目次
■子ども用ながら本格的なメカニズムを採用したダットサン・ベビイ
2015年(平成27)年3月28日、日産自動車は1964年から翌年にかけて「こどもの国」へ100台を寄贈した、こども自動車「ダットサン・ベビイ」の現存車1台を、「こどもの国」開園50周年を機に再生し、同園の50周年記念イベント等への活用を開始した。

当時の皇太子のご結婚がこども園建設のきっかけ

こどもの国は、1959年(昭和34年)4月の当時の皇太子(現上皇陛下)のご結婚の際、全国から寄せられたお祝い金を皇太子殿下と美智子さま(現上皇后陛下)のおふたりが、子どものための施設に使ってほしいと望まれたことが同園誕生のきっかけとなった。

こどもの国は、「次世代を担う子どもの健全育成のための、児童福祉法に基づく児童厚生施設」というコンセプトの下で1965年5月5日に横浜市青葉区郊外の広大な敷地にオープンした、子どもたちのための画期的な施設である。こども自動車ダットサン・ベビイ100台の寄贈は、日産が同園の趣旨に賛同して実現した。

ダットサン・ベビイは運転する楽しみを提供する他、子どもたちに本物の自動車交通教育を提供するという役割も担った。当時、クルマが爆発的に増えて交通事故が多発していたことから、子どもたちに交通安全を身につけてもらいたいという背景があったのだ。

こども自動車ながら高度なメカニズムを採用

ダットサン・ベビイは、当時愛知機械工業から市販されていた排気量200ccの2人乗りトラック「コニー・グッピー」をベースに設計し直し、こども用の自動車ながら高度なメカニズムを持つ本格的なクルマだった。主要な基本スペックは、以下の通り。


・全長/全幅/全高:2960mm/1420mm/1245mm
・ホイールベース:1670mm、、トレッド(前/後):1010mm/950mm
・車両重量:430kg
・エンジン:排気量200ccの強制空冷単気筒2サイクル
・トランスミッション:トルコン付自動変速トランスミッション
・最高出力/最大トルク:7.5ps(5000rpm)/1.3kgm(3200rpm)
・サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン/トレーリングアームの4輪独立懸架
・ブレーキ:前後ともドラム

その他にも、当時の交通法規要件に適合したランプ類、スプリングを利用したハンドルのセルフリターン機構、時速20km/hを超えると警報が鳴り、30km/hでカットオフするスピードリミッターなども装備。100台がほぼハンドメイドで生産された。
再生したのは、日産名車再生クラブメンバー

今回再生したダットサン・ベビイは、日産が100台寄贈した車両のうちの100号車にあたるクルマで、同園内に長年保存されていた最後の車両。それを再生したのは、「日産名車再生クラブ」である。

このクラブは、日産テクニカルセンター(NTC)に勤める研究開発部門の現役社員を中心に、2006年に活動を開始した社内クラブで、関連会社からの参加も含めて2023年の登録クラブ会員数は115名を数える。クラブ設立以来、日産の財産である歴史的な車両を当時の状態で動態保存すること。そして古いクルマを再生する過程で先輩方のクルマ作り、技術的な工夫や考え方を学ぶことを目的とし、ダットサン・ベビイは同クラブ10台目の再生車両にあたる。

再生にあたって同クラブは、他の車両再生と同様に当時の仕様を綿密に調査し、劣化した部分を丁寧に再現するため、休日での作業を9ヶ月以上続けて完成に至ったのだ。この車両、1年間の予定でこどもの国の50周年イベントなどで展示・活用された。
・・・・・・・・・・
当時は、子どもも含めて自動車は憧れの存在だったことを考えると、ダットサン・ベビイには順番待ちの長蛇の列ができたのではないかと予想できる。今から60年も前の話だが、そんな子どもたちが大人になって日本の自動車の躍進を支えたのかもしれない。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。