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新型アウトランダーPHEVは、三菱の「四駆王国」復活の第一歩だ!
実に10年ぶりのモデルチェンジだという。三菱アウトランダーPHEVの話だ。その上、発売から1月強で9000台の受注を記録し、2月初旬現在で納期が5か月ほどになっているというから、三菱自動車にとっては久しぶりに明るい話題だろう。
アウトランダーはかつて存在したSUV「チャレンジャー」の分家であり、「エアトレック」の後継モデルとして登場した。初代チャレンジャーが登場した1996年頃と言えば、まだ大名跡パジェロの元気がいい頃で、三菱は「四駆王国」と言われていた時代。SUVを登場させたものの、市場ではまだクロカン四駆の方が主力だった頃で、当時のチャレンジャーは“廉価モデル”的な位置づけだったと思う。
しかし時代は移り変わり、21世紀の今はSUVが自動車市場の中心にいる。三菱は周知の通り、21世紀に入って暗い時期が続いた。それが商品イメージにも少なからず影響し、やがてパジェロやランサーなどの代表モデルを次々に失っていく。市場を大幅に縮小せざる得ない状況の中で、三菱が見出した活路はEV化だ。アイミーブやアウトランダーPHEVは需要こそ小さかったが、三菱が再び明るい場所に出るために必要な技術の種子だったと言える。
2005年に初代が登場したアウトランダーだが、まさか同社の屋台骨になるとは誰もが思っていなかったと思う。そもそもはエアトレックの後継モデルとして登場したが、エアトレックが地味なクルマだったこともあり、初代アウトランダーもそのイメージをなんとなく引きずってしまったように思える。2011年に2代目にスイッチしたが、モデルチェンジを行ってもなお、なんとなく影の薄い印象が拭えなかった。
2012年にPHEVが加わることが発表された時、ユーザーは改めてアウトランダーというモデルを再認識したのではないだろうか。2015年にはダイナミックシールドという三菱の新世代デザインコンセプトにより、その地味顔を整形。当時、そのデザインは大いに世間を騒がせたが、顔や尻を変えても、ベースとなるボディラインまではいじれない。やはりそこにやや残念な感じがあったのは確かだ。
PHEVの技術はと言えば、2015年、2017年、2018年、2019年、2020年に改良を実施。当初はただの実験的な存在として市場に捉えられていた同モデルを、実用的な商品へと高めていったのである。そして、3代目。
ここまでスタイリッシュなデザインができるなんて!
すっかりユーザーに定着したダイナミックシールドデザインは、ボディの全面刷新によって次のステップへと高められたのが分かる。大型化したヘッドライトが現代的なテイストを演出しており、欧州車に通ずる上品なセンスも身に付けた。サイドのアクセントラインは先代のイメージを踏襲しつつも、ドア中央に大胆な切り込みを施し、かつての三菱車が持っていたアクティブでマッチョなイメージを再興している。
リアゲートの造形もなかなか見事で、大きなヘキサゴンの切り込みと、繊細なテールランプの凹凸を巧みに組み合わせることで、ダイナミックシールドから始まるデザインプロトコルを、力強く、そして静かに完結させている。正直なところ、三菱というメーカーがここまでスタイリッシュなデザインをしてくるとは思わなかった。
ツートーンカラーの採用も、欧州車的な演出のひとつとして、ユーザーに好意的に受け止められると思う。モノカラーだと多少スタイリッシュすぎるきらいがあるが、ツートン、それにオプションのルーフレールを装着すると、さらにイマドキのオフ系SUVらしい力強さが増す。
驚きは、車内に入っても続く。グレードによって使われているカラーやトリム素材は異なるが、基本の意匠はシンプルモダン。今の時代の上質感という香りを巧みにインパネや質感に表し、“装備”ではなく“インテリア”に昇華させている。しかし品がいいだけではない。例えばメーターフードだが、変則的な六角形を採用している。往年の三菱4WDファンなら気づくと思うが、これは同社がノックダウン生産していたJeepのメーターを逆さにした形状だ。一見するとスタイリッシュにまとめた意匠の中にも、三菱らしい土の匂いがする力強さをデザイナーは込めたのではないだろうか。
シビれたのはPグレードに採用されているセンターコンソールのシルバーパネルで、セレクターレバーの形状、S-AWCのダイヤルと相まって、非常にいい空間になっている。他にもセンターコンソールのサイドの形状やクロスステッチの入ったシート&ドアトリム、ダッシュボードの吹き出し口周辺のトリム処理など、デザイナーが世界中のクルマにおける“上質とは何か”をよく研究したことが伝わってくる。BOSEのオーディオシステムを搭載したのも、上質感を成功に導いているファクターのひとつだ。何度も失礼だと思うが、「えっ、これが三菱車?」と思える空間だ。
さて、PHEVシステムについて。エンジンは先代の4B12型2.4L直4エンジンの踏襲となったが、発電効率は改善。さらに車軸への駆動経路を見直し、燃費も改善している。だがPHEVと言えば、やはりモーターである。フロント・リアともモーターを一新し、下記のように大幅な出力アップを実現した。
【フロントモーター】
最高出力:先代60kW→現行型85kW
最大トルク:先代137Nm→255Nm
【リアモーター】
最高出力:先代70kW→現行型100kW
最大トルク:先代195Nm→195Nm
数値を見れば、その性能向上は一目瞭然だ。さらにバッテリーも性能アップしたものを搭載。電池セルを80個から96個へと増やし、総電圧350V・総電力量20kWh(先代は総電圧300V・総電力量13.8kWh)を実現している。加えて、新しい冷却システムと温度調節システムを採用することで、高低温時の電池のコンディションをベストなものにしているという。
20インチタイヤを完全に履きこなした快適な乗り心地
さて、ここからは実際に乗りながら、新型アウトランダーPHEVのトピックスをお伝えしていきたいと思う。最初に正直なところをお伝えすると、先代のアウトランダーPHEVについては、良くも悪くもないという印象だった。SUVとして考えれば平凡な乗り味だが、EVモードで走った感じにはやはり新鮮さはある。しかし、電池が切れればHVとしては特筆するほどではない。時代を先取りしたオートモーティブであることが、アウトランダーPHEVを少しだけひいき目にしていたという程度だったのである。
よく、この手のインプレッションは「提灯」だと揶揄されることが多い。しかし、このクルマに乗り出した瞬間に「ん?!」という鮮烈な印象を覚えるのが、このモデルのファーストインプレッションだ。PHEVは重量のあるバッテリーユニットを積まなければならないという、まさに重荷がエンジニアに課せられる。重量増は、サスペンションセッティングの足かせになるのは自明の理だ。しかも、この「P」は255/45R20という難しいサイズを履いている。それでも、この滑らかな脚の動きと快適な乗り心地に、驚かないわけがない。
筆者はかつて3台の三菱車を所有し、仕事で多くの三菱車に乗ってきたが、このようなフィーリングのサスペンションは記憶がない。2トン超えの車両重量にも関わらず回頭性は抜群だし、フラフラしたところがない。それでいて、乗り後心地はソフトで、ハーシュネスをほぼ感じさせない。試しに後輪車軸の上になるセカンドシート、サードシートにも座ってみたが、運転席・助手席とほぼ変わらない快適さを享受できた。内外装のスタイリッシュな変貌に呼応するように、乗り味の作り込みに妥協がない。
車重を感じさせないキビキビとしたハンドリングは、前後の軸重バランスによるところも大きい。前54対後46という若干前寄りの荷重バランスは、自然な操舵感、回頭性を生むと同時に、オフロードにおけるトラクションも念頭に置いてセッティングしたものだ。
さてPHEVは、電力があるうちはEVで走り、道中で電池切れになった場合はHVのパラレルで走るわけだ。そこは電力次第ということになってしまうわけだが、その範囲内でもユーザーに選択肢を与えたのが、バッテリーセーブモード/バッテリーチャージモード/EVプライオリティモードのスイッチ操作である。
同様のシステムが、トヨタのPHVにも採用されているが、トヨタのPHVは2つのスイッチでモードを選ぶのに対して、三菱のPHEVは1つのスイッチで3つのモードの切り替えができる。これはトヨタよりも分かりやすい。さらに、ワンペダル運転ができるモードを別スイッチにすることで、回生ブレーキの強さを任意で選ぶことが可能だ。
ちなみにこのモードで運転すると、アクセルを離した時のバックトルクのような状態が強くなるため、アクセルペダルだけで加減速の調整ができるのだが、シチュエーションは選ぶ気がする。渋滞時のストップ&ゴーが繰り返されるような状況では、有効なモードだと思う。
EVでのドライブフィールは、以前よりも自然な感じ、より内燃機関のクルマをドライブしている感じに近くなった気がした。回生時の空走も適度に調整されており、スッと出てしまうような不安感はほぼない。もちろん、モーターの高出力化は顕著に感じられる。特に高速の加速では、EVならではのシャープな走りを堪能できるだろう。
新型では電動ステアリングが採用されているが、この制御も非常に自然で、違和感のある介入もなく、気持ち良くドライブできた。車線維持支援機能が働いているようだったが、ステアリングを通じての過度のインフォメーションやトルク変動はほぼ感じさせない。モーターの出力特性と合わせて、ごく自然にドライブできることは、エンジン車からの乗り替えユーザーにはうれしいポイントのひとつだと思う。
さて、快適なドライブを実現しているのは、シートの作りの良さによるところも大きいだろう。従来の三菱車の標準シートは、あまり形状やクッション性にこだわりを感じさせなかった。トリムがファブリック、レザーに関わらず、体格に左右されない汎用的な座り心地を求めている感が強かった。しかし、インテリアデザインに強いこだわりを見せている同車だけあって、今回のシートは完成度が高いと思う。
シートクッション、シートバックの反発力のチューニング、形状は、多様な体格への対応を考慮しながらも、優れた快適性やホールド力を備えている。これは全席とも同じで、特に感心したのはサードシート。ここは身長160cm以下を想定した、いわゆる子供用だが、ヘッドレストを大型化することで、高いホールド性を確保している。身長180cmの筆者が座るにはレッグスペースが足りなかったが、それでも座った時に心地良さを感じることができた。またサードシート付近の遮音性も抜群で、長時間座っていても疲労感が少ないのではないかと思う。
さて、SUVで気になるのは、ラゲッジスペースのユーティリティだが、これはまずまずの合格点。サードシートは完全にフラットな床下収納ができるが、セカンドシートは若干の傾斜が残る。車中泊には気になる点だが、セカンドシートの快適性を確保しながら、荷室長(セカンドシート折り畳み時)2040mm、荷室幅最大1300mm、室内高1240mmを実現したのは頑張った方だろう。欲を言えば、もう少し室内幅は欲しいところだ。ちなみに、ゆくゆくは内装が豪華仕様の5人乗り2列シートの追加もあるということなので、そちらも検討していただきたい。
最近乗った某輸入車のPHVの印象がいまひとつだっただけに、新型アウトランダーPHEVのオンロードでの快適なドライブフィールがさらに際だった。しかし、このクルマを語る上で、いや三菱車を語る上で、オフロード性能は欠かせない。後編では、このクルマが秘めた真の情熱と魅力をお伝えしようと思う。
三菱アウトランダーPHEV P・主要諸元
■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4710×1860×1745mm
ホイールベース:2705mm
車両重量:2110kg
乗車定員:7名
最小回転半径:5.5m
燃料タンク容量:56L(無鉛レギュラー)
■エンジン
型式:4B12 MIVEC
形式:水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量:2359cc
ボア×ストローク:88.0×97.0mm
圧縮比:11.7
最高出力:98kW/5000rpm
最大トルク:195Nm/4300rpm
燃料供給方式:ECI-MULTI(電子制御燃料噴射)
■フロントモーター
型式:S91
定格出力:40kW
最高出力:85kW
最大トルク:255Nm
■リヤモーター
型式:YA1
定格出力:40kW
最高出力:100kW
最大トルク:195Nm
■動力用主電池
種類:リチウムイオン電池
総電圧:350V
総電力量:20kWh
■シャシー系
サスペンション形式:Fマクファーソンストラット・Rマルチリンク
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:255/45R20
■燃費・性能
【ハイブリッド燃料消費率】
WLTCモード:16.2km/L
市街地モード:17.3km/L
郊外モード:15.4km/L
高速道路モード:16.4km/L
EV走行換算距離(等価EVレンジ):83km
充電電力使用時走行距離(プラグインレンジ):85km
【交流電力量消費率】
WLTCモード:239Wh/km
市街地モード:220Wh/km
郊外モード:221Wh/km
高速道路モード:262Wh/km
一充電消費電力量:19.90kWh/回
■価格
532万700円