抜群の燃費、VWゴルフTDI。いまでも、ディーゼルはアリか?

VWゴルフTDI Style
現行フォルクスワーゲン・ゴルフは「8」である。パワートレーンは、1.0L直3/1.5L直4ガソリンターボ+48Vマイルドハイブリッドと2.0L直4ディーゼルターボ。ゴルフ8.5の登場が予告されているが、そこでもディーゼルは残る。ディーゼルを積むゴルフTDIとはどんなモデルで、その走りと燃費は、いまだ存在価値アリだろうか?

搭載するEA288evoとはどんなエンジンか

ボディカラーはアトランティックブルーメタリック

久しぶりにVWゴルフのステアリングを握った。現行ゴルフ、つまりゴルフ8である。PQ35プラットフォームだったゴルフ6が、ゴルフ7でMQBプラットフォームに切り替わったのが2012年。現行のゴルフ8が登場したのが2019年(日本導入は2021年)だ。MQBゴルフになってすでに10年以上経っているのだ。

ゴルフ6まであった「ザ・Cセグ・メートル原器」感は、MQBの7でだいぶ薄れ、ゴルフ8になると、かつての圧倒的な存在感はなくなった。しかし、乗れば、「やっぱりゴルフはいいね」となる。相変わらず、CセグのベンチマークはやはりVWゴルフなのだ。

ゴルフ8は、マイナーチェンジを受け、通称「ゴルフ8.5」へ進化。9月に受注が開始され、2025年1月から出荷が開始される。今回試乗した現行コルフは、「在庫限り」となる。

さて、試乗したのは2.0L直列4気筒ディーゼルターボを搭載した「TDI」である。正確にはTDI Styleだ。なぜ、いまTDIを試乗したのか、といえば、理由はふたつ。まず、ゴルフ8から8.5にマイナーチェンジを受けた後も、2.0Lディーゼルはラインアップに残るから(1.0L直3ガソリンターボをカタログ落ち)。そして、2020年代半ばのいま、「ディーゼルってアリ?」かどうかを試してみたかったからだ。

ボンネットフードを開けるとこう見える。ボンネットにダンパーはない。これまで1系統だったSCRシステムを直列2系統化したのがEA288evoのポイント。2系統にしたことで、AdBlueの消費量は従来と同等ながら従来よりNOxの排出量を最大80%削減できる。EURO6dに適合している。
ご興味のある方はあまりいないと思いますが、これがエンジンカバー。
裏側はこうなっている。なかなか凝ったつくりだ。
エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
エンジン型式:EA288 evo型
排気量:1968cc
ボア×ストローク:81.0mm×95.5mm
圧縮比:16.0
最高出力:150ps(110kW)/3000-4200rpm
最大トルク:360Nm/1600-2750rpm
過給機:ターボチャージャー
燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
使用燃料:軽油
燃料タンク容量:51L

まずは、エンジンから。搭載しているのは、EA288 evo型2.0L直4ディーゼルターボだ。最高出力150ps/最大トルク360Nm。組み合わせるトランスミッションは、湿式クラッチの7速DCTである。

「2.0L直4ディーゼルで150ps/360Nmって結構控え目?」なのかと思って、ライバルの数字を調べてみた。

モデル名エンジン型式排気量最高出力/最大トルクWLTCモード燃費
VWゴルフTDIEA288 evo2.0L150ps/360Nm20.0km/L
メルセデス・ベンツA200dOM6542.0L150ps/320Nm20.4km/L
BMW118dB47C20B2.0L150ps/350Nm16.7km/L
プジョー308BlueHDi1.5L130ps/300Nm21.6km/L
MAZDA3SKYACTIV-D1.81.8L130ps/270Nm20.0km/L

意外や、ゴルフTDIがもっとも高出力だったのだ。ちなみに、メルセデス・ベンツもC220dに積む2.0L直4ディーゼル(OM654M)だと200ps/440Nm、BMWも320dに積むB47型は190ps/400Nmとなる。VWも同じ2.0L直4ディーゼルもパサートに積んだら190ps/400Nmの仕様になる。

全長×全幅×全高:4295mm×1790mm×1475mm ホイールベース:2620mm 車両重量:1460kg 前軸軸重910kg 後軸軸重550kg
トレッド:F1535mm/R1505mm
最小回転半径5.1m

ゴルフTDI Styleのディーゼルは、「軽く回る」エンジンだ。ディーゼル特有の~からっとした音はする。アイドルストップからの再始動もやはりディーゼルっぽい。うるさいか、と問われたら、「さほどでもない」と答えるが、「ディーゼルと思えないほど静か?」と問われたら、「いや、それなりに音はする」と答える。Cセグのベンチマーク、ゴルフなら「これで充分以上」だが、パサートや3シリーズだったら同じフィーリングでも、「もう一声、NV性能を上げたい」と思うだろう。

とはいえ、1460kgの車重に360Nmのトルクはやはり強力だ。ゴルフGTI(2.0L直4ガソリンターボ 370Nm 1430kg)と大きな差はないのだから。高速道路の合流や追い越しなどの中間加速も余裕。

ちなみに、巡航でのエンジン回転数は
100km/h走行時1400rpm弱
110km/h走行時1600rpm
120km/h走行時1800rpm弱

程度(メーター読みで)。だから、高速巡航時はとても静かだ。

燃費を詳しく見てみる

今回5日間、ゴルフTDIに乗せていただいた。毎回のドライブ燃費を記録してみた。

走行距離平均速度燃費
12km16km/h12.5km/L
12km16km/h13.5km/L
18km18km/h14.4km/L
20km27km/h17.9km/L
167km59km/h21.0km/L
331km63km/h25.2km/L
12km17km/h14.8km/L
19km25km/h18.6km/L
38km25km/h16.8km/L
107km42km/h20.0km/L
総走行距離平均速度平均燃費
551km39km/h20.8km/L

一回の走行距離が短く、平均速度が低いときの燃費は、あまり冴えない。ここはディーゼルエンジン搭載車の苦手分野だ。一方、長距離・高速走行は得意だ。今回も東京~長野間往復の燃費は、331km/63km/hで25.2km/Lと非常に優秀だった。

トータルでは走行距離551km/平均速度39km/hで20.8km/L。WLTCモード燃費以上の数字をマークした。

ゴルフTDIのモード燃費は
WLTCモード燃費:20.0km/L
 市街地モード 14.0km/L
 郊外モード 20.3km/L
 高速道路モード 24.2km/L

それぞれのモードの平均速度は
WLTCモード 36.6km/h
 市街地モード18.9km/h
 郊外モード39.5km/h
 高速道路モード56.7km/h(最高速度は97.4km/h)
だ。

ゴルフの生まれ故郷の欧州では上記の3モードのほかに超高速モード(エクストラハイ)が追加される。これは、平均92.0km/h(最高速度は131.3km/h)だ。ゴルフTDIが高速走行を得意とするのは、ある意味当然なのだ。

もっとも苦手なのは、短距離・低速(これはICEならみなそうだが)。12km程度の走行だとエンジンの暖機にエネルギーを喰われてしまうから、当然燃費は悪くなる。市街地のストップ&ゴーも、得意科目とは言えない。

1km走るのにいくら?

今度は燃費を「燃料代」に換算してみよう。資源エネルギー庁の8/26のデータによると
レギュラーガソリン:174.5円/L
軽油:154.2円/L
データにはないがハイオクはレギュラー+11円程度と考えて186円/Lとする。

するとゴルフTDIの20.8km/Lの燃費は7.4円/km(1km走行するのに7.4円かかる)となる。WLTCモード通りで計算すると7.7円/kmだ。1.5L直4ターボ+48VマイルドハイブリッドのeTSI StyeのWLTCモード17.4km/Lは10.7円/km。その差は3円/kmになる。
ゴルフTDI Style:455万5000円
ゴルフeTSI Style:433万1000円
価格差は224000円だから、74667km走ると燃料代の差でディーゼル代がチャラになるわけだ。厳密にはAdBlue(尿素水)のコストもかかるから、もう少し走らなければいけないかもしれないが。

いずれにせよ、TDIを選ぶべき人は、年間の走行距離が12000km以上、普段の移動が近所のチョイノリばかりではない人だろう。

ゴルフTDIのモード燃費は
 市街地モード 14.0km/L
 郊外モード 20.3km/L
 高速道路モード 24.2km/L

eTSI Styleのモード燃費は
 市街地モード 13.1km/L
 郊外モード 17.1km/L
 高速道路モード 20.5km/L
だから、どのモード走行に当てはまる移動が多いか考えるのがいいと思う。

とはいえ、BMW320d(F30型)を普段の足に使っている筆者も、もっとも多い移動パターンは、13-14km程度の市街地内移動だ。年間走行距離約11000km。それでもトータル燃費は17.3km/LとDセグセダンとしては優秀な数字に満足している。

ディーゼルのもつ大トルクによる余裕のある走りはガソリン車ではなかなか代えがきかない。では、モーターによる大トルク、つまりBEVならどうか、いえば、今度は1タンクで走れる走行距離がディーゼルとはちがう。今回のゴルフTDIの航続可能距離は20.0km/L×51Lで1020km。実走行でも走行距離551kmで残りは490kmとなっていた。つまり1041km。1タンクで1000km走れるというのは、やっぱり大きな魅力になる。

インフォテインメントシステムは△

センターディスプレイは10インチ
Cセグの見本のようなリヤの居住性
フロントシートはファブリック製

サイズといい、燃費といい、走りといい、相変わらずゴルフはいいクルマだった。問題は……インフォテインメントシステムの使いづらさ。マイカーにして慣れれば問題ないのかもしれないが、5日間ではまったく馴染めず。ナビゲーションも使いにくく、結局iPhoneを繋いでAppleCarPlayを使うことになった。

インテリアの質感も、ゴルフに期待する「質実剛健感」とはやや異なる。来年には日本に入ってくるゴルフ8.5では、インフォテインメントシステムが大幅アップデートされ、MIB4になるという。センターディスプレイは12.9インチ(現行は10インチ)へ拡大。音声による機能操作の幅も広がる。おそらく、使いやすくなっているだろう。

インフォテインメントシステムは率直にいって使いづらい。

2020年代半ばのいま、ガソリン/ハイブリッド/PHEV/BEV/ディーゼルなどのパワートレーンが選べる。ディーゼルには、逆風が吹く。その逆風を生み出したのは他ならぬフォルクスワーゲンなのだが、そのいっぽうで、そのディーゼル技術は、いまだ高いレベルにある。ディーゼルを選ぶと幸せになれる人は、もちろんいる。ひとつのパワートレーンがほかのすべてを淘汰する時が来る(とは思えないが)まで、ディーゼルの存在価値はある。だからこそ、ゴルフ8.5でもTDIは残るのだろう。

インフォテインメントシステムが大幅刷新されるゴルフ8.5 TDIに期待したい。

タイヤサイズは225/45R17サイズ ミシュランPRIMACY⁴を装着。ちなみに、ブレーキはよく効くが、ダストでホイールは汚れやすい。
リヤサスペンションは4リンク式
フロントサスペンションはマクファーソンストラット式
VWゴルフTDI Style
全長×全幅×全高:4295mm×1790mm×1475mm
ホイールベース:2620mm
車重:1460kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 R4リンク式
エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
エンジン型式:EA288 evo型
排気量:1968cc
ボア×ストローク:81.0mm×95.5mm
圧縮比:16.0
最高出力:150ps(110kW)/3000-4200rpm
最大トルク:360Nm/1600-2750rpm
過給機:ターボチャージャー
燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
使用燃料:軽油
燃料タンク容量:51L

トランスミッション:7速DCT
駆動方式:FF
WLTCモード燃費:20.0km/L
 市街地モード 14.0km/L
 郊外モード 20.3km/L
 高速道路モード 24.2km/L
車両本体価格:455万5000円
メーカーオプション:Discover Proパッケージ20万9000円/テクノロジーパッケージ19万8000円
ディーラーオプション:3万6300円

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著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…