マツダ 理詰めのラージアーキテクチャー+直6+電動デバイス 中井英二パワートレイン開発執行役員インタビュー

マツダCX-60:直6を新たに開発する理由「内燃機関は選択肢として正しく残る。エンジンは今からが勝負です」

3月下旬にマツダ美祢自動車試験場で行なわれた「ラージ商品群技術フォーラム」で、ラージ商品群の第一弾であるミッドサイズSUVのCX-60のプロトライプが公開された。直列エンジンを縦置きし、モーター、新開発8速ATを直列に配置し後輪を駆動するラージアーキテクチャーは、すべてを一から開発したマツダ渾身の作。そこにはマツダらしいロジカルな考え方があった。パワートレイン開発・統合制御システム開発担当執行役員の中井英二さんに話を訊いた。

「内燃機関は選択肢として正しく残る」

会場に用意されていたのは、
3.3ℓ直列6気筒ディーゼル+48Vマイルドハイブリッドシステム+AWD
2.5ℓ直列4気筒自然吸気+PHEV+AWD

の2台のプロトタイプだ。

マツダの美祢自動車試験場に用意されたCX-60のプロトタイプ。ドアミラーにグリーンのラインがあるのがPHEV、ブルーが3.3ℓ直6ディーゼル+48V MHEV。

おそらく、多くのメディアから繰り返し質問されているだろう「いまなぜ、FR?」「いまなぜ、直6?」といった質問のあと、マツダの真意を探るためにさらに深掘りする質問を中井英二さん(パワートレイン開発・統合制御システム開発担当執行役員)に訊いた。

パワートレイン開発・統合制御システム開発担当執行役員の中井英二さん

MF:マイルドハイブリッド(MHEV)については、ここ1-2年で急に勢いを失った気がします。欧州では、一気にBEVにいくという機運が強くなっているように感じます。48V-MHEVが相対的に数年前に比べると存在感が薄くなってきたように思えます。欧州が仕掛けてることだと思いますが。日本メーカーもエンジン開発を縮小する流れが出てきています。BEVに大きく舵を切るメーカーもあります。今回、マツダは、新しい燃焼をやって、まだまだエンジンでいくっていうところがよくわかって面白かったです。それはどういう戦略に基づいているのか、あらためて説明してください。
中井さん:マツダは以前から、なにかひとつの方法、なにかひとつのパワートレーンの方向にするとは言っていません。我々マツダは130カ国以上の市場に販売しているわけで、それぞれの市場でエネルギー事情が違います。BEVの普及が早い地域ももちろんあります。まったく普及していないところもあります。それらのお客さまの要望を満たしていく。ある程度絞りながらですが、マルチソリューションとして、もちろんBEVもやっていくし、内燃機関もやっていく。マルチソリューションというやり方です。内燃機関は選択肢として正しく残ると思っているので進めています。しかし、BEVをやっていないわけではありません。決めるのはお客さまで、その選択肢をちゃんと用意するというのが我々の戦略です。そのうえで環境負荷は下げていく。エネルギー節約をしなくてはいけない。そういう立場で研究開発を進めています。

マツダCX-60 ラージアーキテクチャーの直6ディーゼルと2.5ℓ+PHEVをパワートレーン視点で試乗

ラージアーキテクチャーの第一弾がCX-60だ。プラットフォームもエンジンもトランスミッション…

マツダのビルディングブロック構想。2025年にはスモール・アーキテクチャーのBEVも登場する。またロータリーエンジンを搭載したモデル(PHEVだと思われる)も構想のなかにある。

MF:思ったとおりのお答えです(笑)。ただ外部からの見え方として、マツダはエンジンにこだわっているように見えるって言われちゃうんだろうなって少し懸念しています。僕はマルチソリューションで、エンジンもちゃんとやっておかないといけないってことを理解しているつもりですが……。
中井さん:どうなんですかね(笑)。我々はBEVはBEVでちゃんとやっているわけで、実際に一昨年MX-30 EVmodelを出しています。2025年にはスモールのマルチソリューションのアーキテクチャーでもBEVを出していくし、2025年にはBEV専用プラットフォームを出していく。だからけしてエンジンに偏っているっていうことはないんです。

MF:よくわかっているつもりです。でも、そう理解していない人たちもいるでしょう?
中井さん:ラージアーキテクチャーは、お客さまがちゃんと使っていただいたうえで、環境負荷を下げていくことを考えて、今回提案をさせていただいた、PHEVも大排気量ディーゼルも、MHEVも現実解だと考えています、いまの時代に。

MF:今回、新しいエンジンと新しいトランスミッションもあります。トランスミッションも自社で開発するとなるとかなりのお金がかかると思います。投資も必要です。作ったトランスミッションを外販するのも難しいでしょう。以前から、マツダはプレミアムメーカーになりたいわけではないっていうお話しをされています。しかし、結果的に直6ディーゼルだったり、PHEVだったり、縦置きの新しいトランスミッションだったり、プレミアムメーカーたちと同じ土俵でで戦わないといけなくなる。大変ですよね?
中井さん:そうですね。ただ、そこは理屈でもそこへいくことが正しいので、できるだけ効率良く進めていく。効率はコストもそうですし、重量もそうです。そのためにはどういう進め方が正しいのか、についてはしっかり吟味してやっています。

ロジカルに考えて導き出した直6エンジン

e-SKYACTIV Dが提供する価値は、「ディーゼル搭載のプレミアムSUVに匹敵する走り」と「B/CセグメントのSUV並みの抜群のCO₂(燃費)」だという。

マツダがミッドサイズの縦置きアーキテクチャーを使ったSUVを開発する背景には、これまでCX-5のユーザーが上級シフトした際の受け皿がなかったこともある。

中井さん:CX-5にお乗りのお客さまが次に選んでいただけるクルマが、どうしてもビジネスとして必要な状況になっています。今の時代、そのサイズでもっとも効果的なものはなにか?と考えたときに、パワートレーンはこういうマルチドライブシステムといういいますか…電動化は必要ですよね、と。まずはエネルギーを少量化しようと思ったら回生には使わないといけない。もうひとつはEVをお望みの方もいらっしゃるのでPHEVも必要。ただ、それを効率よく開発しようと思ったら、どういうものがいいのか。
MF:それがSKYACTIVマルチソリューション・スケーラブルアーキテクチャーであり、直6でありPHEVであり48V MHEVということですね。
中井さん:電動デバイスを選択的に挟み込みようなものをモデルベースでやれば、非常に効率的に開発できます。いっぽうで、エンジンの排気量はどうするのか、というと、エンジンはリーンバーンができるとので絶対に排気量は大きい方がいい。それはガソリンもディーゼルも一緒です。ディーゼルは昔からリーンバーンをやりやすかったのですが。したがって、ディーゼル、ガソリンを同じアーキテクチャーで作ろうと思ったら排気量は両方とも必要です。次に、大排気量をどうやってコンパクトにやりましょうかっていう話になります。6気筒ですか4気筒ですかという選択です。4気筒で大排気量ガソリンエンジンを作るときはNOxが問題になります。NOxの問題でで圧縮比を上げられなくなってしまう。そうすると、リーンバーンもできなくなる。となると、やっぱり6気筒でしょう、となります。ディーゼルも6気筒にすることでダウンスピーディングができて、負荷のいいところ効率のいいところ、いい燃費で使えます。

大排気量にすることのメリット。今回の大排気量化、多気筒化の狙いのひとつは、「ダウンスピーディング」にある。

MF:6気筒も「V型」と「直列」がありますね。
中井さん:V6、直6に関していいますと、V6だとバンクがふたつあるので、シリンダーヘッドや補機がふたつ必要です。ひとつに取り回すこともできますが、かなり複雑になります。エミッションも、いまのご時世ですから本当にきれいにしましょうとなると、V6だとバンク毎の排気後処理装置が必要になります。少しエンジンは長くはなるのですが、結局はコストや軽量化を考えると直6の方が有利です。直6にすると振動系もほぼ完全バランスにできます。

MF:大排気量の方が効率がいい、燃費がいいのですね?
中井さん:大排気量にするとダウンスピーティングができます。低回転のちょっと高めの負荷を使いますと、大排気量は高めの負荷が得意なので、中負荷の燃費はとてもいいのです。燃費率の平べったいところ平べったいところを8速ATでうまく使う。その組み合わせが直6は適しています。根本的には大排気量にしたい。理屈で攻めていって直6とトランスミッションと電駆(電動化デバイス)、各仕向地ごとにターボが欲しい人はターボ、Xが欲しいっていうところはX、ディーゼルがいいところはディーゼル、プラグインがいいところはPHEVというような組み合わせができます。そういうカタチを作っておいて、それをモデルベースで答えが見つかるようにしておく。それで準備をしておく。私たちはそんなカタチでやるのが、もっともそのセグメントを攻めるのにもっともいいだろうと考えたのです。我々マツダは混流生産が強みなので既存のラインよ汎用設備をつまく使いながら、さまざまなバリエーションを作っていきます。

一括企画とモデルベース開発で、膨大な組み合わせを効率よく開発する。開発費は前世代と比べて25%も削減できるという。マツダはMBDを完全にモノにしたようだ。

MF:非常にロジカルな考え方ですね。今回の組み合わせだと直6と直4、MHEVとPHEV、それを市場に合わせて組み合わせればいい、ということですね。
中井さん:検討まではモデルベースである程度できるのですが、造るとなるとやはり人数がかかるので、そこは慎重にやらないといけません。今日は技術コンセプトとしてふたつお見せすることができました。

MF:そこはマーケットニーズをきちんと把握して、北米だったらこういうクルマ、欧州だったら、中国だったらこういうクルマというふうに造っていくわけですね?
中井さん:そうですね。

MF:ニーズを的確に分析して当てないといけないわけですね。
中井さん:そうです(笑)。それが当たらなくてはいけません。当たるように準備しました。そういうお客さまたちが増えてきたからといって価格帯を急に上げてしまうとついてきていただけない。CX-5をお買い求めいたただいたお客さまにも選択できるようなカタチでする。そこは慎重にやっていかないとと考えています。

MF:CX-5からCX-8へはなかなかいきませんよね。大きすぎるし、3列シートが必ずしも必要なわけではありませんから。
中井さん:そういうお客さまが一定数いらっしゃいます。一括企画でスモールとラージという分け方をしましたが、ラージの商品はより高い競争力が必要になってきます。だから全部一新してやりましょう、となりました。 

MF:マツダは、これまでのスモールと今回のラージのほかに2025年までにEV専用プラットフォームを出すことになっていますね。
中井さん:そうですね。

MF:2025年と言えばあと3年しかない。大変ですね。
中井さん:大変です。なかなか休む暇がないですね(笑)。

理想の燃焼は近づいている 次は「遮熱」

カーボンニュートラル燃料への対応も重要だ。e-フューエルやバイオフューエルを内燃機関で燃やせばCO₂削減に効く。実際、新開発したSKYACTIV-D3.3はバイオフューエルで回しても、性能の低下は最小限に抑えられている。

MF:燃料についても、水素がありバイオディーゼルがあって、e-FUELもある。そこもマルチソリューション、マルチなエネルギーソースに対応するお考えなのでしょうか?
中井さん:そうですね。そこは、見据えて考えています。微細藻類も再生可能液体燃料としてすごく有望です。そういった取り組みも一緒に入らせてもらっています。燃焼に関していうと、セタン価が高いのです。うまく軽油の規格で作るとなると、まだ価格が高い。セタン価が高くても、ほぼ自動的に燃やせるように、自分で判断して燃やせるソフトウェア的な考え方はもう入れています。北米では、セタン価の低い40くらいのものと50くらいの軽油が混在しています。そこで自分でセタン価を判断して燃焼セッティングに合わせてとエミッションもよくする技術ができています。それを今回の直6ディーゼルにも活用して、バイオ燃料はいつ来てもいいように準備はしているところです。

MF:それは制御で対応できるのですか?
中井さん:骨格に投資をしなくても、制御でできる技術を持っていて、そういったデバイスももうすでに埋め込まれています。したがって、ハードウェアへそんなに投資をしなくても制御をしっかりと進化させることで対応できます。センサーとセンサーの関連を非常に精密に見ていくと、より燃焼室の中の様子がわかって、この燃料はなにか、いまどうなっているのか、ということがわかります。いつも理想の燃焼を実現できるような制御ができてくると思いますし、AI(人工知能)の技術にも真剣に取り組んでいます。たくさんのパラメーターのなかで正解を選ぶのは、もう人間業ではできません。とくにリーンバーンになると、膨大なパラメーターになっていくので、そういった意味でその場その場でもっとも正しい、もっとも効率のいい燃焼を作ってあげて、キャリブレーションをある程度自分でやって、進んでいくというそんなことも、考えています。

MF:燃焼のことがいろいろわかったのは、SKYACTIV-Xをものにしたからですか?
中井さん:そうですね。SKYACTIV-Xの開発は大変でしたが、ガソリンでリーンバーンができるようになったので、本当にディーゼルとガソリンを同じ骨格で作れるようになりました。ガソリンもディーゼルも同じように高みを目指していくっていうカタチにできました。とくににガソリンは各気筒に燃焼圧センサーを付けてコントロールしていますから、リアルタイムでどんな燃焼しているのかわかる。そこにモデルがあれば、自分で燃焼を作っていくことも将来的には可能だと思います。とても可能性が高い。エンジンは今からが楽しいのに、なんでいまやめるのかなって。今からが勝負なのに、みんなやめちゃう(笑)。ちょっともったいないな、と。思っています。

MF:いまからが楽しいところなんですね。
中井さん:そうですよ。そこをまだ人に役に立つ技術の代(しろ)が残っているのですから、そこはやっぱりやるべきだろう、と思っています。それ(優れた内燃機関)を求めている方が、いろんな地域にまだおられるので。欧州でも東欧や南欧などの地域は、まだBEVは難しいでしょう。だからディーゼルは喜ばれます。環境性能が良くないのだったらだめですが、今回の直6ディーゼルはしっかりと作りこんで、胸を張れる性能です。現状からのトランジェント(移行期)のなかでも役割としてとても重要だと考えています。

マツダは理想の燃焼に近づいている。ディーゼルもガソリンも次が「ラストステップ」。キーは「遮熱」にあるようだ。

MF:いつものだんだん理想の燃焼に近づいているっていう図があります(上図)。今回ディーゼルが第2ステップになりました。ガソリンも次のステップがあって、その次が理想ですね。だいぶ近づいていますね。
中井さん:だいぶ近づいています。次ですから。

MF:理想の燃焼を実現するためのキーはなんですか?
中井さん:次は遮熱です。いい燃焼をすると圧力が上がったり、発熱がたってくるので、熱が逃げやすくなります。それをしっかりと遮熱することで出力も出せます。これからは壁面の熱をしっかりやって、そういった制御をやっていく。そうするとまた同じくらい伸びると思うんです。燃焼室はちょっと変わるかもしれませんが、骨格はそんなにいじらないでさらに理想に近づくことが出来ると思っています。そっちの方向に舵を切って、より高みを目指していく。やっぱり使う燃料を減らせば、エネルギーを減らすというのは絶対必要ですから、そういう取り組みからで進めていく。そういう意味合いで言うと、他社とはちょっと違うのかもしれませんが、間違いなく社会に役立つ技術があると思っています。

いつもながら、マツダは「ロジカル」に考える。中井さんの言葉の端々にも「理屈で考えたら」「そうあるべきだ」というようなニュアンスが感じられた。縦置きレイアウトを採るライバル(欧州のプレミアムブランド)は、より上級のエモーショナルなクルマづくりが得意だ。マツダが、今回の技術フォーラムで提示した、直6エンジン(ディーゼルとガソリン)、新開発8速AT、48VマイルドハイブリッドシステムとPHEVシステム、新開発のシャシー&サスペンションなどを組み合わせて、ロジカルでエモーショナルなクルマが開発づくりが実を結ぶのを見るのが楽しみだ。その第一弾、CX-60をマーケットがどう受け止めるのか。プロトタイプのドライブで、その素性の良さは充分に感じられた。

著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…