清水浩の「19世紀の技術を使い続けるのは、もうやめよう」 第3回

脱・温暖化その手法 第3回 —極めて低効率で生まれた石炭・石油を利用する罪深さ—

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパーEVセダン"Eliica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日にEVの権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開しているEV事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

石炭は木を腐敗させる細菌が発達していなかった時期だけの産物

現在、大気中に含まれるCO₂の割合は約0.3%である。大量の化石燃料である石油、石炭、天然ガスが燃焼されることで、CO₂が発生し、その量が大気中で年々増えているわけである。これが温暖化を引き起こしていることは既に常識である。

石炭のもとは約3億年前に約5000万年かけて地球上で成育した大量の森林が倒れて土に埋もれたものである。酸素がない大気に触れない状態で長年保存され、その後石炭の成分だけが残ったものである。このころはまだ、木を分解して腐敗させる細菌が発達していなかったということで、長い間に化石化し、石炭となった。ここで大切なことは、5000万年かかって石炭のもととなる木が成長したということである。そしてできた石炭を人類は100年で使ってしまおうとしている。

地球の誕生からの歴史は46億年。現在の石炭は、人類誕生以前の顕生代の石炭紀
と呼ばれる約5000万年続いた時代の木々の体積によってできた地層から生まれた。
それを人類誕生以降の中でも、産業革命以降というわずか100年で使ってしまおう
としている。その効率は果てしなく低いものだ。

50万分の1となる石炭のエネルギー効率

石炭を作った森林のエネルギー源は太陽光である。これを木材は葉で吸収して空気中のCO₂と水を用いて光合成をすることにより成長する。なおかつ、空気中に酸素を放出するという活動を行っているわけだが、5000万年かけて100年で消費するということはこの比を生育期間、消費期間比とすると、石炭を作るためのこの比は50万分の1ということになる。この比のことを、太陽から石炭へのエネルギー変換効率とみなしてもよいと考えている。

こうして極めて低い比率で作られた石炭はエネルギーが凝縮しているためにわずかの量で熱を得ることができるために、効率が良いと思われがちである。しかし、実際の効率は太陽光エネルギーの50万分の1しか利用できていないことになる。この太陽光エネルギーがどれだけ有効に使えているかという比率あるいは効率の考えが、今後の温暖化対策にとっては決定的に重要な意味を持つ。

石油の起源も石炭同様に、太陽のエネルギーを受けて成長した生物が堆積して作られたという説が有力である。この説では100万年以上かかって生成されたとされているが、ここでもこれだけの時間太陽のエネルギーを起源として作られた石油が約100年で消費されようとしていることになる。するとその比率は1万分の1ということになる。

気温が10℃高い時代の堆積物を利用し尽くせば気温は10℃高くなる

もう1つ理解しておかなくてはいけないのは、石炭が出来た時期のCO₂濃度は現在の約2倍で、そのための地球の平均気温は約10℃高かったということである。それが大量の木を成長させることでCO₂を吸収し、それが地下に埋もれて、石炭として固定されてきたことになる。その結果、CO₂濃度が、今の値となって、人間が住みやすい環境となっている。

このため、人類が化石燃料を本当に全て消費してしまったら、それまで蓄積したエネルギーを還元し、CO₂を大気中に放出しつくしてしまうことになるので地球の平均気温が10℃上がるということに相当する。

IPCCの資料より。産業革命以降地球の気温は1.2℃上昇した。石炭紀の平均気温
は現代よりも10℃高かったということから、石炭紀に蓄積されたエネルギーを使
用してしまえば気温は10℃高くなると考えられる。

2022年2月28日に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)による第6次報告書によると、現在、地球の平均気温は化石燃料が本格的に使用され始めた産業革命から約1.2℃(2011~2020年平均)上昇しているとされている。それで温暖化の影響がここまで出ていることから考えると、温暖化の深刻さが改めて理解出来るところである。ここからも、本当に今アクションを起こさなければ、地球の未来を変えられないことに危機感を持っていただきたい。

TRDEX-1
筆者が1985年に作ったインホイールモーターを用いた電動二輪車。
東京アールアンドデーとセイコーエプソンの共同開発。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…