海上自衛隊:もがみ型汎用護衛艦「くまの」就役、島嶼防衛を睨み新鋭艦を増勢・戦力化を進める

海上自衛隊の最新型汎用護衛艦「もがみ」型、2番艦「くまの」。3月22日、艦の引き渡しと自衛艦旗授与式が行なわれた。写真/三菱重工
2022年3月22日、海上自衛隊の新型護衛艦「もがみ」型の2番艦「くまの」が建造メーカーから引き渡され、就役した。本艦は「FFM」という艦種記号で呼ばれ、従来型の護衛艦装備に掃海艦艇の機能を加えたものになる。どのような新鋭艦なのか、見てみよう。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

海上自衛隊の最新型汎用護衛艦「もがみ」型、この2番艦「くまの」が3月22日、建造メーカーの三菱重工マリタイムシステムズから海自へ引き渡され、就役した。艦の引き渡しと、海自の艦艇として就役することを示す自衛艦旗授与式が同社の玉野本社工場(岡山県玉野市)で行なわれた。「くまの」はこれに先立つ2020年11月19日、命名・進水式を経て海に浮かんでおり、その後の艤装や各種装備品などの整備、試験などを行なって今回の就役を迎えている。

「もがみ」型は計画当初には「3900トン型護衛艦」と呼ばれていた。本艦の計画自体は十数年前から動き出しており、節目節目でさまざまな仮称で呼ばれてきた。その後、この新型艦の艦種記号が「FFM」に決まった。この意味は艦艇の分類「フリゲイト(Frigate)」を示すFF、これに機雷戦(Mine warfare)や多目的(Multiple、Multipurpose)を意味するMを加えたものだという。

式典を終え、三菱重工マリタイムシステムズ玉野本社工場(岡山県玉野市)から出航する「くまの」。艦尾に自衛艦旗を掲げ、海自護衛艦として船出した。写真/三菱重工

FFMは1番艦「もがみ」と2番艦「くまの」の建造がほぼ同時期に行なわれた。しかし先に進水したのは2番艦「くまの」だった。これは1番艦「もがみ」の建造中にトラブルがあり進水順を変更したため。なにがあったかというと「もがみ」主機関のガスタービンエンジンを試験中に部品が脱落、これでエンジンが損傷し、修理の必要がでた。これにより2番艦「くまの」の進水を先行させたという。

進水を遅らせた1番艦「もがみ」は2021年3月に進水しており、このあと2022年4月には海自に引き渡され就役する予定だ。続いて3番艦「のしろ」が21年6月に進水し、2022年12月の就役を予定する。さらに21年12月10日に進水した4番艦「みくま」は2023年3月の就役を予定している。今年から来年にかけて就役が連続するFFM「もがみ」型は、後続艦の建造も含め近い将来にかけて全体で22隻を整備する予定だという。おおむね1年に1隻のペースで登場させ、目下のところ計8隻から10隻を用意する計画にあるようだ。ちなみに本艦は「フリゲイト」と呼ばれる艦にあたる。フリゲイトは昔からある艦艇の種類で、比較的小型で多目的性を盛り込んだ艦艇をフリゲイトと分類する場合が諸外国海軍でも多いようだ。

FFM「もがみ」型は、海自では従来にない新コンセプトの護衛艦だという。

海自の計画は『対機雷戦機能を持つ護衛艦を運用し、島嶼防衛に投入すること』を目論むものだ。平時は沿岸域を警戒警備しながら、有事となれば機雷戦(機雷除去や敷設等も睨む)や海上防衛全般を実行するものだ。沿岸域での使い勝手をよくしてあるが、対潜戦や対空戦、対水上戦などの従来機能ももちろん備えている。

FFM「もがみ」型の主要諸元や装備などをみてみよう。本艦は徹底したステルス化が施され、コンパクト化も図られた。主要寸法は全長132.5m、全幅16.0m、深さ9.0m、排水量3900t。汎用護衛艦としては小型で、「あさぎり」型と似たサイズ感だ。最大速力は約30kt(約55.6㎞/h)以上だという。

搭載された主機はガスタービンとディーゼルを併用する「CODAG(COmbined Diesel And Gas turbine:コンバインド・ディーゼル・アンド・ガスタービン)」推進方式。これは通常航行時はディーゼルで経済航行し、急加速時や高速航行時にはガスタービンを併用するもの。これで航続距離性能と加速・高速度性能の両立を図る。パワーは軸出力で約7万馬力。

主要武装は、62口径5インチ砲を1基、防空ミサイルにSeaRAMを1式、艦対艦ミサイルSSM装置を2式(左右両舷に1基ずつ)、対潜システムを1式、対機雷戦システム1式などを積んでいる。

この対機雷戦システムとは水中無人機を組み合わせた装置群を指す。海中で各種の機雷を捜索する無人機(UUV)と、水上の無人中継機(USV)から成る。両者ともいわゆるロボットで、水中・水上航走は自律方式や「もがみ」型からの遠隔制御方式、両方の統合方式も可能になると思われる。機械力を究めた掃海戦技術ということだろう。複数の無人機を投入するシステムは海洋・深海調査の業界では主流の技術でもあり、同様な無人機や技術を使う機雷戦・掃海分野でも今後は主流になると思う。

汎用護衛艦に対機雷戦能力が盛り込まれたのは防衛環境の変化、そして自衛隊と日本の抱える事情も関係する。ひとつには、今後の海上有事では従来型の大規模な海上戦闘などが発生する可能性は低下し、局地的だが激しい沿岸域戦闘が多発する可能性の方が大きいと考えた。ならば機雷戦を担当する掃海部隊の規模は縮小しておき、同時に日本防衛の課題である島嶼防衛を考えれば、沿岸域で能力を発揮するのはやはり掃海部隊だから、掃海部隊は離島防衛・奪回戦力である陸上自衛隊・水陸機動団と共に島嶼防衛に注力するべきという判断を妥当なものと考えた。実際、掃海部隊は海自の島嶼防衛担当戦力となった。こうなると掃海戦力全体は低減するのも事実だから、汎用護衛艦に掃海戦能力を持たせてこれを補完する考えが浮上し、これで計画されたのがFFM「もがみ」型ということになる。今後の防衛の要点と防衛力整備のバランス取りをした結果だ。

国際情勢や戦略環境の変化は早く、見通しも悪く予測も困難だ。だから新型装備は拡張性を重視するものが必要になった。変動する状況に合わせて必要な装備をゴッソリ交換するような機能を持たせる。同時に、装備の運用を少人数で行なう必要もある。これは人員不足にある海自の事情を反映している。現在と将来において、外敵以外に海自最大の敵は日本の少子高齢化構造にあるからだ。本艦は省力化・省人化と造船コストを抑えて設計・建造した海自初の護衛艦となった。乗員予定数は約90人で、これは現用の汎用護衛艦の半数程度だという。女性自衛官の居住区画も整備されていると思われる。建造費は1隻約460億円。これは通常型護衛艦建造費の3分の2程度であるという。

出航する「くまの」を見送る造船所の方々。写真/三菱重工

艦名の「くまの」は「熊野川」に由来する。熊野川は奈良県や和歌山県、三重県を流れる一級河川だ。流域は世界遺産に指定され、地域は古来よりの神聖な場所で、昔の日本の貴族や皇族方がいわゆる「熊野詣で」に出掛け、川を舟で下る水上参詣ルートというものだったそうだ。そして海自護衛艦は「天象、気象、山岳、河川、地方の名」を取って命名される。こうした古くからの重要河川からとった名前が艦名公募の中にあったようで、海自内での検討を経て岸信夫防衛相が決定した。ちなみにこの艦名は二代目になり、先代は「ちくご」型護衛艦10番艦「くまの」(就役1971年、退役2003年)だった。

また建造メーカーの三菱重工マリタイムシステムズ株式会社は、三菱重工グループにあって、三井E&S造船株式会社の艦艇・官公庁船事業を承継する新事業会社として2021年10月1日に発足した。本社は岡山県玉野市に置いている。海自護衛艦の引渡しを行なうのは同社にとって初めてのことになる。

この記事を書いている3月24日時点で、AIS(Automatic Identification System:自動船舶識別装置)の情報を見ると「くまの」は広島県呉に入港しているようだ。その後は横須賀基地に回航、配備されるのだと思う。横須賀には機雷戦と水陸両用戦を担当する掃海隊群の司令部と第1掃海隊が置かれているからだ。今後は戦力化・実運用に向けての各種運用試験が行なわれるはずだ。

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著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…