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自衛隊新戦力図鑑

対戦車火器は文字通り戦車や装甲車など装甲を施した車両に対して有効な兵器だ。個人が携行できるサイズで、主に肩に担いで射撃するタイプの火砲や誘導弾(ミサイル)発射機などをこう呼ぶ。その射撃操法から「肩撃ち兵器」などとも俗称されるものだ。威力は大きく、目標の装甲を貫いて撃破できる。

陸上自衛隊の対戦車火器「110mm個人携帯対戦車弾(LAM)」。写真/陸上自衛隊

ロシアによるウクライナ侵攻での戦闘を伝えるニュースのなかに、ウクライナ側がロシア戦車の車列に対して対戦車火器で攻撃した映像があった。車列に対して横方向からの攻撃だった。射撃手は相手戦車にある程度接近し、戦車の側面に向けて射撃、1発で1両の戦車を制圧していた。結果、各車は後退を始め、車列全体の立ち往生による全滅を避けることも意図して動き始めたが、それとほぼ同時に最後尾付近の戦車も同じように仕留められ、車列は一本道の上で進退が効かなくなったように見えた。この攻撃は待ち伏せに向いた対戦車火器の効果的な使用例だと思う。ロシア機甲戦力の侵攻ルートと位置情報を掴み、適所から伏撃したわけだ。

1〜2両の戦車を破壊しその場で動けなくすることで車列全体を足止めした。この目的は撃破した戦車で道路を塞ぎ首都への侵攻経路を閉ざすことと、同時に相手の補給路を機能不全に陥らせる効果も結果的にあったようだ。4月1日現在、キエフ北方付近の戦況はロシア側の後退が認められるとの報道もある。これが本当ならば、対戦車火器による戦闘をはじめとした北部方面の固い守りでロシアの戦略目標である首都占領を変更させたと考えられなくもない。

主に米国が大量支援した歩兵携行式多目的誘導弾「ジャベリン(FGM-148 Javelin)」をはじめとして、諸外国からも支援されているというこれら種々の対戦車火器を使った交戦は、ドローン(無人航空機)を使った情報収集・索敵・航空攻撃と合わせ戦果を挙げている様子なのが特徴だと思う。

陸上自衛隊にも同様な装備群、対戦車火器がある。まず「110mm個人携帯対戦車弾」だ。「LAM(Light Antiarmor Munition)」とも俗称される対装甲弾で、弾頭に成形炸薬を内包したロケット弾を発射する、使い捨ての携帯式無反動の対戦車火器だ。発射時には「カウンター・マス」と呼ばれる錘を後方に放出し、後方爆風や反動を抑えるようになっていて、塹壕などの比較的狭い場所からでも発射できる。ドイツが開発し、通称は「パンツァー・ファウスト」。1990年からライセンス生産されている。

■110mm個人携帯対戦車弾 主要諸元
●口径:60mm●弾頭直径:110mm●重量:13kg●ロケット弾重量:4.2kg●全長:1200mm●有効射程:数百m(固定目標、移動目標)●製作:IHIエアロスペース

もうひとつは「84mm無反動砲」。操作が簡単な無反動砲で、少々重いが可搬性は図られている。対戦車榴弾を射撃する対戦車火器として使うほか、榴弾を使った地域目標の面的な制圧も可能。照明弾や発煙弾なども用意されている。スウェーデン・FFV社が開発、1979年度から輸入・調達を開始し、1984年からライセンス生産を始めている。通称は「カール・グスタフ」。

陸上自衛隊の対戦車火器「84mm無反動砲」。写真/陸上自衛隊
射撃は写真のように主に肩に担いで行なう。個人携行式の無反動砲や誘導弾発射機の多くで採られる手法だ。

■84mm無反動砲 主要諸元
●口径:84mm●重量:16.1kg●全長:1130mm●有効射程:数百m以上(榴弾、対戦車榴弾)●製作:豊和工業

これらの対戦車火器は陸自では主に普通科(歩兵部隊)が携行・運用する。使い方は前述したウクライナでの交戦のようになるはず。射撃手は相手戦車など装甲車両の横方向に回り込み、防御力の弱い部分に向けて射撃する。対戦車榴弾による車内部の破壊を主に、走行部や駆動系統、エンジンを損傷させて走行不能とすることも狙える。運用は出会い頭の即射よりも待ち伏せ射撃に向いているから、相手の進行経路情報を事前に得ることが肝要だ。これらの射撃訓練の様子は「自衛隊新戦力図鑑2022」で掲載しています。

自衛隊新戦力図鑑2022

自衛隊新戦力図鑑の最新作です。
今回のテーマは、新型&現用小銃や個人装備、戦闘車両。海上自衛隊の「空母いずも」やそうりゅう型潜水艦、護衛艦、P1哨戒機、陸上自衛隊のAAV7や10式戦車などの最新兵器、もちろん航空自衛隊の戦闘機など「自衛隊新戦力」を詳しく紹介。テクノロジーの塊である「兵器」には機能美が詰まっています。

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