VWゴルフTDI EA288evo搭載のゴルフ8のディーゼルは、期待通りか?

VWゴルフTDI Active Advance 車両本体価格○398万9000円
ゴルフ7に引き続き、新型ゴルフ8にもディーゼルエンジン搭載モデル「TDI」が追加された。ゴルフといえばディーゼル!と待っていたファンもいるだろう。進化した2.0LディーゼルEA288evo搭載のゴルフTDIは期待通りか?
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)

環境性能がアップした2.0Lディーゼルターボ EA288evo

フォルクスワーゲン(VW)の新型ゴルフ(通称ゴルフ8)に、ディーゼルエンジンを搭載した「TDI」が追加された。同じタイミングでホットハッチの「GTI」も追加されており、これでゴルフ8のラインアップは、1.0L3気筒と1.5L4気筒のガソリンターボエンジンを搭載するeTSI系と、2.0L 4気筒ディーゼルのTDI、2.0L4気筒ガソリンターボエンジンを積むGTIというラインアップになる。いずれ、パフォーマンスを極限まで追求した「R」が加わり、ゴルフ8のラインアップは完成することになる。

ゴルフ8に共通する新たな価値は以下の3点に集約できる。インフォテインメント系の充実の充実を図った「デジタル化」と48Vマイルドハイブリッドの搭載に代表される「電動化」。それに、先進の「ドライビングアシスト機能」だ。

先に触れておくと、TDIはeTSI系の価値を高めたのに大きく貢献している48Vハイブリッドシステムを搭載していない。だから、アイドリングストップからのエンジン再始動はベルト・スターター・ジェネレーター(BSG)ではなく、従来どおりスターターモーターで行なう。48Vハイブリッドシステムのスムーズなエンジン再始動を知ってしまうと「TDIにも欲しい」と思ってしまうが、現状は無理な相談だ。

ゴルフ8のTDIは進化したディーゼルエンジンを積む。先代、ゴルフ7のTDIはEA288の名称を持つ2.0L直列4気筒を積んでいた。ゴルフ8のTDIは「進化」したことを示すEA288evoを搭載する。技術上のハイライトは、「ツインドージング」と呼ぶ技術を採用して環境性能を向上させた点だ。

ツインドージングは「2段構えの添加」を意味する。ディーゼルエンジンで課題なのは、排ガスに含まれる有害物質のひとつであるNOx(窒素酸化物)の処理だ。このNOxを浄化して人体に無害な成分にするため、近年のディーゼルエンジンは一般的にSCR(選択還元触媒)と呼ぶ触媒を搭載している。尿素水(AdBlue=アドブルー)を排ガスに噴射するシステムで、尿素から発生するアンモニアとNOxを反応させ、窒素(N2)と水(H2O)に組み替える仕組みだ。

これまでシングルだったドージング(添加)を「ツイン」にしたのが、EA288evoの特徴だ。SCRが効率良く機能する温度は200℃から350℃である。排気温度が低い始動直後を含めた低負荷時は、エンジンに近い位置に設置された第1SCRから尿素水を噴射する。いっぽう、高速道路を長時間連続運転するような高負荷時は、第1SCRで尿素水を噴射したのでは温度が高くて効率が落ちるので、アンダーボディに設置された第2SCRから尿素水を噴射する。

排気の温度に応じてふたつのSCRを使い分けることで、尿素水の消費は従来と同等に抑えながら、NOxの排出量を大幅に低減するのが、ツインドージングの特徴だ。ゴルフ8のTDIはEGR(排ガス再還流)の技術をアップデートすることでも、NOxの低減を図っている。

エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ エンジン型式:EA288 evo型 排気量:1968cc ボア×ストローク:81.0mm×95.5mm 圧縮比:16.0 最高出力:150ps(180kW)/3000-4200rpm 最大トルク:360Nm/1600-2750rpm 過給機:ターボチャージャー 燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI) 使用燃料:軽油 燃料タンク容量:51ℓ
これまで1系統だったSCRシステムを直列2系統化したのがEA288evoのポイント。2系統にしたことで、AdBlueの消費量は従来と同等ながら従来よりNOxの排出量を最大80%削減できる。EURO6dに適合している。
インジェクターの最大噴射圧は22MPa(2200bar)、1サイクルあたり最大9回噴射する。
ターボチャージャーは、もちろんVG(可変ベーン)式を使う。

動力性能への影響はまったくない。むしろ、ゴルフ8のEA288evoはゴルフ7のEA288より性能を高めている。最大2200barかつ1燃焼サイクルあたり9回(!)の噴射を行なう高圧燃料システムにアップデートしたのが効いているのだろう。110kW(150ps)の最高出力に変更はないが(発生回転数は3500rpmから3000rpmに低下している)、最大トルクは340Nmから360Nmに向上している。しかも、発生回転数は低くなっており(1750-3000rpm→1600-2750rpm)、より扱いやすく、頼もしくなる方向に変化した。燃費も向上しており、WLTCモード燃費はゴルフ7の18.9km/Lから20.0km/Lへと5.8%向上している。

eTSI系の標準タイヤ&ホイールは16インチと17インチの設定なのに対し(Rラインに18インチをオプション設定)、TDIは全車17インチが標準となる。リヤサスペンションは1.0eTSIがトーションビーム式、1.5eTSI は4リンク式となっているが、TDIは4リンク式を採用。組み合わせるトランスミッションは先代と同様、湿式7速DCT(VWの呼称ではDSG)となる。

シートヒーター、ステアリングヒーター付き

TDIの走りはコンフォートの極みだ。車両価格がTDIの倍程度の、欧州プレミアムブランドのように遮音が徹底されたクルマでは、ディーゼルエンジン特有のガラガラ音が車外、車内を問わず抑えられており、そうと知らないパッセンジャーはエンジンがディーゼルであることを知らずに移動時間を過ごすケースがあるかもしれない。そうしたプレミアムなディーゼル車を基準にすると、ゴルフTDIはディーゼルらしい音が外でも室内でも確認できる。

ッドイヤーEAGLE F1を装着
タイヤサイズは225/45R17サイズ

ただ、新旧の対比でいえば静かになっているようだし、ディーゼル特有の音がTDIの選択をためらわせる決定的な要因になるかというと、そうは思わない。「ディーゼルなら、この程度の音はするよね」という印象だ。それより、ディーゼルエンジンによって得られるベネフィットのほうが大きい。1600rpmの低回転で360Nmもの最大トルクを発生するエンジンの威力は絶大だ。発進から巡航スピードに達するまでの頼もしさといったらない。走行シチュエーションのほとんどで、力不足を感じることはないだろう。「トルクがあるクルマの運転はなんて楽なんだ」と、改めて思う。

アウタードアハンドルの内側にエクステリアアンビエントライトを装備。夜間のドアの開閉をLEDでサポートする。
トランクスペースは380ℓ。後席を倒すと1237ℓになる。後席は6:4の分割可倒式

100km/h走行時のエンジン回転数は1500rpm近辺と極端に低く、ロードノイズなどの走行音にかき消されてしまうので、高速走行時の静粛性はガソリンエンジン搭載モデルと変わらない。その走行音すらゴルフは同クラスの他車に比べて小さく、ゴルフ8はゴルフ7よりもさらに「静かになった」感が強くなった。TDIはそれにエンジンの力強さが加わるぶん、市街地での走行時も、高速巡航時も快適性の面でeTSI系より一段も二段も上だ。eTSI系より値は張るが、それだけの価値は充分にあるとお伝えしておきたい。

VWゴルフTDI Active Advance
 全長×全幅×全高:4295mm×1790mm×1465mm
 ホイールベース:2620mm
 車重:1460kg
 サスペンション:Fマクファーソンストラット式 R4リンク式
 エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
 エンジン型式:EA288 evo型
 排気量:1968cc
 ボア×ストローク:81.0mm×95.5mm
 圧縮比:16.0
 最高出力:150ps(180kW)/3000-4200rpm
 最大トルク:360Nm/1600-2750rpm
 過給機:ターボチャージャー
 燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
 使用燃料:軽油
 燃料タンク容量:51ℓ
 
 トランスミッション:7速DCT
 駆動方式:FF
 WLTCモード燃費:20.0km/ℓ
  市街地モード 14.0km/ℓ
  郊外モード 20.3km/ℓ
  高速道路モード 24.2km/ℓ
 車両本体価格○398万9000円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…