軽クロスオーバーSUVのパイオニア、スズキ「ハスラー」、その革新的なモデルはどのようにして誕生したのか【歴史に残るクルマと技術081】

スズキ「ハスラー」
スズキ「ハスラー」
2014年にデビューしたスズキの「ハスラー」は、「ジムニー」のオフロード性能と「ワゴンR」の居住性を融合した軽のクロスオーバーSUVという新たなジャンルを切り開いた。都会の街を颯爽と走るもよし、アウトドアでもしっかり楽しめる、幅広いシーンで活躍できる軽自動車として広い層から支持されている。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・スズキ ハスラーのすべて

ハスラー以前にもあった軽のクロスオーバーSUV風モデル

スズキ「ハスラー」
スズキ「ハスラー」

オフローダーとハイトワゴンを融合した軽のクロスオーバーSUVという新たなジャンルを開拓したのはハスラーだが、それ以前にクロスオーバーSUV風のモデルが存在した。その代表的なのは、1998年にデビューした2代目「ホンダZ」とスズキの「Kei」だ。

2代目「ホンダZ」
1998年にデビューした2代目「ホンダZ」。軽ながらミッドシップ4WDで注目を集めた

2代目ホンダZの最大の特徴は、軽自動車としては贅沢なミッドシップ4WDを採用したこと。ミッドシップレイアウトと4WDとの組み合わせによって、オフロード走行や雪道走行で軽らしからぬ威力を発揮したのだ。

スズキ「Kei」
1998年にデビューしたスズキ「Kei」、軽のクロスオーバーSUVの先駆け的なモデル

またKeiは、街中でもオフロードでも快適に走れるSUVとしてデビューした。アルトより全高が145mm高いダイナミックなボディに、十分な最低地上高を確保して、オフロードにも耐えられるように構成されていた。

2つのモデルとも、マッチョなボディに大型タイヤを履き、十分な最低地上高を確保しているのが特徴で話題にはなったが、大ヒットには至らなかった。当時は、ワゴンRが開拓した居住性に優れた軽ハイトワゴンブーム真っただ中でクロスオーバーSUVを受け入れる土壌がなかったこともあるが、ハイトワゴンのパッケージングを流用したハスラーに対して、両モデルは居住性、実用面で劣っていたことが、人気が限定的だった理由と思われる。

オフローダーとハイトワゴンを合体させたハスラー

スズキ「ハスラー」
スズキ「ハスラー」

ハスラーの基本的なコンセプトは、「ジムニー」のようなオフロード性能と「ワゴンR」のもつ居住性を融合させる、すなわちオフローダーとハイトワゴン合体させた、どこでも気軽に楽しく走れる実用性の高い軽自動車を目指すことだ。

スズキ3代目「ジムニー(JB23)」
1998年にデビューしたスズキ3代目「ジムニー(JB23)」。軽オフロードSUVとして唯一無二の存在

1970年にデビューしたジムニーは、ラダーフレームや頑丈な前後リジットアクスルを備えた本格的な4輪駆動システムを採用したオフローダー。その後もジムニーは、市場の要求に応えながら進化し続けて、本格的なオフロード走行が可能な唯一無の軽オフロードSUVとして、現在も高い人気を誇っている。

スズキ初代「ワゴンR」
1993年にデビュー、ハイトワゴンの元祖、スズキ初代「ワゴンR」

一方、1993年にデビューしたワゴンRは、狭い軽自動車というイメージを払拭する背の高いハイトワゴンという新しいジャンルを開拓して大ヒット。圧倒的な居住性を実現したハイトワゴンとさらに車高を上げたスーパーハイトワゴンは、現在軽市場の大半を占めるまで成長し、軽自動車のスタンダードとなっている。

スズキ「ハスラー」
スズキ「ハスラー」

この2つの人気モデルの特長を融合させることで、ハスラーは軽のクロスオーバーSUVという新しいジャンルを開拓したのだ。

ハスラーはデビューとともに大ヒット

“東京モーターショー2013”で初披露されたハスラーは、大きな注目を集めた。

スズキ「ハスラー」
スズキ「ハスラー」

キュートな丸目ヘッドライトにSUVらしいボクシーなスタイリングのハスラーは、ワゴンRよりもルーフが長いため、ミニバンとSUVの両方の雰囲気を併せ持っていた。インテリアも、ボディカラーに対応してオレンジと白の2色が用意され、エアコンの吹き出し口やメーターなども視覚的に楽しいデザインが採用された。

スズキ「ハスラー」
スズキ「ハスラー」

パワートレインは、660cc直3 DOHCのNA(無過給)エンジンおよびターボの2種エンジンと、CVTおよび5MTの組み合わせ、駆動方式はFFと4WDを用意。4WDシステムは、ジムニーのような高い悪路走破性を持つパートタイム4WDではなく、前後輪に回転差が生じると4WDになる、いわゆる“スタンバイ式4WD”である。

ハスラーのコクピット
スズキ「ハスラー」のオレンジで統一された曲線基調のハスラーのコクピット

また、スズキの次世代環境技術“スズキグリーンテクノロジー”の採用により優れた低燃費性能と軽快で力強い走りを実現。さらに、衝突被害軽減ブレーキ“レーダーブレーキサポート”などの先進安全技術の搭載も大きなアピールポイントだった。

スズキ「ハスラー」のシートアレンジ
スズキ「ハスラー」のシートアレンジ
スズキ「ハスラー」のシートアレンジ
スズキ「ハスラー」のシートアレンジ
スズキ「ハスラー」
スズキ「ハスラー」

車両価格116.7万~157.6万円(4WD仕様)と比較的安価に設定されたハスラーは、ファミリー層だけでなく、若者からも支持され、販売開始から1年経たずで累計台数は10万台を超える大ヒットに。軽のクロスオーバーSUVという新たなジャンルを切り開いたのだ。

スズキ「ハスラー」
スズキ「ハスラー」

ハスラーによって軽クロスオーバーSUV市場が発展

ハスラー登場後、軽のクロオーバーSUV市場は活況を帯びている。

ダイハツのクロスオーバーSUV「タフト」
2000年にデビューしたダイハツのクロスオーバーSUV「タフト」
三菱「ekクロス」
2019年にデビューした三菱「ekクロス」

元祖であるハスラーが、2019年末にフルモデルチェンジして2代目に進化したのに続き、一番のライバルであるダイハツ「タフト」が2000年にデビューして、発売開始1ヶ月で1.8万台を受注するなど好調なスタートを切った。三菱からは2019年にデビューしたSUVテイストをアピールした「ekクロス」も好調な販売を続けている。

これらは、すべてハイトワゴンをベースにしてクロスオーバーSUVに仕立てたモデルだが、スズキ「スペーシアギア」や三菱「ekクロススペース」は、スーパーハイトワゴンをベースにしたクロスオーバーSUVであり、軽のクロスオーバーSUVは、今後も普及することが予想される。る。

スズキ「ハスラー」
スズキ「ハスラー」

ハスラーの登場以降、乗用車と同じように軽自動車でもクロスオーバーSUVブームが起こっている。多様化するライフスタイルとともに、軽自動車でも室内スペースの広さを競うだけでなく、SUVのようなマルチユースなクルマが求められているのだ。

「ハスラー」が誕生した2014年は、どんな年

2014年には、スズキ「ハスラー」の他にも、スバル「レヴォーグ」、日産自動車「スカイライン(V37型)」、軽事業で協業関係を結んだ日産/三菱から「デイズルークス/eKスペース」、トヨタの燃料電池車「MIRAI(ミライ)」などが登場した。

スバル「レヴォーグ」
2014年にデビューしたスバル「レヴォーグ」
日産13代目「スカイライン(V37型)」
2014年にデビューした日産13代目「スカイライン(V37型)」。海外名「インフィニティQ50」

レヴォーグは、レガシィが北米志向で大型化したことから日本市場にその置き換えとしてデビューした。スカイライン(V37型)は海外ではインフィニティQ50として販売され、フロントグリルにはインフィニティのバッチが付いている。日産と三菱は、2011年に軽事業を共同で進める合同会社NMKVを設立、その成果として誕生したのが日産デイズルークスと三菱eKスペースである。ミライは、世界初の量産型燃料電池車である。

日産「デイズルークス」
2014年にデビューした日産「デイズルークス」
トヨタ「MIRAI(ミライ)」
2014年にデビューした燃料電池車トヨタ「MIRAI(ミライ)」。世界初の量産型FCEV

自動車以外では赤崎 勇、天野 浩、中村修二の3氏がノーベル物理学賞を受賞。長野県と岐阜県の境に位置する御嶽山が噴火し、58名が死亡する大惨事が発生した。ガソリン134円/L、ビール大瓶192円、コーヒー一杯418円、ラーメン574円、カレー740円、アンパン164円の時代だった。

スズキ・ハスラーの主要諸元
スズキ・ハスラーの主要諸元

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軽ハイトワゴンに匹敵する広い室内スペースとオフロードでも優れた走破性を発揮する「ハスラー」。軽クロスオーバーSUVという新たなジャンルを切り開いた、日本の歴史に残るクルマであることに間違いない。

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…