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横浜〜気仙沼まで往復1090km一気乗り
今回借りだしたのは、「エルグランド250ハイウェイスターSジェットブラックアーバンクロム」である。広報車に加わったばかりのほやほやだった。謳い文句は「存在感を強調する専用のフロントグリルやフォグランプフィニッシャー、18インチアルミホイールを搭載。インテリアには、風格ある上質なタンレザーシート、そしてアクセントとなるタン色のステッチが映えるブラック/タンインテリアを採用。「Jet Black Urban CHROME」。これまでにない贅沢な空間を創出するこのクルマが、ダイナミックかつラグジュアリーな走りとともに格別の個性を主張する」とある。
ドアを開けると、タン色の本革シートが鮮やか。ひとりで長距離ドライブするのに、7人乗りのエルグランドとはいささか違和感があるのは事実だが、ふだんあまり乗る機会がない高級大型ミニバンを体験するにはいいかもしれないと思って、ありがたく乗り込んだ。
現行エルグランドのデビューは2010年である。全長×全幅×全高:4975mm×1850mm×1815mm ホイールベース:3000mmのボディサイズ、そしてスタイルは堂々としたもので、日産の最上級ミニバンらしさは健在だ。メッキパーツを満載した最強のライバルであるトヨタ・アルファード/ヴェルファイアと比べても、外観デザインは「エルグランドの方が好き」という人も多いのではないだろうか?
エルグランドのエンジンラインアップは
2.5ℓ直4(QR25DE 170ps/245Nm)+CVTと
3.5ℓV6(VQ35DE 280ps/344Nm)+CVT
である。今回の試乗車は2.5ℓ版だ。ハイブリッドの設定はない。
車重1950kg(試乗車はオプション込みで2010kg)に対して170ps/245Nmの出力では物足りないのでは、と思ったが、通常の街乗り、通常の加速では過不足はなかった。ただし、乗り始めてすぐに、「これ、CVTだよね」という、アクセルを踏み込んだときに、クルマの加速感よりエンジン回転の上昇を先に感じる、あまり気持ちのよくないフィーリングがあったことも報告しておく。
今回、トータルで1090km、走行した。その80%は高速道路で、残りの15%は空いた郊外路、そして5%が都内の市街地だった。
往路、横浜の日産本社からすぐに首都高へ乗って、そのまま一気に宿泊予定の石巻を目指す。
100km/h巡航時のエンジン回転数は1750rpm
90km/hなら1550rpm前後(メーター読みで)
80km/hなら1400rpm前後だった。
ちなみに110km/h巡航なら1900rpmだった。巡航なら1900rpmでもエンジン音は気にならない。気になるのは加速時だ。
今回のドライブは、特に飛ばすことも、流れに乗ることもせず、制限速度でたんたんと走ることにした。ハイブリッドでない大型ミニバンで長距離ドライブする場合、燃費は最善でどのくらいになるかが知りたかったからだ。
だから、できるだけACC(アダプティブ・クルーズコントロール)を制限速度にセットして走行した。エルグランドには、30km/h以上の走行時に約30〜100km/hの範囲で車速の設定ができる(とカタログに書いてあるが、実際には110km/hでもできた)。先行車を検知している場合はドライバーが設定した速度を上限に停止〜約100km/hの範囲で先行車に追従してくれる。
追従している間はいいのだが、設定速度より遅い前走車がICなどで前からいなくなったときに、ACCが急いで設定速度まで加速してくれる。その時は、CVTのネガを感じる。エンジン音も高まってちょっと気になった。
高速道路をひたすら100km/hで淡々と走る。エルグランドにひとり。これは、エルグランド・ユーザーとしてあまりないシチュエーションなのかもしれない。おそらくエルグランドの一等席は運転席ではなくセカンドシートのはずだが、今回の試乗では(ひとりだったから当然だが)、一度も座ることがなかったのだから。
長距離ドライブで気になったところは?
エルグランドの長距離のドライブで感じたことをいくつか挙げておこう。オプションのBOSE製5.1chサラウンドシステムの音は、かなり楽しめた。それから、タン色の本革シートも、よかった。通常、本革シートはお尻が滑るので好みではないし、大仰なシートが見掛け倒しのことが多いから期待せずに座ったのだが、たっぷりとしたボリュームの座面と本革の張り具合もとてもよかった。
一方で気になったのは、直進安定性だ。
こういう豪華ピープルムーバー(ミニバン)は、もちろんコーナリングを楽しんだり豪快な加速を味わったりするクルマではない。欲しいのは、「矢のような直進安定性」だ。100km/hで巡航しているときに、手元のペットボトルのキャップを捻ろうとすると、ハンドルに手を添えていても進路が乱れる。気を遣う。
できれば、ACCだけでなく、プロパイロット2.0のようにステアコントロールもビシッとしてほしい。
それから、ユーザーインターフェイスもいまやちょっと古い。運転中手が届かない位置にある8インチのモニターはタッチ操作ができるし、その下のジョグダイヤルも遠くて使いにくい。シフトレバー左手のオーディオのコントロールも走行時には操作しにくかった。ユーザーインターフェイスの進化は日進月歩だ。ベースが2010年登場のエルグランドの弱点になっていると思う。
インパネの質感も現代の基準からいったら「少し古い」感じがする。日本車の多くが急速にインテリアの質感を上げているいま、日産の旗艦ミニバンのインテリアとしてはやや物足りない。
1090km走って燃費はどうだったか?
2.5ℓFFのエルグランドのモード燃費はWLTCモード燃費で10.0km/ℓである。今回のドライブでは往復で1090km走行した。満タン法で測った燃費は、11.84km/ℓだった。WLTCモード燃費を上回る数値をマークしたのだ。
これは、おそらくこのクルマのロングドライブにおける最良値だろう。全行程乗車人員は1名だし、ほとんどが高速道路、制限速度内での走行だ。4名乗車、5名乗車になれば燃費はもちろん悪化すると思う。
今回の気仙沼までエルグランドでひとりドライブで使ったガソリンは91.97ℓ(レギュラーガソリン1ℓ=161円で計算して1万4807円)。高速道路代が往復で20040円。合計3万4847円。
新幹線で行ったら、横浜ー気仙沼で往復2万8086円だ。ひとりなら言うまでもなく電車の方が時間も費用もお得だが、これが4人だったら、燃費がたとえ20%悪化してもエルグランド=8712円になる。2列目シートは快適だし、4人ドライブならきっと楽しいだろう。エルグランドで気の合う仲間と気仙沼まで快適ドライブは、途中の寄り道も含めて楽しめそうだ。
エルグランドのライバルはアルファード/ヴェルファイアで、こちらは2015年に登場。2.5直4+CVT FFで燃費はWLTCモードで10.8km/ℓだ。2.5ℓハイブリッドなら同じく19.2km/ℓにもなる。
燃費や新しさではアルファードに勝てない。エルグランドだけが持つ世界観はもちろんあるのだが、まもなく12年目を迎える現行モデルで互角に戦うのはちょっと荷が重い。ハイブリッドかe-POWER、そしてプロパイロット2.0を装備したエルグランドなら、アル/ヴェルが支配するこのカテゴリーに旋風を巻き起こすはずだ。
前述の通りシートがいいので、試乗後に腰痛になることもなかった。これは、大きなプラスポイント。ただし、ステア操作に気を遣ったために、頸と肩はガチガチになってしまった。こちらはマイナス。とはいえ、1090km、ともに走ると愛着が湧いてくる。もう一度、ロングドライブへ繰り出してもいいな、とは素直に思えた。
日産エルグランド250ハイウェイスターSジェットブラックアーバンクロム 全長×全幅×全高:4975mm×1850mm×1815mm ホイールベース:3000mm 車重:1950kg サスペンション:Fストラット式Rマルチリンク式 駆動方式:FF エンジン 形式:2.5ℓ直列4気筒DOHC 型式:QR25DE型 排気量:2488cc ボア×ストローク:89.0×100.0mm 圧縮比:9.6 最高出力:170ps(125kW)/3900pm 最大トルク:245Nm/3900rpm 燃料供給:PFI 燃料:レギュラー 燃料タンク:73ℓ トランスミッション:CVT タイヤ:225/55R18 燃費:WLTCモード燃費:10.0km/ℓ 市街地モード 7.0km/ℓ 郊外路モード 10.7km/ℓ 高速道路モード 11.7km/ℓ