連載

自衛隊新戦力図鑑

略称は「重MAT」79式対舟艇対戦車誘導弾

北米ヤキマ訓練場での79式対舟艇対戦車誘導弾、実弾射撃訓練の光景。写真奥の発射機から大型ミサイルが発射されている。手前の2本の筒はミサイルを内包したケース。これごと架台へ載せ替える。

ロシアによるウクライナ侵攻に関して4月14日、米国ウォールストリートジャーナルによると米政府は機密情報のウクライナ軍への提供を大幅に拡大するという。加えて8億ドル(約1005億円)相当の追加の軍事支援を発表、この中身は重火器や装甲兵員輸送車、ヘリコプターなどが含まれるという。

これらの情報と追加装備はロシア軍の攻勢が今後大規模化すると言われているウクライナ東部地方へ投入、猛攻に対抗するための支援策なのではないか。ここでいう「重火器」が指すものは不明だが、対戦車火器「ジャベリン」や対空弾「スティンガー」など以上のもので、戦車以下の武器を示すのではないか。どこまでの武器ならば大国の介入と取られないかを探りながらの支援に思え、これでは戦争終結はまだ遠いのかもしれない。

重火器とは広い意味をもつ言葉のようだ。防衛省では火器の口径で20mm未満を小火器(銃の類)、20mm以上を火砲(砲の類)と定義しているといい、重火器という規格や表現は用いていない様子。ただ、その装備のサイズやスペック、運用方法や威力などから重火器と印象付けられるものはある。

陸上自衛隊が装備する対戦車火器『肩撃ち兵器』にはこれまでにご紹介した「84mm無反動砲(通称「カール・グスタフ」)」や「110mm個人携帯対戦車弾(LAM、通称「パンツァー・ファウスト」)」、「01式対戦車誘導弾」や3自衛隊で装備する「91式携帯地対空誘導弾(米国製の携帯式地対空ミサイル「スティンガー」の後継に相当する国産の携行式地対空ミサイル)」がある。

陸上自衛隊:対戦車火器①:戦車や装甲車両に対抗する「110㎜個人携帯対戦車弾(LAM)」/「84㎜無反動砲」

ロシアによるウクライナ侵攻での交戦を伝える映像のなかに、戦車などの装甲車両に対して歩兵携行式の兵器での戦闘状況があった。使われていたのは無反動砲や誘導弾(ミサイル)などのいわゆる対戦車火器とみられるもの。陸上自衛隊にも同様な装備群がある。今回は陸自の対戦車火器を見てみよう。 TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

https://motor-fan.jp/mf/article/48889/

これら4つの装備は『肩撃ち兵器』と俗称されるように、射撃手がひとりで運用できる比較的軽量級な対戦車火器といえる。対して重量級となる対戦車火器が今回ご紹介する「79式対舟艇対戦車誘導弾」と「87式対戦車誘導弾」だ。

79式対舟艇対戦車誘導弾は大型の誘導弾で、ミサイルの全長は約1570mm、重量約33㎏にもなる。発射装置は2基の発射機、照準架、照準器、送信器などの複数の装置で構成されている。射撃手ひとりで準備・運用するにはキビしいボリューム感だから、小型トラックと牽引トレーラーなどに積んで所要位置まで運びこむのが一般的なようだ。運用もチームで行なう。

ミサイルの誘導方式は赤外線を使った半自動有線誘導方式と呼ばれるもの。弾体後部の専用照明から発する赤外線を照準器が捉え、飛翔経路を修正するため弾体操舵部を動かして姿勢と経路を変える。誘導信号は弾体が曳くワイヤーを通じて交わされる。つまり射撃後も目標への照準を合わせ続ける必要のあるタイプだ。

発射された弾体は約200m/秒の速度で飛翔、目標へ命中する。照準器と発射機を離して設置することができ、発射炎を見つけた相手の反撃から射撃チームの人員を守ることができる。

実弾には対戦車榴弾と対舟艇榴弾の2種類があって、遠距離の戦車など装甲戦闘車両に有効なことに加え、我が国沿岸部へ着上陸を企てる勢力が使う上陸用の舟艇(小型船など)を足止めすることもできる。喫緊の課題である島嶼防衛では波打ち際の防御重火器になるわけだ。配備されているのは陸自の師団や旅団の直轄対戦車隊や普通科連隊に組まれた対戦車部隊など。

略称は「重MAT(じゅうマット)」と呼ばれ、「MAT」は「Missile. Anti Tank」の略で対戦車ミサイルの意味。形式名は「ATM-2」。「ATM」は「Anti Tank Missile」の略で、諸外国軍ではこの方が一般的な略語となる。

陸上自衛隊の対戦車火器「79式対舟艇対戦車誘導弾」。写真/陸上自衛隊

■79式対舟艇対戦車誘導弾 主要諸元

誘導弾●重量:約33kg●全長:約1570mm●胴体直径:150mm●飛翔速度:約200m/秒●誘導方式:赤外線半自動有線誘導方式●製作:川崎重工(誘導弾本体、発射装置)

「中MAT」87式対戦車誘導弾

陸上自衛隊の対戦車火器「87式対戦車誘導弾」。写真/陸上自衛隊
陸上自衛隊:対戦車火器②:撃ち放し能力を持つ「01式対戦車誘導弾」/“スティンガー”ベースの「91式携帯地対空誘導弾」

ロシア・ウクライナでの戦闘で使われた歩兵携行式対戦車火器の実力とその戦果は大きなものだと感じる。戦車など装甲戦闘車両の侵攻を食い止め、ロシア勢力を押し戻すきっかけになったと思えるからだ。今回も陸上自衛隊が装備する同様な対戦車火器と、航空自衛隊も装備する対空弾に注目してみたい。 TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

https://motor-fan.jp/mf/article/50033/

もうひとつは「87式対戦車誘導弾」。これは64式対戦車誘導弾の後継になる。1979年度から開発された対戦車ミサイルで、1987年に制式化された。略して「中MAT(ちゅうマット)」と呼ばれ、先の79式対舟艇対戦車誘導弾(重MAT)に次ぐものになる。

三脚架に載せて射撃するほか、小型・軽量化されたことで射手が肩撃ちすることもできる。
87式対戦車誘導弾のレーザー照射機。国産初のレーザー誘導方式としたのが最大特徴だ。

87式対戦車誘導弾は64式や前掲の重MATよりも小型・軽量化され、人員による携行も可能となっている。射撃方法は肩撃ちと、架台設置方式も選べる。システム構成は重MATと似ており、照準器と発射機の位置を自在に離すこと(離隔距離を作れること)ができる。離隔距離は約200mだといい、射撃チームの安全性を考えてある。そのほかの自動化や省力化もなされた。

最大の特徴は国産初のレーザー誘導方式を採用したこと。セミアクティブ・レーザー・ホーミング方式というもので重MATのような誘導ワイヤー牽引飛翔方式でなくなった。これでミサイルの飛翔速度が上がった。レーザー照射器・照準器と発射機の離隔自由度や、システム構成の自在性も増しているといい、結果として射撃人員の安全性は高められた。中MATは普通科連隊の対戦車小隊などに配備されている。

射程は重MAT、中MATともに「数km(以上)」といわれている。筆者が北米ヤキマ訓練場で見た実弾射撃訓練では、2〜4kmの距離で目標の廃戦車に命中させ、撃破していた。廃戦車とは退役した米戦車を標的に使ったもので、朽ちるに任せたクズ鉄同然の物体だが、鋼製車体に大穴を穿つ威力に驚いた。

87式対戦車誘導弾の実弾射撃のようす。レーザー照射と射撃位置を約200m離して行ない、人員の安全性を向上させた。

■87式対戦車誘導弾 主要諸元

誘導弾●重量:約12kg●全長:約1000mm●胴体直径:110mm●有効射程:約2000m●誘導方式:セミアクティブ・レーザー・ホーミング方式●離隔可能距離:約200m(レーザー照射器と発射機)●システム重量:約140kg(誘導弾6発含む)●製作:川崎重工、三菱重工業

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