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VW/アウディのEVプラットフォーム 「J1」を使う
アウディは電動化を積極的に進めているプレミアムブランドのひとつだ。2021年半ばには長期的な電動化戦略を発表し、2026年以降に発表する新車はすべて電気自動車(EV)にすることを明らかにした。さらに、2033年にはガソリンやディーゼルといったエンジンの生産を終了する(中国を除く)としている。
この電動化プランを進めていくため、商品ラインアップを充実させていく。2025年までに電動化モデルを30車種投入する予定で、うち20車種はEVの予定。プラットフォームは4種類を揃える。2020年に日本導入を果たしたe-tronとe-tronスポーツバックはMLB evoプラットフォームを使用。今回紹介するe-tron GT quattroとRS e-tron GTはポルシェ・タイカンと共同開発したJ1を使用する。パフォーマンスプラットフォームの位置づけだ。
2022年1月17日に発表されたQ4 e-tron/Q4 スポーツバックe-tron(発売は今年秋以降)は、フォルクスワーゲン(VW)と共有するMEBとプラットフォームを用いる。ID.3(日本未導入)などと共有するということだ。第4のプラットフォームがPPEで、これもポルシェと共同開発。e-tron GT quattro/RS e-tron GTとタイカンのJ1が「パフォーマンス」なら、PPEは「プレミアム」だ。いずれ、PPEを採用したプレミアムなEVが出てくることになる。
販売網と急速充電器の整備に関しても抜かりはない。e-tronシリーズの販売店は当初50ヵ所だったが、2021年10月の発表で全国102店舗まで拡張することが発表された(Q4 e-tron発表時の案内では104店舗)。e-tron GT quattro/RS e-tron GTに関して残念なのは、2021年の割り当てはおろか、すでに2022年の割り当て分も完売しており、いまから注文しても相当待たされることになる。それだけ人気を集めているということだ。その間に急速充電器の整備が進むと、前向きに捉えるしかない……。
その急速充電器だが、Q4 e-tron発表時の説明では現状、出力50kWの急速充電器が全国に42ヵ所、90kWの急速充電器は8ヵ所、アウディのディーラーに設置されている。2022年第3四半期以降を目処に、出力150kWの急速充電器を52ヵ所増やしていく予定だ。さらに、VWディーラーの急速充電器も活用することで、250店舗以上の急速充電ネットワークを構築するという。
150kWの急速充電器なら、感覚的にはコーヒーを飲む間、あるいはトイレを借りるわずかな時間で100km走行分に相当するエネルギーを充電することができる。e-tron GT quattro/RS e-tron GTならそういう使い方も多いだろうが、常にフル充電にしておく必要はなく、その日に使うぶんだけディーラーに立ち寄って充電すればいい。そういう使い方にも対応すべく、整備を進めていくということだ。
暴力的と言っていいほど強烈な加速
先にe-tron GT quattro/RS e-tron GTのバッテリー容量を記しておくと、総容量は93kWh、実際の使用容量は84kWhで、カタログに載っている一充電走行距離は534kmである。筆者はe-tron系初のRSモデルとなるRS e-tron GTを羽田空港の周辺と首都高を小一時間試乗しただけなので、フル充電状態でどれだけの距離を走ることができるのか、感覚をつかむまでには至らなかった(別の機会に富士スピードウェイも周回したが、航続距離の参考にはならない)。アウディ・ジャパンによると、実感としては400km程度だという。
「アウディ・ブランド全体のプレミアム感をリードする存在」を謳うだけあり、e-tron GT系の佇まいはプレミアムなムードにあふれているし、多分にスポーティである(試乗車はRS e-tron GTだったので、以下、RS e-tron GTを軸に説明)。とくに、大きく張り出したリヤフェンダーは迫力満点だ。床下に大容量のバッテリーを積んでいるのに全高1395mmのローフォルムを実現しているのも特徴である。
そして、ローフォルムなのに大人4名に充分な居住スペースを確保している。体格によっては、後席の頭上空間はタイトに感じるかもしれないが、足の置き場に困ることも、窮屈に感じることもないはずだ。足の置き場にあたる場所はバッテリーの搭載を避けたレイアウトになっており、ただ後席があるだけではなく実用的である(プラットフォームを共有するタイカンも同様)。
インテリアは、最新のアウディを知っている人にとっては新鮮味を感じないかもしれない。デジタル化が進んでいるし、デザインは洗練されてはいるものの、e-tron GT系だけ特別という感じはしない。見慣れたアウディの景色が広がっている。ただ、スポーツモデルらしい緊張感にはあふれている。低い着座位置がもたらす独特の視界がそう感じさせるのかもしれない。
試乗車のRS e-tron GTはオプションのレザーシートを装着していたので実車での確認はできなかったが、インテリアにリサイクル素材を多用しているのが、「サステナブル」を旨とするe-tron GT系の大きなポイントである。オプションでレザーフリーパッケージを選ぶと、フロントシートはKaskade(カスケード)と呼ぶリサイクル素材を使う(RS e-tron GTは標準装備)。回収されたペットボトルをプラスチック粒子に加工し、そこから繊維にし、最終的にはウールのような風合いを持つクロスにする。そのクロスを人工皮革と組み合わせ、スポーツシートを仕立てている。動物被害軽減と温室効果ガス低減の観点から、昨今、プレミアムブランドでは脱レザーがトレンドとなっている。その最新事例がレザーフリーパッケージというわけだ。
フロントとリヤにそれぞれモーターを積んでいることに変わりはないが、e-tron GT quattroとRS e-tron GTではモーターの出力が違い、e-tron GT quattroが最高出力390kW(530ps)なのに対し、RS e-tron GTは475kW(646ps)だ。モーターはアクセルペダルの踏み込みに対するレスポンスの良さに特徴があるが、出力を増すごとに加速の面で威力が増す。475kWとなると暴力的で、一体、ヘッドレストがなかったら首はどうなっていたんだろうと心配になるほどだ。この加速力を手に入れるだけでも、RS e-tron GTを選択する理由には充分なりうる。
e-tron/e-tronスポーツバックもそうだが、e-tron GT系もアクセルオフ時の基本はコースティング(惰行)だ。回生ブレーキが適度に利いたほうが速度コントロールはしやすいと感じる向きは、戸惑いを感じるかもしれない(筆者もその口だ)。e-tron GT系とプラットフォームを共有するタイカンもアクセルオフ時はコースティングが基本で、「減速したければブレーキを踏め」という考え方だ。踏んでも最大0.3Gまでの減速は回生ブレーキで済んでしまうというから、日常走行ではほとんど油圧ブレーキの出番はないだろう。
タイカンとe-tron GT系が異なるのは、後者はパドルシフトを備えること。これを操作することでアクセルオフ時に減速力を発生させることはできる。しかし、パドルを引いても筆者には物足りなく感じた。発表になったばかりのQ4 e-tron/Q4 スポーツバックe-tronはアウディ初となるBモードを備えており、「アクセルペダルだけで速度調整ができるワンペダルでのドライブ感覚」が味わえるという。アウディは市場の声に応えて方針転換をしたのだろうか。それとも、車種によって考え方を変えているのだろうか。気になるところだ。
アウディRS e-tron GT 全長×全幅×全高:4990mm×1965mm×1395mm ホイールベース:2900mm 車重:2320kg サスペンション:F&Rウィッシュボーン式 モーター型式:EBG-EBE 定格出力:250kW 最高出力:475kW 最大トルク:830Nm 搭載電池:リチウムイオンバッテリー 総電圧:723V 総電力量:93.4kWh 駆動方式:AWD WLTCモード一充電走行距離:534km 交流電力量消費率:200Wh/km 市街地モード 213Wh/km 郊外モード 199Wh/km 高速道路モード 203Wh/km トランスミッション:F/1速固定式 R/2速 車両価格○1799万円 試乗車はオプション(264万円)込みで2063万円