eBikeを知るために、まず走れ! 【MF自転車部】

eBikeで森を疾る!

Motor-Fanなのに何をやっているのか? と思われるかもしれないが、これから先、電動化の波は自動車ばかりではなく様々なモビリティに恩恵を与えそうだ。ここではそんな新たなモビリティを解説したり、いろいろな体験をして行きたい。

Photo:中野幸次
取材協力:BOSCH / フォレストアドベンチャー

電動アシスト自転車にも適材適所 eBikeはダイナミック・ライドのために

MTBというのは、“マウンテン”=“山”のバイクなのだ。大方の場合、それをストリートダウン=街乗りとして使っている。もちろん、それはそれで冒険的で心地よいのだが、本来の牙というものを知っておきたいという欲求もある。

それは車の世界のSUVについても言えると思う。ただ、最近流行のSUVには名ばかりのものも少なくないので、スタイルだけで遊ぶのがいいかもしれない。しかし自転車の世界はどうやら違う。やろうと思えばちゃんと悪路でも走れる、それがMTBなのだ。

そしてさらにそれが電動アシストだったならば……、そこにはどんな世界が待っているのだろうか。そこで今回はeBikeの中でもオフロードを楽しめるeMTBで森に繰り出してみた。

といっても、よりヘビーな走りを堪能しようと思ったら、まったくの素人がただ山に出るわけにはいかない。ここではフォレストアドベンチャーの岩間さんに指南を受け、山梨県鳴沢周辺の紅葉台からのガイドツアーに挑んでみた。

走行するフィールドは、ハイキングのルートでもあることから歩行者最優先。すれ違う人と挨拶をしあって、誰もが気持ちよく楽しむ精神も大切だ。

 試乗するモデルは一部パワートレインを提供するBOSCHが用意してくれたモデルもあり、TREK(トレック)やcorratec(コラテック)そして、Cannondale(キャノンデール)のTOPSTONE NEO Lefty 3という変わり種もあった。このトレイルライドに関しては主にTREK Rail 9.7 とRail 5(いずれも2021モデル)をギアとして使用した。

言ってみるなら本格SUVに乗っている感覚

 ……とは言っても、学生時代以来自転車というものにあまり縁がなく、こんなバイクはまさに素人。本格的なフィールドで電動アシストのついたeMTBを走らせるのは初めて。どんなレポートになるか不安もあるが、これから始めたいと思っている人にとって何かしら参考になれば…とは思うのだが。

 ところでこのRail 9.7とRail 5はいずれもフルサス仕様(前後にサスペンションを採用するモデル)のeMTBで、よりヘビーデューティに、そしてアクティブな走りが可能なモデル。スタイルもほぼ一緒なのだが、9.7がカーボンフレームとなる。と、あっさり説明しているが、9.7は最新の2022モデルでなんと90万4200円、5で68万5300円というから、生半可な気持ちで買えるモデルではないことは最初にお断りしておこう。

TREK Rail 9.7(2021年モデル) フルカーボンフレームに前後ともサスペンションを採用。パワーアシストユニットはBOSCHのハイエンドユニットPerforance CXで、ギヤはリヤ12段変速式。ディスプレイもBOSCHのスマホのアプリと連携できるハイエンドモデルKiox。ハンドルバーを握ったまま操作が可能。

この9.7は以前にしばらく試乗のためにお預かりして、街中を中心とした走行レポートをお届けしたことがあったモデルでもある。とにかくサスペンションの動きがよく、ラフな道の走りを楽しいものにしてくれるものだった。ただし、バーハンドルが一般的な普通自転車の日本のレギュレーションである600mmを超えた一般のMTBよりも大きなサイズとなるので、軽車両扱いとなり自転車走行が許可される歩道であっても、走れないことになる。

そのオーバーサイズのためか、人の多い歩道と車道が混じり合うような場所、商店街のような場所では大きさが手にあまり、歩行者の動静に気を遣う感じもあった。また、サイクリングロードでもオフロードでのトラクション重視のタイヤは、少し転がり抵抗が大きなようで大きめのロードノイズを上げながら走る感じ。

もちろん電動アシストは強大なので全くストレスフリーなのだが、そんな風に気を遣うあたりは、クルマでいうならばランクルやハイラックスサーフを運転しているようだ。ただしこの印象はネガなものばかりではなく、アップライトな姿勢でのライディングは、ドロップハンドルのロードサイクルに比べて見晴らしがよく、この点でもSUVに乗っているかのような感覚だ。

eMTBはMTBでは難しいヒルクライムの楽しさも手に入れた!

そんなちょっと街中ではやや扱いにくいと感じるモデルだが、この林道を狭くしたようなフィールドに持ってくると、その印象は大きく変わった。Rail 9.7で走り出すと、重装備のように思われていたサスペンションや、太いタイヤ、そして幅広のバーハンドルさえもが頼もしい。というより、走り出しから快適なのだ。

TREK Rail5で山谷を楽しむ筆者。カーボンフレームでなくても、軽快感は変わらない。とにかく上りも下りも楽しい。

当初はパワーアシストをオフで走ってみたが、フラットに近いところではまったく問題なく ”アシストが必要なのだろうか?” と思うほど。ワイドなギヤリングも装備され、急坂にも十分対応できそうだ。

ところが、走り進めるうちにだんだん勾配がきつくなり、数人のツアーの中でも遅れ出すのが実感としてわかってきた。もちろんこのツアーはeMTBを用いてのものなので、周囲はパワーアシストを利用しているので平均速度はあまり落ちてこないのだが、こちらは知らず知らずのうちに速度が低くなっているようだ。

ここからが急勾配。先頭を走るのはフォレストアドベンチャーの岩間さん。隊長のようにぐんぐん進む。

このツアーの話を聞いてみると、自転車に乗れれば広く誰もが参加できるもので通常のコースでは高いスキルを持つ人を対象にしているわけではないという。それこそ、観光や散策の感覚でeMTBに乗りに来るというお客さんが多いとのこと。一般的にはeMTBを用いることで、より気軽に疲れることなく長距離の散策ができるようになったという。自転車の中でもeBikeを異端視する向きもあるが、ハイキングの幅を広げているという、こんなメリットも生まれたのだということは是非とも知っておきたい。ただし、今回のコースはトライアルのため、かなりハードな設定だという。

事実、ここからのコースは到底電動アシストがなければ、自分にとって至難の業になってくる。それどころがパワーをオンにすることで、余裕を持って上のギヤを選択することができる。何よりも実感できるのは、周辺の景色を見る余裕ができることで、散策のツールになっていることだ。もし電動アシストがなければ登坂に集中するだけで、景色を楽しむ余裕などはなかっただろう。

同行したアルバイトで撮影助手の岩本君。若いだけに、やっぱパワフル。

小一時間かけて山頂に到達すると、西湖を臨む絶景と出会うことになった。徒歩でのハイキングならば倍以上の時間がかかることを考えれば、このeMTBがもたらす行動範囲も広く移動距離も長い。途中に超急勾配の難関があり、かなり息を切らしてしまいバイクを降りて押すこともあったが、アシストのないMTBならば、疲労困憊(こんぱい)どころか途中でリタイヤだったに違いない。

山頂からの景色。気がつけばこんな高い場所まできてしまった。それも自転車で…。

改めて、こんなところまで“自転車”で来られてしまうのだ、という驚きは大きい。

ここからの帰りはダウンヒルをTREK Rail 5で。このモデルは9.7のテクノロジーをベースに、フレームがアルミとなることで手軽な価格としている。この両車に採用されているのがドロッパーポスト。これはハンドルに装備されたレバーの操作で、サドルのロックを外して下げることができるもの。特にダウンヒルを立ち乗りで下る場合に、上体を上下に移動させやすくして、衝撃の吸収を図ったりバランスを取るのには実に便利だ。

本人はガンガン下っているつもり。この先のハードな路面ではドロッパーポストを利用し、サドルを下げて立ち乗りで…。まさに、気分だけは凄腕MTB使い。

eMTBはパワーアシストによって、ダウンヒルだけでなくヒルクライムの楽しさも手に入れた。これが意味することは、山や丘を越えてのツーリングが飛躍的に楽になったとうことだ。これまで、クルマやバス、電車でしか行けなかったところに気楽に行けるようになっただけでなく、大きく疲れずに移動できることから途中の景色を楽しむなど、移動すること自体に楽しむができたことになる。

自転車と同じ形をしているから気がつきにくいが、eBikeは新しいコンセプトを提供してくれているのである。

ところで、冒頭に紹介したCannondale TOPSTONE Lefty 3とは、ドロップハンドルのロードバイクでありながらグラベルも走れるという、ラリーカーのようなオールラウンダーだ。このモデルに関しては、次にレポートしてみたい。

Cannondale TOPSTONE Lefty 3。ドロップハンドルながら、グラベルも走れるラリーカー的モデル。これでいて前後サスペンションを持つ。こちらも追って紹介させていただきます。

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著者プロフィール

松永 大演 近影

松永 大演

他出版社の不採用票を手に、泣きながら三栄書房に駆け込む。重鎮だらけの「モーターファン」編集部で、ロ…