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アキュラMDX「タイプS」はダイレクト感や接地感を重視
前編ではアキュラMDXのアウトラインについて触れたが、後編は試乗インプレッションを中心にお届けしていこう。
ドアを開けて乗り込む際、真っ先に印象付けられるのは、やはり真っ赤なレザーインテリアの華やかさ。ダイヤモンド・ペンタゴンに象徴されるフロントマスクも、最近のSUVではちょっと珍しいほどの押し出しの強さで、乗っているクルマで個性を主張したい人にとっては、その頼もしい存在感がきっとプラスに働くことだろう。
大柄な割に視界がそこまで高くないのも、MDXのスポーティなキャラクターを物語っていると思う。走り出した時からすぐに感じるシャキッとしたフィーリングは、試乗車が「タイプS」であることも念頭に入れる必要がありそうだが、少なくともオフロード系SUVのゆるふわ系な乗り味とは別物。ダイレクト感や接地感を重視する走り好きには、間違いなく歓迎されるはずだ。
長くてワイドなノーズは日本の環境だと少し持て余してしまいそうだが、道幅が広く、あらゆる物のスケール感が大きいアメリカでは、そこまで気にならない。ギヤ比可変ステアリングのおかげか、タウンスピードでは想像以上にキビキビと曲がり、思った通りに動いてくれるコントロール性も実感できた。
スポーツ+は刺激的で乗り手のやる気を試す
そして、MDXの試乗で最も印象に残ったのが、ドライビングモードを任意に変更できるIDS(インテグレーテッド・ダイナミクス・システム)だ。ノーマル、スポーツ、コンフォート、スノー、インディビジュアル、そしてエアサスペンションを使って車高を上げたい時に使うリフトから選択が可能。タイプSの場合は、さらにスポーツ+も選択することができる。
それ自体はもはや珍しいものでもないが、MDXで感動したのは各モードを選択した時の変わり幅がはっきりしていること。文字通りコンフォートはしっとり穏やかで、快適な乗り心地を感じられる一方、スポーツやスポーツ+を選ぶと、本当に同じクルマかと思うほどパッとキャラ変してしまう。
なかでもスポーツ+は刺激的で、オートレベリング機能付きアダプティブエアサスペンションがたちどころに車高を抑え、クルマが戦闘体制に入ったことを知らせる。スロットルレスポンスが高まるのはもちろん、変速制御はダッシュ力重視に早変わりし、街中であれほどキビキビ感を示したパワーステアリングはドシっと安定。SH-AWDの応答性も上がって、ついついコーナーを積極的に攻めたくなる路面追従性を発揮する。メーターにはブースト計やGメーターも表示され、乗り手のやる気を試すかのようだ。
一方で、郊外のフリーウェイをのんびりと走りたいような時には、アダプティブ・クルーズ・コントロールとトラフィック・ジャム・アシストが活躍。ホンダ車で言うところのHonda SENSINGにあたるAcuraWatchには、先進的な予防安全支援機能が揃っており、安心感も高い。
今回の試乗で走行した距離は、1055.8マイル(約1700km)。最後に確認した平均燃費計の値は20.2mpg、約8.58km/Lだった。アメリカで燃費のメーカー公表値として使われるEPA燃費コンバインドモードは、実燃費との乖離が少ないことが多いのだが、実はメーカー公表値は19mpg。実走行で公表値よりも良好な燃費を記録したことは過去に記憶がない。
ラゲッジルームも十分過ぎる広さ
最後に前編で触れていなかったラゲッジルームについても記しておこう。サードシート使用時でもフロアの奥行きは約550mmあり、日常的な用途であれば十分過ぎる広さが確保されている。幅はフロア部分で約1150mm、サイドに備わるトレーまで含めた最大幅は約1390mm。開口部で計測した高さは約740mmだ。
5:5分割可倒式のサードシートを格納すると、奥行きは約1130mmまで拡大。開口部とツライチで、フラットなフロアとなり、非常に使い勝手がいい。4:2:4分割可倒式のセカンドシートまで格納した場合は、運転席背もたれまでの奥行きは約2150mmに達する。
日本のメーカーのブランドでありながら、日本人には今ひとつ掴みどころのない印象も残るアキュラ。だが、今回そのフラッグシップSUVに乗ってみて、かなり振り切ったスポーティブランドであることを実感することができた。ロサンゼルスの街中で最後の撮影をしていた時、MDXならば、きっと東京都心の風景においても埋没することなく、ハッと人目を奪うに違いないと確信した。