宿命のライバル、スズキ・エブリイに新型ハイゼットはリベンジできるのか!?【ダイハツ・ハイゼット深堀り解説その1】

なんと17年ぶりのフルモデルチェンジで新型に生まれ変わったダイハツのハイゼットカーゴとアトレー。宿命のライバルといえるスズキ・エブリイとの比較を交えながら、進化のツボを探ってみよう。

TEXT●山崎友貴(YAMAZAKI Tomotaka)

プロだけでなく、レジャー派にも魅力的になった新型ダイハツ・ハイゼットカーゴ&アトレー

ダイハツ・ハイゼットカーゴとアトレーが、17年ぶりにフルモデルチェンジを果たした。併せて、ハイゼットトラックもマイナーチェンジを実施。ハイゼットカーゴは商用車カテゴリーだが、昨今は軽キャンピングカーのベース車として使われることが多く、一般ユーザーにも感心の高いところだと思う。今回は、新しいハイゼットカーゴとアトレーにスポットを当てて、ニューモデルの特徴を見ていきたいと思う。

新型ダイハツ・ハイゼット カーゴ
新型ダイハツ・ハイゼット カーゴ
新型ダイハツ・アトレー
新型ダイハツ・アトレー

宿敵エブリイに広さやデザインで一歩譲っていた先代ハイゼット

ハイゼットが生まれたのは、1960年のこと。当初はトラックのみの発売で、その半年後にバン(現カーゴ)が追加された。ネーミングの「HIJET」は、当時の新しいモノの代名詞であり、大衆化し始めていたジェット旅客機から取ったもの。しかし「ジェット」という語音が言いづらいことから、より力強い「ゼット」と読ませるようにしたという。

今年の10月には、10代目モデルがグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞したばかりだったが、今回のフルモデルチェンジに至っている。

さて、11代目モデルは開発陣もかなり気合いが入ったと思う。これまで、デザイン、車内寸法の両面において、ライバルのスズキ・エブリイバンの方が一部ユーザーの評価が高かったからだ。一部というのは、前述のキャンパーのこと。

まずデザインだが、吊り目のアングリー顔だった最終形の先代ハイゼットカーゴに対して、エブリイバンは初代ワゴンR譲りのおっとり顔。立ったAピラーやスクエアなボディ形状も含めて、一般ユーザーにはフレンドリーな印象の強いエブリイの人気が高かった。

先代ダイハツ・ハイゼットカーゴ
先代ダイハツ・ハイゼットカーゴ
スズキ・エブリイ
スズキ・エブリイ
スズキ・エブリイ

さらにスペースユーティリティはどうかというと、最大値で両車を比較してみると、先代ハイゼット カーゴの車内寸法が長さ1860×幅1375×高さ1235mmなのに対して、エブリイバンは長さ1910×幅1385×高さ1240mm。僅かな寸法差ではあるが、車中泊をしたりレジャーアイテムを積載するユーザーにとっては、使い勝手の差となって表れる。

先代ダイハツ・ハイゼットカーゴ
スズキ・エブリイ
スズキ・エブリイ
新型ダイハツ・ハイゼットカーゴ

過去の登録台数を見ると、ハイゼットカーゴはエブリイバンに数で勝っているが、これは物流会社との契約といったファクターがあるので、必ずしもユーザーの評価を表すものではない。一方で、一般ユーザーの需要がメインとなるワゴンモデルであるアトレーとエブリイワゴンを比べると、エブリイワゴンの数が1年を通じて勝っている。さらに市場にはホンダN-VANという強敵もおり、台数でははるかにハイゼットシリーズが上回っているが、使い勝手やギミックという点においてはユーザー評価が高いことは周知の通りだ。

シンプルだが経済性も考慮した新型ハイゼットのエクステリア

さて、新型を見た時に多くの人が「エブリイに似ている」と思ったのではないだろうか。バッジを替えたら、新型エブリイと謳っても分からないほどだ。しかし、開口部のデザイン処理はさすがに後発だけあって、巧みで現代的なものに仕上がっている。

ちなみに、開口部下にはある工夫がある。グレードによって無塗装とボディ同色があるが、共に下部パーツのみが外れて、簡単に修復ができるようになっている。これは物流プロの「傷ついたままだと印象が悪い」という要望に応えて、修復を安価できるように配慮したものだ。

新型ダイハツ・ハイゼット カーゴ(スペシャルクリーン)

ボディ形状もエブリイなみにスクエアになっている。Aピラーは立たされ、旧型と比較するとボディラインに丸い部分がほぼないことが分かる。スクエアなボディ形状は、高い積載力を示していると言っていい。

アトレーは、さらに現代的になった。メッキパーツで高級化が図られているのは常套手段だが、ヘッドラインも2段化されて、アイラインが加えられている。またサイドドアミラーが大型化され、ハイゼットカーゴよりも大きく見えるようなデザイン処理が施されている。DNGA世代のダイハツ製軽自動車は、デザインで非常に頑張っているが、両モデルともユーザーには好意的に受け止められるのではないだろうか。

新型ダイハツ・アトレー

DNGAや新開発CVTの採用で走りと燃費も大幅進化

新型はハイゼットカーゴ、アトレー共に、新世代プラットフォームであるDNGAで作られていることは言うまでもない。おそらく先代との比較だけでなく、エブリイバンと比べても剛性感の高さを感じると思う。しっかりとした乗り心地は、ダイハツのアドバンテージのひとつだ。

サスペンションは前マクファーソンストラット、後3リンク+コイルリジッド式という形式に変わりはないが、現代的なハンドリングや乗り心地を追求して、かなり改善が進められたようだ。いずれ、試乗の機会もあると思うので楽しみにしたい。

注目のトピックのひとつに、今回からオートマチックの機構にCVTが採用されたことがある。CVTのドライブフィールには、ユーザーの賛否があるが、変速感が少なく、常にトルクを感じながら走れるというメリットがある。さらに燃費や環境性能面という点でも4ATよりも有利だ。ダイハツのデータによれば、新旧の燃費比較(WLTCモード)で11%も向上されている。ちなみにエブリイバンが今年5月に、5AGSを採用しており、こちらの方が若干だが燃費数値は勝っているが、実際の使用上では互角と考えてもいいだろう。

新開発のFR用CVT

ユーザーがもっとも恩恵を感じられるのは、急な坂道や山道。4ATの場合、適正な回転数や駆動トルクを得るために、アクセルワークに腐心するシーンだ。だが、CVTの場合は適度なスリップと滑らかな変速により、ガクンと変速ショックを感じたり、ペダルを踏んだり抜いたりと忙しい操作もそれほど必要ない。

これはたくさんの荷物を積んで走るプロドライバーへの恩恵もさることながら、ルーフテントや車中泊装備を積んで重量増となった軽キャンパーでもメリットを感じられるはずだ。

なおCVTの採用は、軽キャブオーバー(FR)では初となるという。また今回、同時に行ったハイゼットトラックのマイナーチェンジで、同モデルにもCVTが採用されたことを付け加えておきたい。

悪路や雪道で安心な電子制御式4WDをCVT車に初採用

パワートレーンで言えば、新たな4WDシステムが採用されてことも注目ポイントだ。クラス初の採用となる電子制御式4WDシステムは、「4WD AUTO」と「4WD LOCK」が選択できる。

電子制御式4WD

4WD AUTOを選べば、通常はFRで走行して省燃費にして、タイヤのスリップを感知したらセンターデフを介して前輪に駆動トルクを配する、いわゆるフルタイム4WDの状態。「4WD LOCK」を選択すると、センターデフ機構をロックして、前後トルク配分50:50のいわゆる直結4WDにする。この機構は、降雪量の多い地域での使用や、未舗装路を走る機会があるアウトドアシーンでは有効なメカニズムだ。特に、深雪や砂地などでは、4WD LOCKにすると強い走破力や脱出力を得ることができる。

ここまで、デザインや主なメカニズムについてお話してきたが、後編では新型ハイゼットの便利機能についてさらに迫ってみたい。

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著者プロフィール

山崎友貴 近影

山崎友貴

SUV生活研究家、フリーエディター。スキー専門誌、四輪駆動車誌編集部を経て独立し、多ジャンルの雑誌・書…