超希少な本物の240ZG。だからこそノーマルで乗りたい!
旧車イベントの会場では日産車の割合が比較的高いもの。スカイラインやフェアレディZの人気は高く、残存台数も多いというのがその理由。ただ、展示されているスカイラインやZたちは大抵、カスタムやチューニングされた個体が多いことも特徴。しかしこの日は、足元以外はノーマルを保っている240ZGを見つけることができた。オーナーご夫婦がそばにいたので、すかさずお話を聞いてみた。
国産車として世界的に最も人気が高かったスポーツカーといえば、フェアレディZとマツダ(ユーノス)・ロードスター。旧車が好きな人にとっては、やはりロードスターより初代S30型フェアレディZというイメージではないだろうか。
S30Zは言わずと知れた1969年発売の2シータークーペで、当初からアメリカを中心に積極的な輸出が行われ、海外では安価ながら高性能なスポーツカーとして大ヒット。当初、国内仕様が2リッターエンジンだけだったことに対し、輸出仕様は2.4リッターエンジンだったこともヒットの要因だろう。
その輸出仕様240Zが国内に導入されたのは1971年のことで、国内レースに起用された直列6気筒DOHCエンジン搭載のZ432に代わるモデルという意味合いもあった。その240Zのトップグレードに用意されたのが240ZG。ロングノーズとオーバーフェンダーを装備して、標準車とはルックスから異なる個性を放っていた。
このスタイルが初代S30Zのなかで最も人気が高いともいえ、多くのS30が「エアロダイナノーズ」、俗称Gノーズやオーバーフェンダーを後付けしたもの。本物が売れなかったのは当時、国内で3ナンバー車の税率が非常に高額で、まして2シーターのスポーツカーを普通の人が維持できるものではなかったから。そのため現在では希少車という意味もあって中古車相場は高騰を続け、1000万円あっても買えない存在になってしまった。
貴重な240ZGを所有されているのは橋本康之さん。現在58歳の橋本さんが26年前に手に入れたのがこの240ZGで、その当時は今のような中古車相場ではなかった。
とは言っても購入当時ですら人気は高く、多くの240ZG仕様が市場に流通していた時代。あえて本物を選んだのは、長くフェアレディZファンを続けてきたからだ。そのためだろう、この240ZGは改造するのを控え、ボンネットにダクトを追加して車高を下げてホイールを変更した外観に留めている。
室内に目を転じてもノーマルを保っている印象は変わらない。割れやすいダッシュボードはヒビすらなく、ステアリングホイールを純正からダットサン・コンペと呼ばれるオプション部品に変更しているくらい。このステアリングはレプリカ品があるほど人気が高く、当時作られた本物は、実車同様にプレミア価格になっている。
1970年代のスポーツカーというと、メーターが数多く並んでいるイメージが強い。S30Zではドライバーシート正面に大型の速度計と回転計が配置され、ダッシュボード中央付近に3連メーターが並ぶスタイルを採用していた。
この240ZGでは、240km/hスケールの速度計や8000rpmまである回転計は純正だが、3連メーターのうち油圧計と水温計は社外品に交換されていた。おそらく普段乗っている時にクルマの状態を正確に把握したいからだろう。
シートも社外のセミバケットタイプに変更されている。純正シートは破れやすいうえにサイドサポートも不足気味だから、多くのS30Zで変更されているポイントと言っていい。
エンジンルームはさらにオリジナル度が高い。フルトランジスタ点火システムやプラグコードなど点火系を変更したくらいで、極めてノーマルな印象。
L型エンジンといえば3連ソレックス、というくらいキャブレターを変更している個体が多いのだが、この240ZGには純正のSUツインキャブが残されていた。ノーマルの性能を味わいたい橋本さんの意向が端的に表れている部分だろう。SUキャブでもしっかり調整されていれば驚くほどよく走るという。純正のまま性能を保つのは、実は一番大変なこと。それだけにオーナーの愛情を強く感じる1台だった。