砂漠に充電設備が整っているはずがない。
そこでアウディは、エンジンで発電しながら走ることにした。つまり、アウディRS Q e-tronはシリーズハイブリッドである。車両ミッドに搭載する発電用エンジンは、2020年までDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)を走っていたアウディRS 5 DTMが搭載した2.0ℓ直列4気筒直噴ターボだ。最高回転数は9500rpm付近、最高出力は450kW(610ps)以上に達するポテンシャルを備えているが、ダカールラリーでは効率を重視し、4500-6000rpmの回転域で運転する。この領域での燃料消費率は200g/kWh以下だというから、熱効率に換算すれば40%以上は間違いないだろう。
DTM向けに開発したエンジンで発電した電気は、52kWhのユーザブルエナジーを持つリチウムイオンバッテリーに蓄えられる。外部のパートナーと専用に開発したものだ。この電気エナルギーを用い、フロントとリヤに搭載するモーター(回生時の発電機能を備えたモーター/ジェネレーターユニット=MGU)を駆動する。アウディ流に表現すればクワトロだが、車名には入っていない。MGUはフォーミュラEマシンのアウディe-torn FE07が搭載している自社開発のアウディMGU 05を転用する。発電用のMGUもMGU 05だ。
わざわざそろえたのだろうか。52kWhのユーザブルエナジーもフォーミュラEと同じ。バッテリー重量は約370kg(で、フォーミュラEのバッテリーと同等)。電源電圧は800Vだ。
フォーミュラEで使うMGUの最高出力は250kWなので、フロントとリヤに1基ずつ搭載するRS Q e-tronの電動ドライブトレーンは、合わせて最大500kWのポテンシャルを備えていることになる。ダカールラリー本番でどれだけの出力を発生させるかは、オーガナイザーによる決断待ちだという。スペック表には暫定的に「300kW以下」と記してある。発電用MGUは最高220kWの出力で運転する。
フロントとリヤのMGUの出力は、走行状況に合わせて可変制御する。アクセルペダルの操作に対する応答性が高いのは、バッテリー+モーターの特徴だ。プロペラシャフトやセンターデフが不要なぶん、メカ式4WDに対して重量上のメリットがあるとアウディは説明する。駆動用MGUは変速機構を持たず、シングルスピードだ。
カーボンファイバーコンポジットの主構造体にスチール製チューブフレームを組み合わせた車体は、「未来的」であることを意識しつつも、アウディらしさを感じさせるエレメントを随所にちりばめたボディで覆われている。全長×全幅×全高は4500×2300×1950mm、最低重量に関してもオーガナイザーの判断待ちで、2000kgになる見込みだ。燃料タンク容量は295Lである。
個性的な外観デザインは、デザイン部門のコンペにより選出された。「ダカールラリーに参戦する車両の多くはボクシーなので、そうではない道を選んだ」と、デザインを担当したダリオ・トモラッドは説明する。「アウディのモータースポーツの歴史からインスピレーションを得ながら、e-tronスポーツバックのようなクーペ風のシルエットを意識した」という。
シャークフィンと一体化したルーフの大型のエアインテークは、リヤの駆動用MGUとバッテリー、それに発電用MGUに冷却エアを導く。ワイドなエアインテークの上面に巨大なフォーリングスがあしらってあるのは、ダカールラリーではヘリコプターによる空撮が多用されるためだ。上空から撮影した際に、一目でアウディの車両と認識させるアイデアである。ドアの後方にキックアップした処理はR8からの引用だが、役割は異なる。R8の場合は空気の取り入れ口となっているが、RS Q e-tronはこのスペースにスペアタイヤを搭載している。
ドライバーはマシアス・エクストローム/エミル・ベルグクイスト(スウェーデン)、ステファン・ペテランセル/エドゥアール・ブランジェ(フランス)、カルロス・サインツ/ルーカス・クルス(スペイン)の3組だ。アウディに言わせれば、「ドリームチーム」である。エクストローム(42歳)はDTMのチャンピオン(2004年、07年)経験者。ペテランセル(55歳)はダカールラリーで14回の優勝経験を誇る。サインツ(59歳)は1990年、92年のWRCチャンピオンであり、ダカールでも3回勝っている(2010年、18年、20年)。
アウディはこの強力な布陣で2022年1月2日から14日にかけて行なわれるダカールラリーに出場し、電動パワートレーンを搭載した車両による初優勝を目指す。