816ps・1420Nmの超絶スペック! V8ツインターボ×電動モーターの衝撃

メルセデスAMG GT63 S E PERFORMANCE

メルセデスAMGが「GT」のトップパフォーマンスモデルであるGT 63 S E PERFORMANCEを発表したのは、2024年4月に上海で開催されたF1中国GPの週末のことだった。このクルマの最大の特徴は、E PERFORMANCE(イー・パフォーマンス)と呼ぶハイブリッドシステムを搭載していることである。そのおかげで、AMGシリーズ史上最速となる0-100km/h加速2.8秒の実力を手に入れた。

ボディサイズ:全長4730mm✕全幅1985mm✕ 全高1355mm、ホイールベース:2700mm、車両重量:2180kg

エンジンはM177型の4.0L(3982cc) V8直噴ツインターボ。90度のVバンク間に2基のターボチャージャーを収める、いわゆるホットVの構成をとる。最高出力は450kW/5750-6500rpm、最大トルクは850Nm/2500-4500rpmだ。BMEP(正味平均有効圧)は高性能の基準ともいえる25barをゆうに超える26.8barであり、超高性能エンジンであることを示している。

3982ccのV型8気筒DOHCツインターボに9速ATを合わせ駆動方式はAWD、システム最高出力は816PS、システム最大トルクは1420Nm。

縦置きに搭載するエンジンの後方には、9速ATのAMGスピードシフトMCTがつながっている。特徴は、発進デバイスにトルクコンバーターではなく湿式多板クラッチを用いていること。ダイレクト感を重視しての採用だろう。そして後車軸上には、最高出力150kW、最大トルク320Nmを発生するモーターが、2速トランスミッションとの組み合わせで搭載されている。

モーターと2速トランスミッションを統合したエレクトリックドライブユニットは電子制御LSDも一体化され、その上に6.1kWhの容量を持つAMGハイパフォーマンスバッテリーが載る。このバッテリーシステムは、メルセデスAMGペトロナスF1チームがF1のパワーユニットに適用しているバッテリーの技術をベースに開発したという。

ハイライトは冷却だ。バッテリーパックには560本の円筒形セル(リチウムイオン)が用いられている。システム電圧は400Vだ。円筒形セルの1本1本を不燃性のクーラントで直接冷却する構造を採用し、高いパフォーマンスを維持するための最適な動作温度範囲に維持する仕組み。バッテリー出力はピークで150kW、定常で70kWである。

センターディスプレイは高解像度11.9インチを装備、メーター内の12.3インチディスプレイとあわせて様々な情報を表示する。

高出力なエンジンに高性能なハイブリッドシステムを組み合わせたおかげで、メルセデスAMG GT 63 S E PERFORMANCEは、システム最高出力600kW(816ps)、システム最大トルク1420Nmを得るに至った。超ド級の高性能だ。

カタログ上のEV走行距離は13kmだが、静かに走るのがメインというよりむしろ、F1マシンと同様に電気のパワーはパフォーマンスに使う。パワフルに発進したいときや追い越しを素早く済ませる際に真価を発揮する仕立て。一瞬だけ試してみたが、刺激的なエンジンサウンドとシンクロする猛烈な加速フィールは圧巻のひと言である。メーカー希望小売価格は3085万円ではあるが、「このパフォーマンスが体験できるなら適切」と思えるプライスだ。ただ加速が強烈なだけでなく、多分に刺激的である。しかも、硬いのとは違う、引き締まった乗り味がいい。

ラゲッジルームは、それなりの広さを確保している。

刺激的な見た目でも、静かにEV走行することも可能

ステアリングホイール右側のダイヤル、もしくはセンターディスプレイで切り換え可能なAMGダイナミックセレクトは8つのモードが用意されている。Electric(EV走行)、Battery Hold(バッテリー残量保持)、Comfort(コンフォート)、Slippery(滑りやすい路面向け)、Sport(スポーツ)、Sport+(スポーツ・プラス)、RACE(レース)、Individual(カスタマイズ可)である。

センターディスプレイのAMGダイナミックセレクトでは8つの走行モードが選択可能。

モードを切り換えると、パワートレーンのレスポンスやステアリングの特性、ダンパー減衰力、サウンドの設定が変わる。ComfortとSport、Sport+くらいしか試していないが、ComfortからSport、SportからSport+に切り換えるほどにエンジンのアイドリングサウンドけたたましくなり、気分を盛り上げる。

一体型ヘッドレストとAMGバッジを備え曲線を描くシートは、かなりスポーティなシートポジションだ。

電気のパワーはパフォーマンスに使うコンセプトではあるが、デフォルトのComfortを選択している限り、発進は常にEV走行になる。それでツマラナイかというとそんなことはなく、タイトなコックピットに身を沈め、低いアイポイントでなければ味わえない独特の風景を捉えながら、剛性感の高さを感じつつクルマを操る充足感はなかなかなもので、「いいねぇ」と思わずつぶやいてしそうなほどに味わいが深い。

シートのAMGバッジ。

Comfortモードでクルーズしつつエネルギーフローの画面を眺めていると、隙あらばエンジンを停止して減速エネルギーを回生し、バッテリーに溜め、緩加速ではEV走行していることに気づく。思っていた以上に電気リッチな走りをしている印象だ。しつこいようだが、それで退屈しないし、刺激が欲しいならSportかSport+に切り換えてエンジンリッチな走りを楽しめばいいだけの話だ。

エネルギーフローの画面で確認すると、こまめに回生をしてエネルギーをバッテリーに貯めていることがわかる。

回生ブレーキはブレーキペダルを踏まずとも、アクセルペダルをオフにした瞬間から機能する。強さは4段階に切り替えが可能で、「最強」にセットした場合はいわゆるワンペダルドライブが可能になる。まるでストロングハイブリッドみたいだが、そのとおりで、GT 63 S E PERFORMANCEはれっきとしたプラグインハイブリッド車(PHEV)である。その証拠に、リヤバンパー右側に充電コネクターの差し込み口がある。

右リヤバンパーに充電コネクターを装備する。

考えてみればF1だって技術的にはEV走行が可能なのだから、メルセデスAMG GTのような、どう見たってエコカーには見えないクルマがEV走行したって不思議な時代ではない。なんとも贅沢(もったいない?)な使い方ではある。

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