FFライトウェイトスポーツのパイオニア、ホンダ「バラードスポーツCR-X」、800kgボディを成立させた渾身の超軽量技術を探る【歴史に残るクルマと技術089】

ホンダ「バラードスポーツCR-X」
ホンダ「バラードスポーツCR-X」
スポーツモデルはFRが一般的だった1980年初頭、ホンダはFFライトウェイトスポーツという新たなコンセプトの「バラードスポーツCR-X」を市場に投入。800kgの超軽量ボディに110psの高性能エンジンを搭載した、扱いやすいお洒落なコンパクトFFスポーツはクルマ好きの若者を夢中にさせた。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・80年代ホンダ車のすべて、バラードスポーツCR-Xのすべて

1980年代にスポーツ志向に回帰したホンダ

ホンダ「バラードスポーツCR-X」
ホンダ「バラードスポーツCR-X」

1970年代のオイルショックと排ガス規制の強化を乗り切り、1980年代を迎えると日本メーカーは堰を切ったように高性能・高機能モデルを投入し始めた。

ホンダ2代目「プレリュード」
1982年にデビューし、デートカーとして大ヒットしたホンダ2代目「プレリュード」

もともとスポーツ志向の強かったホンダは、モータースポーツにも積極的に参戦。欧州F2でシリーズタイトルを獲得すると、1983年にF1へ復活し、1984年のアメリカGPでウィリアムズ・ホンダが早速優勝に輝いた。市販車についても、1982年にホットハッチ「シティ・ターボ」とワイド&ローのスペシャリティカー2代目「プレリュード」といったスポーティなモデルを投入して大ヒットさせた。

ホンダ初代「バラード」
1980年にデビューしたホンダ初代「バラード」。2代目「シビック」の4ドアセダン版
ホンダ初代「バラード」
1980年にデビューしたホンダ初代「バラード」。2代目「シビック」の4ドアセダン版

バラードスポーツCR-Xは、1980年にデビューした2代目「シビック」の兄弟車「バラード」の派生スポーツとして1983年7月に誕生。一方ベースのバラードは、当時大人気となっていたシビックとは対照的に、シビックを4ドアセダン化しただけと捉えられ、厳しい販売を強いられて1987年に生産を終えた。しかし、バラードスポーツCR-Xは、人気を獲得してその後も存続したのだ。

ライトウェイトFFスポーツという新たなジャンルを開拓

ホンダ「バラードスポーツCR-X」
ホンダ「バラードスポーツCR-X」

バラードスポーツCR-Xは、スポーツモデルとしてはFRが定番だった時代に、軽量ボディによって実現されるライトウェイトFFスポーツをアピールした。最大の特徴は、2+2シートに割り切った斬新なパッケージングと、軽量化材料を積極的に採用することによって実現された超軽量ボディである。1.3Lモデルで760kg、1.5Lモデルは800kgとズバ抜けた軽量化を実現していた。

ホンダ「バラードスポーツCR-X」
ホンダ「バラードスポーツCR-X」のシャープにカットされたリアエンド

具体的な軽量化材料としては、新素材H・P・ALLOY(ホンダ・ポリマー・アロイ)をフロントマスクやヘッドライト・フラップ、左右フロントフェンダー、左右ドアロア・ガーニッシュに、また前後バンパーには、新素材H・P・BLENDが採用された。

EM型1.5L 4気筒SOHCエンジン
バラードスポーツCR-Xに搭載されたEM型1.5L 4気筒SOHCエンジン

スタイリングは、新世代コンパクトスポーツに相応しく斬新だった。セミリトラクタブルヘッドライトを装備した低く抑えたボンネット、シャープなテールエンドなどワイド&ローのフォルムでスポーティさをアピール。パワートレインは、最高出力80psの1.3L直4 SOHCキャブ仕様、110psの1.5L直4 SOHC電子制御PGM-FIの2種エンジンと3速ATおよび5速MTの組み合わせ。

ホンダ「バラードスポーツCR-X」のスポーティなコクピット
ホンダ「バラードスポーツCR-X」のスポーティなコクピット

車両価格は、1.3Lが99.3万円/107.3万円、1.5Lが127万円/138万円、ちなみに当時の大卒初任給は13万円程度(現在は約23万円)なので、単純計算では現在の価値で176万~244万円に相当するが、当時としては安価なスポーツモデルである。

バラードスポーツCR-X Si
1984年に追加されたZC型VTECエンジンを搭載したバラードスポーツCR-X Si

さらに翌年には、最高出力135ps/最大トルク15.5kgmを発揮する1.6L高性能ZC型エンジンを搭載した「バラードスポーツCR-X Si」を追加。最高速度は197km/h、0-400m加速は驚異の15.2秒を記録して、本格的な高性能FRスポーツに負けない走りは多くの若者を魅了した。

その後CR-X、CR-Xデルソルに引き継ぐもシリーズ終焉

1987年にバラードスポーツCR-Xはモデルチェンジした。バラードが1986年に生産を終えたことから、2代目は車名からバラードスポーツが取れて、単独ネーム「CR-X」となった。

ホンダ2代目「CR-X」
1987年にデビューしたホンダ2代目「CR-X」

2代目CR-Xは、ディアドロップ・シェイプと呼ばれるスタイリッシュなフォルムと徹底したフラッシュサーフェス化などにより、Cd値0.3を達成。さらに足回りの補強など最新メカニズムによって、走行安定性が向上したことが先代からの進化だ。

ホンダ2代目「CR-X」
1987年にデビューしたホンダ2代目「CR-X」

パワートレインは、最高出力105psの1.5L直4 SOHC、130psの1.6L直4 DOHCの2種エンジンと4速ATおよび5速MTの組み合わせ。2年後の1989年には、VTECを組み込んだ160psを発揮する1.6L直4 DOHC VTECエンジンを搭載した「SiR」を追加。NAでリッター当たり100psを超える高性能モデルとして注目を集めた。

ホンダ「CR-Xデルソル」
1992年にデビューしたホンダ「CR-Xデルソル」

そして1992年3月に登場した3代目「CR-Xデルソル」は、先代のクーペスタイルを一新、大胆な2シーターのオープンカーに変身した。オープン機構は、電動と手動によるトランストップ式のタルガトップを採用。パワートレインは、最高出力130psの1.5L直4 SOHC VTEC、170psの1.6L DOHC VTECの2種エンジンと4速ATおよび5速MTの組み合わせ。

ホンダ「CR-Xデルソル」
1992年にデビューしたホンダ「CR-Xデルソル」

ライトウェイトスポーツからオープンスポーツに一新し、より多くの若者にアピールしようとしたCR-Xデルソルだったが、オープンの開放感やトラストップの先進性などが評価された一方で、ライトウェイトスポーツらしさが足りない、俊敏な走りを追求すべきだといったネガティブな意見も多かった。

またバブル崩壊時期と重なったこともあり、人気は盛り上がらず1998年に生産を終え、CR-Xシリーズは終焉を迎えた。

ホンダ「バラードスポーツCR-X」が登場した1983年はどんな年

スズキ初代「カルタス」
1983年にデビューしたスズキ初代「カルタス」。GMとの共同開発で誕生

1983年には、ホンダのバラードスポーツCR-Xの他にも、スズキの「カルタス」やトヨタの「カローラレビン/スプリンタートレノ(AE86型)」なども登場した。

AE86型「カローラレビン」
トヨタの4代目AE86型「カローラレビン」。現在も人気のFRスポーツ
AE86型「スプリンタートレノ」
トヨタの4代目AE86型「スプリンタートレノ」。現在も人気のFRスポーツ

カルタスは、スズキが1981年にGMと資本提携して共同開発したスズキ初の小型乗用車、AE86は“ハチロク”の愛称で手の届きやすい価格で、運転が楽しくてチューニングしやすいFR車として、現在も多くのファンから愛され続けている名車である。

4A-GEU型エンジン
トヨタの4代目AE86型「カローラレビンスプリンタートレノ」に搭載された名機4A-GEU型エンジン

クルマ以外では、4月に東京ディズニーランドが開園し、1年で1000万人を超える入場者が訪れた。任天堂から家庭用ゲーム機「ファミコン」が発売され、1年間で300万台を売り上げた。
また、ガソリン156円/L、ビール大瓶282円、コーヒー一杯268円、ラーメン352円、カレー460円、アンパン86円の時代だった。

ホンダ「バラードスポーツCR-X」
ホンダ「バラードスポーツCR-X」
ホンダ「バラードスポーツCR-X」
ホンダ「バラードスポーツCR-X」

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スポーツモデルといえばFRという時代に、FFライトウェイトスポーツという新たなジャンルを提案したホンダ「バラードスポーツCR-X」。FFでもこれだけ軽快に加速して曲がれることをアピールした、日本の歴史に残るクルマであることに、間違いない。

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…