目次
○:唯一無二の存在感と高級感。意外ににスポーティな走り
×:1列目は良いのに、2列目以降の乗り心地が期待を下回る
“キャディ”の名前で米国民に親しまれてきたキャデラックは、20世紀初頭から続く高級車ブランドである。彼の地では多くの著名人がキャディを愛してきたが、中でもアメリカ大統領の公用車が「キャデラック・ワン」というコール名で使われていることは有名だ。
昨今は世界中のプレミアムブランドが高級SUVをリリースしているが、キャデラック「エスカレード」はその流れに先んじて発売された。初代のデビューは1999年なので、SUVがここまで世界的なムーブメントになる前に登場しているわけである。
初代モデルはサバーバンの高級バージョンみたいなフルサイズSUVだったが、2代目は映画『マトリックス・リローデッド』の劇中に登場したこともあって、世間の注目を一気に集めた。代を重ねるごとにデザインが洗練され、5代目となる現行型はさらにソフィスティケイトされたエクステリアとなり、一層の存在感を示している。
マスクデザインは国産有名オフロード4WDにソックリだが、高級感と洗練度はエスカレードが上回る。グリルを見ると、ルーバーの形状が非常に複雑で、日本の古の図版デザインを彷彿させる美しさだ。セカンドドア付近まではウェッジ調のアクセントラインを構成しながら、リアは先代から踏襲したスクエアなデザインとなっている。この形状から鑑みても、サードシートの居住性が十分に高いことが分かる。
スポーティなデザインのSUVは多くても、格調を感じられる車種は少ない。そういう意味では、このエスカレードはサイズ共々、貴重なモデルと言えるだろう。
さて車内に入ると、そこは紛れもないキャディワールドだ。先代はセンターコンソールにボリューム感を与え、有機的なデザインに仕上げていたが、それに比べるとスッキリとした感がある。全体の意匠は2代目に近く、先祖返りしたようにも見える。液晶のメーターパネル、情報モニターは運転席に集約されており、同乗者の視界を妨げないという配慮が感じられる。これも、本国でのショーファーカーという役割ゆえなのかもしれない。エアコンのコントロール部は非常にコンパクトだが、往年のアナログラジオを思わせるデザインが実に洒落ている。
試乗車の車内はホワイトレーザーで統一されており、まさにTheキャデラック。シートは意外にもクッション、シートバックとも薄めに作られているが、これはパッセンジャーの乗降性や圧迫感を考慮してのことかもしれない。座り心地は悪くないが、想像していたよりクッションが硬め。これなら長時間座っていても、腰が痛くなることもなさそうだ。
セカンドシートはもとより、サードシート付近のレッグスペース、ヘッドルームとも十分に確保されている。ただ、Cピラー部分の内張が車内に大きく張り出しているため、それが若干目障りだった。
さてエスカレードには、先代から受け継いだ6.2L V8ガソリンエンジンというマッチョなパワーユニットが搭載されている。今の日本のガソリン価格を考えると語るのも恐ろしい気がするが、やはりキャデラックはV8が載ってナンボのクルマである。416ps/63.6kgmという出力のおいしいところだけ使いながら、ハイウェイをドライブするのがアメリカ車だ。
パワートレーンは10速ATに、セレクタブル4WDという四駆システムが組み合わされている。セレクタブル4WDも先代からのスライドで、「4WD H」「AUTO」「2WD H」から任意で選ぶころができる。2WDはFR、AUTOは路面状況に合わせて駆動トルクを前後輪に伝えるトルクスプリット式のフルタイム4WD、そして4WDはセンターの差動装置を直結にする。
“H”とあえて表記しているのは、このシステムにはサブトランスファーがないからだ。ローレンジがないため、強力なトラクションを発揮することがないが、クルマのキャラクターを考えるとハードなオフロードは走らないだろうし、このエンジンがあればボートなどの牽引も容易だろう。
さて、走り出してみると、外観やキャデラックという名前から想像する乗り味とは大分違うことがわかる。まず6.2L V8ガソリンエンジンだが、10速というATを使っていることもあって、ジェントリーに発進し始める。もちろん、踏み込めばそれなりの加速はするが、そこはキャデラックというブランドイメージもあってか上品に仕上げている。
乗り心地も、もっと船のようにゆったりとした感じかと思いきや、意外とキビキビとしたフィーリングなのである。フロントサスがダブルウイッシュボーン、エンジンはV8ということもあってか、前輪の舵角が思いの他よく切れる。そのため、ちょっと1回では曲がれないかなというような細街路でも、スムーズに曲がることができた。
さすがにアメリカンフルサイズという巨軀には気を遣うが、3ナンバーが増えている昨今では、かつてほど巨大だとは感じなかった。ちょっとしたワインディング路にも入ってみたが、結構スポーティに走るので面白い。日本ではショーファーではなく、パーソナルカーとして所有する人がほとんどのようだが、置く場所さえ困らなければ、押し出し感の強いデザインも含めて魅力のあるSUVだ。
ただし、2列目以降のシートに乗ると、若干の残念感もあった。というのも、それこそ意外なのだが、後部座席に座った際に感じるハーシュネスが大きいのである。2、3列目シートとも、後輪軸の前に座るわけではないのだが、高速道路の継ぎ目などを通過する度に、お尻から背中にズドンと感じる。キャデラックだから、さぞかしラグジュアリーな乗り心地かと踏んでいたが、実際はそうでもなかった。
275/50R22というハイトが低いタイヤサイズが多分に影響していると思われるが、広々としたパーソナルスペースが各座席に与えられているだけに、ここは改善の余地があるのではないかと感じた。
さて気になるプライスだが、今回試乗した「プラチナム」は1555万円、フロントマスクがメッシュになる「スポーツ」は1595万円。サイズも堂々だが、お値段も堂々である。おいそれと手が出せるSUVではないが、レンジローバーやメルセデス・ベンツGクラスではない第三極として、富裕層にご検討いただきたい1台である。
キャデラック・エスカレード プラチナム・主要諸元
■ボディサイズ
全長×全幅×全高:5382×2060×1948mm
ホイールベース:3060mm
車両重量:2740kg
乗車定員:7名
燃料タンク容量:90L(無鉛プレミアム推奨、無鉛レギュラー使用可)
■エンジン
形式:水冷V型8気筒OHV
排気量:6156cc
ボア×ストローク:103.2×92.0mm
最高出力:306kW(416ps)/5800rpm
最大トルク:624Nm/4000rpm
燃料供給方式:電子式燃料噴射(筒内直接噴射)
■駆動系
トランスミッション:10AT
駆動方式:4WD
■シャシー系
サスペンション形式:Fダブルウイッシュボーン・Rマルチリンク
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:275/50R22
■価格
1550万円