個性的だった360cc軽自動車 今回はマツダR360クーペ!

マツダ R360クーぺ(1960)ふたりだけの、宇宙船 【週刊モーターファン ・アーカイブ】

いかにも愛嬌のあるフロントビュー。ヘッドランプまわりを別体構造とすることで生産性を高めているが、その造形のさじ加減で表情は大きく変わる
世の中はスバル360にわき上がっていた。誰もがクルマを買えそうな時代。そこに登場したのが、安価な2+2クーペ。割り切りを「おしゃれ」に変えた、究極のコストダウンだった。
週刊モーターファン・アーカイブでは、これまでのモーターファンの懐かしい秘蔵データから毎週1台ずつ紹介していく。
解説●小野里誠(モーターファン別冊 360cc軽自動車のすべて より 2015年刊)
最も個性的なのは、ラウンドしたリヤウインドウ。その直下に小さなリヤシートを配置するがほとんど子供用。ただし2人のための荷物スペースと考えれば、ちょっと優雅な気分になったりもする。1960年6月撮影。

東洋工業(現在のマツダ)が、初めて手がけた四輪自動車がこのマツダR360クーペで、1960年に発表・発売された記念すべきクルマだ。当時の軽自動車といえば、トラックやバンといったもっぱら実用優先のモデルが主流で、軽自動車の寸法規格をフルに使って、居住空間というよりも積載能力をセールスポイントとするクルマが多かった。

そんななかでR360が目指したのは「乗用車」であり、しかもオシャレでスタイリッシュなクーペ・デザインで、軽自動車戦線の勝負に挑んだ。

最大の勝因は2+2に割り切ったこと。2人で使う前提とすることで、室内や荷室は一気に広くなった。誰のためのクルマかを明確化したことで、たどりついたパッケージでもある。1960年6月撮影。

この時代に、軽自動車で敢えて今でいうところの2+2のシートレイアウトを採用。後席は子供用程度のスペースと割りきり、運転を楽しむクーペ=スポーツカー的なコンセプトが導入されていた。

当時の松田社長の号令一下、開発責任者となったのは後にロータリーエンジンの実用化を成功させた山本健一氏だったというのも、R360の誕生に関係があったのかもしれない。

エクステリアと一体化した、未来的インパネまわり。アクセルはオルガン式を採用。上級モデルではオートマチック・トランスミッションを採用する。
90度V型2気筒エンジンを搭載。かなりコンパクトで、 リヤエンジン用としても最適。エンジン本体は、かなり低い位置に搭載されている。

現在でもカワイイー! と感じさせるクーペ・スタイリングは、メカニズムも魅力的な先進機構を積極的に採用していた。エンジンは、強制空冷の4サイクルV型2気筒OHV356ccで軽三輪のK360をベースとしていたが、後にマツダのセールスポイントともなった「白いエンジン」の元祖でもあり、アルミ合金を多用して軽量化を図った。

最高出力は16psではあったが、90km/hの最高速度を誇り、ナイトハルト式のトレーリングアーム・トーションバーにオイルダンパーを装備した、4輪独立懸架を採用した。エンジンレイアウト&駆動は、V型2気筒をリヤに縦置きにしたRR方式だ。VW(フォルクスワーゲン)ビートルやスバル360の影響を感じなくもないが、当時として効率よく軽量に作ることのできるレイアウトとして注目されており、そんななかでも走りや乗り心地には高い評価が与えられた。

燃料タンク、バッテリー、スペアタイヤでほぼいっぱいとなるフロントのトランクスペース。その意味では、リヤシートの設置は荷物置き場として最適だ。
上が開閉レバーで、下がウインドウレギュレーター。ドアの内張は上下で異なるマテリアルが採用され、上質感を生み出している。
リヤエンジンなので、室内空間を確保しようと思えばキャビンフォワード的なスタイルになりがちだが、各ピラーを傾斜させることで、あたかもフロントを長く感じさせるスポーティさを演出できている。

ミッションには、4速MTの他に2速トルコン式が量産車としては日本初の採用となった。先進技術の投入と、30万円(トルコン式は32万円)という、スバルに対抗した戦略価格は功を奏して、発売初年度で2万3417台という売り上げを記録する大人気となった。

ただその後は、62年に登場した完全な4人乗りの乗用車、4気筒エンジンを搭載した同社のキャロルが軽乗用車の主力となり、R360クーペの生産は66年で終了となった。

SPECIFICATIONS:R360 Coupe BB型 (1960)

〈寸法重量〉
全長:2980mm
全幅:1290mm
全高:1290mm
ホイールベース:1760mm
車両重量:375kg 
乗車定員:2+2人
〈エンジン〉
空冷90 V型2気筒
ボア×ストローク:62.0×59.0mm
総排気量:356
最高出力:16ps/6000rpm 
〈トランスミッション〉
4MT
〈駆動方式〉
RWD 
〈サスペンション〉
前・スイングアーム式 後・スイングアーム式 
〈タイヤサイズ〉4.80-10-2PL
〈最高速度〉90km/h
〈価格・当時〉30.0万円

キーワードで検索する

著者プロフィール

MotorFan編集部 近影

MotorFan編集部