術力が盛り込まれ、特に「着艦誘導支援装置」は、艦艇のヘリ甲板に自動着艦できる世界で初めて実用化されたシステムである。筆者は偶然にも開発に関わった幹部隊員とSH-60Kで同乗したことがあるが、レーザーによる艦と機体の相対位置の把握や、艦の揺れを考慮したホバリング制御など、高度な計算に基づくものだと説明してくれた。このシステムにより夜間や視界が悪い状況でも、安全に着艦でき、操縦者の負担を大きく軽減した。

2023年末に開発を完了した「SH-60L」では、さらに飛行制御システムの能力が向上し、さまざまな状況でパイロットをサポートするという。たとえば、海中に吊下げ式ソナーを下ろすときのホバリング飛行や、敵ミサイルからの回避行動など、難しい場面でも熟練パイロット並みの操縦を可能とするようだ。

正面から見たSH-60L。機体下部、向かって左側の白い球形の物体はEO/IR(光学/赤外線)センサー。K型ではグレーのFLIR(赤外線前方監視装置)が搭載されていた。両者とも形状はほぼ一緒だが、色が違う(写真/ふにに)

味方と連携して敵潜水艦を狩り出す新戦術

哨戒ヘリの主要な役割である敵潜水艦の探索という点でも、大きな能力向上が図られている。というより、そもそも周辺諸国の潜水艦技術が急速に発展し、静粛化・ステルス化が進んだことが、L型開発の要因となっている。

これまで、吊下げ式ソナーによる敵潜水艦の捜索・追跡は単機ごとに行っていた。つまり、一つの吊下げ式ソナーが音波を発し、敵潜水艦からの反射波を受信する両方の役割を演じた。だが、L型では複数のヘリや護衛艦と連携し、味方が発した音波を、その他のヘリ・護衛艦で受信する。これを「マルチスタティック・オペレーション」と呼び、単独のソナーよりもより広い範囲を捜索でき、探知の確度も向上させることができる。

吊下げ式ソナーの使用例。写真はアメリカ海軍のMH-60R。このようにキャビンから円筒形のソナーを海中に下ろして使用する(U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Kenneth Abbate/Released)

ただし、音波は単に受信できればいいというものではない。発信源の位置と発信時間がわからなければ、敵潜水艦の位置を計算できないからだ。また、探知の精度を高めるためにも味方の目標情報を統合するする必要がある。マルチスタティック・オペレーションでは、味方間での情報共有、データリンクが欠かせないのだ。SH-60Lは「適応制御ミリ波ネットワーク・システム」を搭載し、高速大容量の移動通信を可能としている。

マルチスタティック・オペレーションとは、ある艦艇(またはヘリ)が発信した音波の反射波を他の味方が受信するもの。複数(マルチ)による作戦なので「“マルチ”スタティック」。このためには味方間の情報共有が必要となる(画像/防衛省)

SH-60Lは、令和5年度(2023年度)に6機、令和6年度(2024年度)に6機が予算計上されており、段階的に既存のSH-60を代替していくことになるだろう。中国の潜水艦戦力は増勢と高性能化が続いており、大きな脅威となっている。SH-60Lは、それらに対抗できる重要な装備と言えるだろう。

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綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…