キャンピングカーは本当に災害シェルターに適しているのか? 初心者向けの車両は?装備は?

昨今、地震や大雨など自然災害に見舞われることが多いが、避難シェルターとして注目されてきたのがキャンピングカーである。自宅以外のスペースで、プライバシーが保たれて平らなベッドで寝られるキャンピングカーは、災害シェルターとして本当に役立つのだろうか。改めて検証していきたい。

TEXT&PHOTO:山崎友貴(YAMAZAKI Tomotaka)

注目度が上がる避難シェルターとしてキャンピングカー

昨今、地震や大雨など自然災害に見舞われることが多いが、その時に必ずといっていいほど危惧されるのが避難生活だ。大抵は体育館などの公共施設がそれにあてがわれることが多いが、プライバシーといった問題が浮上する。そんな中、2011年の東日本大震災以来、避難シェルターとして注目されてきたのが、キャンピングカーである。

東日本大震災時、筆者も東北各地の避難所をボランティアで巡ったが、その生活は苛酷と言えるものだった。まだ春浅い時期だったこともあるが、被害の範囲が広域にわたったことからインフラが十分に回復せず、避難した人たちは様々な面で不便と苦労を強いられた。

レジャー用途だけでなく、災害時のシェルターとしてもキャンピングカーが注目されている。

特に雑魚寝状態での避難所生活は、被災者に健康面・精神面の両方でプレッシャーを与えた。快適とはほど遠い住環境に加えて、プライバシーが一切ない空間が被災者に大きなストレスを加えたのである。中には、被災を逃れた自家用車の中で暮らす人もいたが、無理な体勢で何日も過ごしたために、エコノミー症候群を発症する人が多かった。

この経験から巷で注目され始めたのが、キャンピングカーである。自宅ほどではないにしろ、プライバシーが保たれて、平らなベッドで寝られるキャンピングカーは、避難シェルターとして有効だということになったのである。

実際、2011年を機にキャンピングカー市場は成長傾向を見せ始め、特に軽キャンパーは需要を大幅に伸ばした。2024年は正月の能登半島地震を筆頭に災害が続いており、ユーザーのキャンピングカーへの関心はさらに上がっている。加えて、日本RV協会は能登半島の被災地に39台のキャンピングカーを派遣するなど、世間の注目度はさらに高まっているのである。

しかし、果たしてキャンピングカーは災害シェルターとして本当に役立つのだろうか。改めて検証していきたい。

どのタイプのキャンピングカーを選べばいいの?

私事だが、実は今年筆者もキャンピングカーを購入した。タウンエースバンをベースしたバンコンモデルなのだが、これを買った理由のひとつが愛犬との避難生活なのである。最近は愛犬を同伴できる避難所の設置もあるようだが、多くはペット禁止の場合が多い。そんなケースを考えると、自己防衛策としてキャンピングカーが最適だと思った次第である。

筆者が購入したキャンピングカー。避難シェルターとしての備えだけでなく、ペットを連れての旅行など行動範囲が広がった。

だが、実際キャンピングカーを使ってみると、災害時への備え・準備がかなり必要なことが分かってきた。またタイプ選びも重要なことも痛感した。

まずタイプ選びから考えていきたい。キャンピングカーは「バンコンバージョン」「キャブコンバージョン」「軽キャンパー(軽バンコン)」というカテゴリーが、日本ではお馴染みのタイプとなっている。「バスコンバージョン」や「フルコンバージョン」といったタイプもあるが、これはそこまで一般的とは言えない。

購入にはまず予算を考えると思うが、価格順で並べれば「軽キャンパー」<「バンコン」<「キャブコン」という順になる。ただし、これは追加装備で逆転する場合もあるので、頭に入れておきたい。

悪路走破性の高いハイラックスをベースにしたキャブコンなど個性的な車両もある。

軽キャンパーは上級者向け?

さてキャンピングカー選びで考慮したいのが、安い=初心者向けではないということだ。筆者は日頃から言っているが、一見手が出しやすい軽キャンパーは必ずしもビギナーには向いていない。車中泊というものを理解していて、しかも整理整頓、DIY、環境への柔軟な適応力などが求められると、個人的には思っている。

その理由は、居住空間と装備だ。モデルによってはワンボックスカーベースのバンコンを凌駕するものもあるが、大抵は日常的な乗車仕様かベッドの2択。収納スペースは車格に比例して少ないし、大人2名で何日も寝泊まりした場合に、パーソナルスペースはほとんどない。

こう書くと軽キャンパーが悪いように誤解されるかもしれないが、そうではない。あくまでもビギナーが使うには、いろいろとテクニックが必要になるということなのである。

キャンプもしたことのないビギナーにオススメするなら、間違いなくキャブコンである。キャブコンなら家と変わらない居住空間だし、自分で創意工夫して何かをプラスする必要がほとんどない。すべてオプションを追加すればいいから、お金で解決ができるのである。

価格は高いが、装備が充実したキャブコンは初心者向けと言える。家と変わらない快適な居住性を確保できる。

高齢者やファミリー層は、間違いなくキャブコンが向いていると言っていい。もちろん、居住スペースは限られているが、ダイネットは使いやすいし、モデルによっては常設ベッドを備えているので、いちいちシートをベッドに変える必要がない。トイレやシャワースペースが付いているモデルもあるから、長期間の避難生活にも対応できるはずだ。

キャブコンなら、リビングスペースと寝室を分けることができるし、トイレや水回りも快適に使える。

軽キャンパーとキャブコンの中間的な位置にあるのが、バンコンだ。ただ一口にバンコンと言っても、キャブコンなみの装備を持っているモデルもあれば、ダイネットとベッドだけのシンプルなモデルもある。当然ながら、シンプルなものほど、車中泊に対する知見が必要となってくる。ただし、バンコンは普段使いという点でも優れているので、どれを買うか迷ったらバンコンを選ぶのは無難と言えるだろう。

ハイエースやタウンエースなどをベースにしたバンコンなら、サイズ的に日常使いもこなすことができるので、バランスの良い選択と言えるだろう。

災害シェルターといっても、重要な日常でどう使うか。キャブコンは日常性という点で言えば、ほぼない。買い物に使っているユーザーもいるようだが、やはり敷居は高いと言えるだろう。一方、バンコンや軽キャンパーなら普段使いに何の問題もない。

最重要なのは電力の確保。ソーラー発電はオススメか?

さて、購入するタイプが決まったとして、納車されれば防災への対応は万全かと言えばそうではない。キャンピングカーは災害時無敵だという論調を展開している向きがあるが、個人的にはこれは正しくはないと思う。いくら装備が充実していても、それを稼動させられなければ、別にミニバンでも同じだからだ。

装備を稼動させる源は、基本的に電力だ。コンロはガスカートリッジ、FFヒーターは燃料で燃焼させるが、電灯、水道ポンプ、エアコンは電力が必要となる。周知の通り、キャンピングカーにはサブバッテリーが備わっており、これによって駐車時の電力をまかなう。しかし、これも無限ではないし、外部電力はインフラを使うために災害時は使用不可と考えるべきだ。

サブバッテリーシステムを考える時、“鉛かリチウムイオンか”“容量はどれくらいにするか”といったことが重要な選考基準になるが、災害時には「すべての電力を使い切った時、次はどうするか」がテーマになる。サブバッテリーを積んだキャンピングカーは大抵、走行充電システムを搭載しているが、東日本大震災の時はその燃料の入手が困難だっだ。サブバッテリーを充電するために、いちいち走って燃料を消費していたら、到底生活が維持できない。

走行充電用の燃料や外部電源が無い場合でもソーラーパネルなら発電できる。ただ、太陽光の強さに発電量が影響されるので、サブバッテリーとポータブル電源との合わせ技で備えることをオススメする。

そこで考えたいのが、ソーラー充電システム。自然エネルギーを使うソーラー充電なら、仮に被災地で孤立していても電力を確保することができる。ただ、充電効率には太陽の強さが影響するし、冬場であれば1日充電してもフル充電にならないことも想定しなければならない。

そこで、ポータブル電源をさらにプラスすることで、サブバッテリーの脆弱さを補完するわけである。ポータブル電源にもソーラーパネルを用意しておくことで、電力の“空白”を極力無くすことができるはずだ。ちなみにポータブル電源は1000W以上を用意しておかないと、あまり実用的ではないということも付け加えておきたい。

電力の次は水とトイレ問題。

電力に次は、水である。これは、タンクを多く用意することで解決できる。水と同時に重要なのが、トイレである。どんな状態にあっても、排泄だけは避けられない。最近は優れた性能のポータブルトイレが多く販売されているが、筆者が用意しているのは、プラスチック製の箱である。組み立てると、便座が付いたトイレになる。

そこにビニール袋を入れて、凝固剤や消臭剤を入れて使うのだが、これが以外と高価だ。長期間の避難生活を考えると、あまり現実的ではないように思える。車中泊コミュニティのユーザーから、いいアイデアを伝授してもらった。それは猫砂の代用だ。猫砂をビニールに入れて用を足せば、凝固や消臭効果が得られるというのである、しかも猫砂は安い。kg単位で売っているので、家にストックしておけば長期間の避難生活にも対応できる。もちろん水も使わない。トイレを使用する時の目隠しテントを準備しておけば、さらに安心だ。

キャブコンだと快適なトイレが装備されている車両が多い。

車外への拡張性も重要なポイント。

三番目に考慮したいのが、居住空間の拡張である。コンパクトなキャンピングカーほど、車内にずっといるのは苦痛だ。雨や雪といった悪天候のことも考えなければならない。車内以外に、第二の居住空間となるのが、サイドオーニングやカーサイドテントを装着した時の空間だ。

手軽に日よけ用の布幕を設営できるサイドオーニングもオススメ。避難生活だけでなくキャンプなどでも活躍する。

実際に使ってみると、そのありがたみが分かるのだが、例えばサイドオーニングの下にテーブルやチェアを置いておけば、車内をベッドにしたままでも、車外にダイネットを作ることができる。天候がよければ、ここで基本的に生活して、車内はくつろぎ時間や就寝のために使うという風にすれば、メンタル的にも全然違ってくる。

ちなみに、バンコンや軽キャンの屋根にポップアップテントを装着して、居住空間を拡張するという方法もある。

外に居住空間を拡張するのは、被害状況や避難場所の様子によって不可能な場合もあるが、日常的なオートキャンプをも劇的に快適してくれる装備なのでぜひ検討していただきたい。

加えて、4WDの設定がある車種であれば、これを選んだ方が心強いということもある。キャンピングカーのロードクリアランスなので悪路走破性はたかが知れているが、それでも冠水などが発生した場合には違いが出てくる。

あとは、水や食料、衣類、照明器具、ウェットティッシュ、トイレットペーパーといった一般的な防災用品を用意おけばいいわけだが、実はこれを十分に用意しておくのが一番大変だという話もある。しかし、こうした品がすべて揃っていてこそ、キャンピングカーの災害シェルターとしての機能が発揮できる。キャンピングカーがあれば災害でも安心…ということは、決してないことは理解しておきたい。

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著者プロフィール

山崎友貴 近影

山崎友貴

SUV生活研究家、フリーエディター。スキー専門誌、四輪駆動車誌編集部を経て独立し、多ジャンルの雑誌・書…