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NCAPとはクルマの安全性能の指標
ダミー人形を乗せたクルマが障害物に衝突する映像を見たことがある人も多いだろう。あれは「NCAP(New Car Assessment Program)」と呼ばれるプログラムに従って新車の衝突安全性を評価しているときの試験映像だ。
各国で行われるNCAPを統括するのが「Global NCAP」という国際団体であり、日本ではそれに準じた「JNCAP」という独自のプログラム用いて、日本自動車事故対策機構(NASVA)が試験を実施している。
NASVAでは販売台数が多い車両を購入し、機能の調査や実際の事故に見立てた内容の試験を行う。そして、結果に応じてクルマごとに評価づけを行い、そのデータを公表するのが日本におけるNCAPの取り組みだ。
つまり、NCAPとは車両がどれくらい安全であるかを評価する指標であり、ユーザーはNCAPの評価を車を選ぶ際の参考にできる。また、NCAPの評価は自動車メーカーの車両開発にも活用されている。
クルマの安全性を見える化! NCAPの評価項目と評価方法
NCAPによる安全評価項目の主軸となるのは「衝突安全性能」と「予防安全性能」だ。その評価方法は多岐にわたり、衝突安全性能の評価項目だけでも以下のようなテストが実施される。
- 正面衝突試験(フルラップ前面衝突)
- 対向車との部分衝突試験(オフセット前面衝突)
- 側面衝突試験
- 衝突後の感電保護性能試験
- 後面衝突時の頚部保護性能試験
- シートベルト着用警報装置試験
- 歩行者保護性能試験
衝突安全試験では衝突させる速度や位置、角度が厳密に決まっており、同一条件下で衝突した際のクルマの変形量や、乗員に見立てたダミー人形がどれくらいの損傷を受けたかを確認し、評価点に応じてA〜Eの5段階評価が下される。
予防衝突安全性能試験では、自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)や車線逸脱抑制機能、ペダル踏み間違い機能などの性能に試験結果や動作状況に応じて点数が付けられ、同じく得点に応じてA〜Eの5段階の評価が付けられる。
これらの点数に加え、2020年度から評価に加えられた「事故自動緊急通報装置」の有無や性能も点数として加算され、獲得した総合得点がそのクルマの総合評価だ。
総合評価は得点に応じた星の数で表され、最高評価である5つ星を獲得した車両には「ファイブスター賞」の称号が与えられる。さらに、その年でもっとも安全性に優れたクルマには「ファイブスター大賞」が贈られる。
つまりNCAPの安全性評価は、衝突安全性能/予防安全性能の評価に加え、事故自動緊急通報装置などの安全装備による評価を加味して総合的な安全評価が決まるということだ。
自動車メーカーはより安全なクルマを目指して製造しているが、実際のところユーザーが安全性を確認することは難しい。とくに、衝突安全性の良し悪しをユーザーが判断することは不可能だ。
分かりづらいクルマの安全性を第三者の立場で評価を下し、誰でも確認できるようにするのがNCAPの役割と言えるだろう。
NCAPで高評価を得たクルマは本当に安全?
NCAPの評価が高いほど、安全な車であるのは間違いない。ただし、この評価はあらゆる状況下での安全を保証するものではないことだけは覚えておきたい。
とくに衝突安全性能に関しては、対象と衝突する速度や面積、角度などによって被害の規模も大きく変わってくる。
NCAPの試験は規格化された条件で行われるため安全性の比較には非常に有効だが、実際の衝突事故に対する安全度を正確に評価することは難しい。
また、普通車と軽自動車が同等の安全評価が下されるのに疑問を抱くユーザーも多いだろう。それどころか、普通車よりも軽自動車の安全評価のほうが高い場合も珍しくない。
車重が軽い軽自動車は事故の程度も軽度になりやすい事実はあるが、それは単独事故や停車中のクルマに衝突した場合に限定される。
両車が動いている状況での車両相互事故ともなると、相手側のクルマの速度と質量が大きく関わってくるうえ、車体が小さくクラッシャブルゾーンが狭い軽自動車は、絶対的な衝突安全性能で普通車に対して劣るのは確実だ。
クルマの衝突安全性能をわかりやすい形で提示してくれるNCAPの評価は、より安全なクルマを選ぶうえでこれ以上ない具体的な指標となる。
しかし、その評価はあくまで参考として解釈するとよいだろう。またNCAPの衝突安全評価でクルマを選ぶなら、普通車と軽自動車を分けて比較するのがよさそうだ。