連載

自衛隊新戦力図鑑

航空自衛隊のCH-47JとUH-60J

航空自衛隊の輸送ヘリCH-47J。石垣島で行なわれた大規模防災訓練で海上自衛隊輸送艦「おおすみ」の飛行甲板へ着艦する。空自ヘリが海自艦へ発着艦するなど、陸海空自衛隊を統合運用する訓練は近年精力的に行なわれている。

航空自衛隊は輸送ヘリとしてCH-47J、救難ヘリとしてUH-60Jを保有運用している。輸送ヘリCH-47Jは物資や空自隊員を輸送する航空機だ。各地の航空基地間などの物資輸送や人員の移動に使っている。

空自は日本の領空を警戒監視するためのレーダーサイトを全国各地に置いている。レーダーサイトは領空を脅かす不審機などを早く見つけるため沿岸部や山の頂上付近など、いわゆる辺鄙な場所に置かれることが多い。そこは交通が不便で往来にも難儀するような場所だ。そこで輸送ヘリCH-47Jを飛ばして補給物資の輸送などを行なっている。

長崎県対馬北端の海栗島レーダーサイトへ飛来したCH-47J。日常的に人員・物資輸送にあたる。背後の海上に風波が立っている状況からわかるのは、悪天候下での飛行訓練も行なうことで、サイトの生存性を担保するものだ。
海栗島レーダーサイトの遠景。東西方向に細長い地形で西端にレーダードーム、その他各所に隊舎などの施設が見える。写真手前の山々は対馬の北端部分の地形。

一例を見てみる。長崎県の対馬北端には海栗島(うにじま)という小島があり、ここにレーダーサイトが置かれている。海栗島は対馬本島から海を隔てて浮かぶ空自施設だけが置かれた島だ。人や物の移動には船か航空機を使うことになる。海栗島で働く空自隊員は日常的には対馬北部の港から専用船で往来し、遠方からの物資輸送などはCH-47Jが担うことが多い。

CH-47Jが運ぶのはたとえばレーダー機器類の維持運用に必要な物資、サイトや基地のインフラ設備に必要なモノ、本州や九州各地の空自基地から海栗島へ向かう人員などだと思う。とくに急を要する人の移動とモノの輸送は航空機の特徴である高速性が発揮される部分だ。CH-47Jのような大型ヘリの場合、余裕あるパワーに裏打ちされた積載性も生きてくる。

対馬は佐渡島や奄美大島に次ぐ面積の巨大離島で、我が国の辺縁部に位置する国境離島だ。対馬は韓国の釜山まで約50km、福岡県博多までは約130kmと朝鮮半島の方が近い距離に浮かぶ。こうした巨大で国境地域にある離島に、必要な人とモノを急いで運び込むのに輸送ヘリは必須だ。島内は現在、道路整備が進んで便利になり陸路での移動時間の短縮も期待できるようになったと思う。しかし昔は島南部・中心部の厳原から北部の比田勝までレンタカーで向かう場合、所要時間は3〜4時間も必要だった。対馬は急峻で険しい山岳地形を成し、山間部を縫うように作られた昔の道路はいわゆる『酷道・険道』のようなもので、通行に時間がかかり不便だった。自衛隊の移動や輸送には空路の方が合理的というものだ。

レーダーサイトは常時稼働しなければならないものだ。3月2日夕方の防衛省発表によると、同日午前10時23分ごろ、北海道根室半島沖の日本領海の上空でロシアのヘリコプターとみられる機体1機が確認され、領空侵犯の対処を空自戦闘機が実施してロシア機は退去したという。

この不審機を発見したのは根室の空自レーダーサイトだと考えるのが妥当だと思う。根室は北方領土を目前にする国境の町だ。納沙布岬の近くには空自のレーダーサイトが置かれている。本件からわかるのは国境に置かれた空自レーダーサイトは重要防衛インフラで、その機能維持は不可欠だということ。輸送ヘリの活動はサイトの機能維持に直結する。

このほかに空自は救難ヘリとしてUH-60Jを使っているのは以前ご紹介したとおり。UH-60Jの機体の左右に張り出した増槽(増加燃料タンク)を使った航続距離は約470kmと長く、ハイパワーな2基のエンジンを駆使した実用上昇限度は約4500mもある。この高高度性能は日本の山岳地のすべてに対応できるものだ。救難機として見た場合、長いアシを生かして広範囲を捜索し、高空まで上がれることで山岳救助にも対応できる機体だとわかる。

陸上自衛隊:ヘリコプターの能力を見る①、「ヘリボーン」地上部隊を空輸し素早い展開を行なう

前回は自衛隊のヘリコプター「UH-60J/JA」を紹介した。ヘリの主に救難分野での利点に注目してみたが、垂直離発着や空中静止が可能なヘリの能力は多様なものがある。今回は人員や物資などを急速輸送して作戦を展開する空輸手法「ヘリボーン」を見てみよう。 TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

https://motor-fan.jp/mf/article/42957/

海上自衛隊のヘリの使い方は「哨戒」と「輸送」「救難」

護衛艦の飛行甲板へ着艦する海上自衛隊哨戒ヘリSH-60K。写真/海上自衛隊

海上自衛隊のヘリの使い方は「哨戒」と「輸送」「救難」だ。哨戒とはいわゆるパトロールのこと。これには哨戒ヘリSH-60J/Kが使われており、現在の主力は能力発展型といえるSH-60Kになる。

哨戒ヘリの主務は海中に潜む潜水艦を見つけ出し「狩る」ことにある。対潜装備には新型ディッピング・ソナーを搭載している。これは海面上空でホバリングしながら吊り下げたソナーを海中へ降ろし、音波を使って潜水艦の位置を特定するものだ。戦術情報処理装置も搭載し探知能力は向上している。

ディッピング・ソナーを海中へ降ろしているSH-60J。降下させたソナーによって潜水艦の位置を特定する。機体右側後部に搭載された磁気探知装置(MADバード)は海中を潜航中の潜水艦が発する磁気の乱れを探知し、位置を特定するもの。取り付け部からワイヤーで繰り出される仕組み。

発見した潜水艦に対抗するための武装は対潜魚雷や対潜爆弾、空対艦ミサイルや機関銃まで装備できる。固定化された武装品はないが、必要に応じて機外の懸架装置やドア付近などに武装品を取り付けられる。キャビンのスライドドア付近には陸上自衛隊の車載機関銃を流用した7.62mm機関銃を、さらには機外に高性能対戦車ミサイル「AGM-114MヘルファイアⅡ」も搭載できる。海自が相手潜水艦に対抗する対潜戦では、海上の護衛艦と、その護衛艦から発艦した哨戒ヘリを組み合わせ、海空一体となって行なう。

海自砕氷艦「しらせ」に搭載された多用機CH-101。キャビンは最大36名が搭乗できる広さがある。写真/海上自衛隊
南極に到着した海自砕氷艦「しらせ」。後部の格納庫から飛行甲板へ多用機CH-101が引き出されている。写真/海上自衛隊

一方、海自の輸送ヘリでイメージしやすいのは砕氷艦「しらせ」に搭載された多用機CH-101だ。日本の南極観測を支援し人員や物資輸送にあたる「しらせ」は多用機CH-101を搭載して南極を往来する。CH-101は昭和基地などへ人員や物資の輸送でピストン飛行などを行なう。航空観察や観測作業、緊急時には救難対応も行んばえる能力を持つ。

このほか海自では掃海・輸送機に分類されるCH-101も保有運用中で、文字どおり航空機による掃海作業(敷設された機雷への対応作業)と、艦艇間や陸上基地間などでの輸送作業を担う。さらに救難機としてのUH-60Jを配備し、空自同様にレスキュー任務に就く。そして回転翼機の練習機としてTH-135ヘリも運用している。

陸上自衛隊:ヘリコプターの能力を見る②「緊急患者空輸」自衛隊ヘリを救急ヘリとして活用し続ける部隊

ヘリコプターの能力を見るシリーズで、前回は「ヘリボーン」に注目し、そのなかで消火活動も少しご紹介した。関連して、自衛隊ヘリは空飛ぶ『救急車』としても実働していることに今回は注目。その中身は医療インフラが不足している離島地域で発生した急病人や事故等による負傷者を高度医療施設まで空輸する活動だ。緊急患者空輸を行なっている沖縄県での陸上自衛隊ヘリ部隊、その対応状況の一端をご紹介する。 TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

https://motor-fan.jp/mf/article/43868/

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