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ホイールからエアロパーツ、そしてコンプリートカーへ……
Modulo飛躍の原動力となったのは、翌年となる1995年の車両法の規制緩和から。インチアップ用のアルミホイールやサスペンション、そして、現代のModuloのコアとなるエアロパーツも手掛けるようになる。
当初はアルミホイールだけだったModuloの名を関したエアロパーツが登場するのは、1999年のこと。当時のホンダは、クリエイティブムーバーがヒットした後であり、オデッセイやステップワゴンなどのファミリーミニバンが大好評。ユーザー層の拡大に加え、主力車となったことから、愛車への差別にもエアロパーツが注目された。
もちろん、かつてハイソカーブームを過ごした世代や憧れた世代がユーザーに多く含まれていた影響もあったのだろう。その頃、大学生だった私は、土曜の新車ディーラーのチラシチェックで、良くModuloの名を目にした記憶がある。ただ当時は、性能向上のためというよりも、ビジュアル向上のためのブランドというイメージが強かった。
しかし、そこはホンダだ。見た目だけのパーツで満足できるはずもなく、1996年の5代目プレリュード(※現状、最後のプレリュード)用の純正エアロパーツから、空気力学を取り入れた機能を追求。風洞実験に加え、実走テストまで行っていた。その開発姿勢は現在まで受け継がれる伝統となっている。
Moduloの名を関して初投入されたエアロパーツは、1999年登場のS2000用のものから。幅広い車種展開の中には、しっかりと生粋のスポーツカーも加えた。実行性能ある空力効果を持たせることを目指し、走行安定性だけでなく、走りの武器となるエアロへの進化が始まった。ここからの取り組みが、ホンダアクセス独自開発思想となる「実効空力」へとつながっていく。
「実効空力」第一弾となるスポーツ モデューロ シビックタイプR
その第一弾となったのが、2008年登場の「スポーツ モデューロ シビックタイプR」だ。2008年1月の東京オートサロンで出展したコンセプトカーに装着されたパーツを商品化したものであった。
開発では、2007年スーパー耐久シリーズ年間チャンピオン(ST4クラス)となったHonda Accessシビック タイプRのノウハウを投入し、開発には土屋圭市氏も参加している。もちろん、サーキット専用という限られたステージのものではなく、一般道まで含め、幅広い楽しみを提供するものとされていた。
ベースとなったのは2007年に登場した4ドアセダンタイプのタイプR(FD2)で、専用のエアロフロントバンパー、サイドロワスカート、ディフューザー付きリヤエアロバンパー、ダックテールタイプのリヤスポイラー、スポーツサスペンションを追加したもの。
コンプリートカーではなく、あくまでアクセサリーパーツとして提供されていたが、エアロパーツの総額が約30万円+サスペンションが約19万円。つまり、総額約50万円+工賃等という価格設定だった(※発売当時の価格)。発売当時のタイプRの価格が、283万5000円だったことを鑑みると、購入を決断するにはそれなりの覚悟を必要としたことだろう。
スポーツモデューロ シビックタイプRは大人の味付け
驚くべきことに、そのスポーツモデューロ シビックタイプRに試乗させてくれるという。これはModulo30周年イベントで展示も行われていたもので、当時の雰囲気をしっかりと残しており、まるでタイムマシンのよう。
ホンダアクセスの担当者に、「よく残っていましたね」と尋ねると、実は、30周年記念のために、FD2を新たに入手して仕上げたものだという。もちろん、現在、当時のModuloパーツもすべて完売済み。そのため、かなり苦労があったようだ。走行距離も少なく、内外装も綺麗なクルマで、正直、試乗を遠慮したくなるほどの輝きを放っていた。
さて、当時を振り返ると、スポーツモデューロシビックタイプRは、なんとなく記憶に残っている。申し訳ないが、好印象とは言い難い。個人的にはアクの強いエアロデザインが、ちょっと気に入っていなかったからだ。しかも、タイプRセダン自慢だった大型リヤスポイラーも取り払われてしまい、少々迫力にも欠けるとも思っていた。
3ナンバー化でデカくなったとも言われたFD2だが、今となっては手頃なサイズ。個性的なデジタルスピードメーターとアナログタコメーターを組み合わせたメーターパネルも懐かしい。そして、高回転型NAを示す9000rpmスケールのタコメーターに嬉しくなる。
試乗コースはタイプRにふさわしいワインディングだが、生活道路でもある一般道のため、軽めのドライブとなった。走り始めこそビンビン回るエンジンとチタンシフトノブに興奮していたが、すぐに恐ろしく乗り心地の良いことに気が付いた。かつてのタイプRはインテグラ含めかなり乗り心地が悪いことで有名だったが、そのイメージとは重ならない。
しなやかにボディを動かし、路面が悪くともステアリングに嫌なキックバックもない。直線安定性が高く、雑味のある振動もない。とても16年前の日本車とは思えない良質な乗り味なのだ。これなら、当時のBMWのMスポーツの方が乗り心地は悪いだろう。そんな感覚に陥るほど恐ろしく大人な味付けなのだ。
そして、実効空力の凄みを感じたのは、コーナリングだ。よく切れるナイフのようなシャープさがありながらも、ステアリングからタイヤの手ごたえがしっかりと伝わるため、絶妙なコントロールが可能。誤解を恐れず言うならば、良い意味でタイプRのスリリングさがなく、どちらかといえば、タイプRの世界観の中でしっかりとグランツーリスモに作りこんでいるのだ。
まさに匠の技を感じる絶妙な仕上げ。先にも述べたとおりアベレージスピードが低いこともあるが、それでもModuloがタイプRの中に独自の世界観を表現しようと奮闘したことがうかがえた。いつかこのクルマで、サーキットというよりもワインディングを駆け抜ける旅に出たい……そう思わせる存在であった。
コンプリートカー「Modulo X」
Moduloは2013年からコンプリートカー「Modulo X」を投入し、大きな評価を得てきた。ニーズが多い車種が中心ということもあり、その素材は実用車が中心で、唯一のスポーツカーはS660だけである。
それでもシリーズ化を可能としたのは、それだけクルマ好きを唸らせるクルマたちを送り出してきたからに他ならない。現在はModulo Xシリーズはお休み中だが、近い将来、きっと面白いクルマで我々を驚かせてくれることだろう。