クルマが通れる国道最難関の塩見峠〜越前大野をジープ・レネゲードで踏破する!

落ちたら死ぬ!!『最凶酷道───国道157号線で温見峠を越える(酷道険道:福井県/岐阜県)』ジープ・レネゲード

「落ちたら死ぬ!!」
日本に酷道は数あれど、こんな注意書きで始まるものはほかにない。岐阜県岐阜市から石川県金沢市を結ぶ国道157号線。なかでも根尾から温見峠を越えて越前大野へ抜ける区間は、クルマが通れる国道としては最難関との呼び声が高い。ジープ・レネゲードで日本最凶の酷道に挑む。

TEXT:小泉建治(KOIZUMI Kenji)
PHOTO:宮門秀行(MIYAKADO Hideyuki)

酷道界の無差別級王者

 最も険しく、酷い国道はどこか? さまざまな意見が飛び交うだろうが、国道157号線がその最右翼に挙げられることは間違いない。

 岐阜県と福井県にまたがるこの国道は、古くから愛好家の間でも最凶の酷道として崇め奉られてきた(?)存在だ。試しにインターネットで「酷道」と打ち込んで検索してみてほしい。間違いなく国道157号線が上位にヒットし、ページに飛んでみれば、ほとんどの場合、全国でナンバーワンの存在とされているはずだ。

 ちなみにこの国道157号線は、酷道度がマックスに達する根尾〜越前大野において国道418号線と重複しているが、この区間に実際に掲げられている道路標識はほぼすべてが「157」との表示になっているので、本稿では国道157号線として扱う。


 当連載では、基本的に東京に近い側からアプローチするのが通例だが、今回は取材スケジュールの関係で福井県側からスタートする。北陸自動車道を福井ICで降り、国道158号線を東へ、郡上八幡方面へ向かう。関東に住んでいる自分にとって、郡上八幡や飛騨高山には険しい山岳地帯を越えた先にある秘境の街というイメージがあるのだが、そんな郡上八幡に関東とは反対の西側から向かっているのがなんだか新鮮だ。

 しかし今回は郡上八幡に行くわけではない。越前大野で針路を南に取り、国道157号線に入る。麻那姫湖を左手に見ながら、二車線道路を快走する。ガードレールがワイヤーやコンクリートブロックになり、どことなく酷道な匂いを漂わせ始めるも、道幅は十分に広くセンターラインもあり、気持ちよくドライブができる。

 だが、あまりに快走路が続くと逆に不安になってくるのは職業病というか、当ページ担当者病だろう。

「もしかしたら改修が進んでいて、もはや酷道ではなくなってしまっているのではないか?」酷道険道の取材は、実はいつもこの不安との戦いでもある。フツーは酷道に出くわしたほうが不安になるものだが……。

 というわけで麻那姫湖を過ぎて20分ほど走って俄に道幅が狭くなり、センターラインが消えたところでホッと胸をなで下ろした。「お〜、やっと来ましたねぇ」とMカメラマンも安堵の表情である。最凶の酷道を前にして余裕があるのか頭がおかしいのか。


酷道険道の例に漏れず、道幅はご覧のように狭隘で、すれ違いは困難だ。だが不思議なのは、こうした道で対向車に出くわしても必ずすれ違えてしまうこと。酷道険道におけるドライバー同士の阿吽の呼吸というものは実に絶妙で、そこはかとなく連帯感すら覚えてしまう。

 のっけから前方に対向車の姿が現れる。どう見てもすれ違えないので、こちらが延々と後退する。少し広くなった場所で待機し、プップッと軽いホーンでお礼される。

 筆者は、この酷道険道ではお馴染みともいえるやり取りが好きである。ふたりのドライバーの阿吽の呼吸がなければうまくすれ違えないのはもちろん、クルマがダメージを負ったり、ヘタをすれば命の危険だってある。だがこれまで、どんなに狭い酷道険道でもすれ違えなかったり、危険な目に遭ったためしがない。もちろん、こうした酷道険道にはある程度の運転技術を身につけた人しか足を踏み入れない、ということもあるだろう。

 いずれにせよ、互いに持てる技術を駆使して危機に対峙し、乗り越える過程がなんとも気持ちいい。ときには連帯感すら生まれるのは、危機的状況だからこそなのかもしれない。

 だが、すれ違いが快感などと嘯(うそぶ)いてばかりもいられない。走るほどに景色は山深さを増し、ガードレールは消え、気がつけば道幅は完全にクルマ一台分となっていた。路肩から見下ろせば、そこは奈落の底である。

「落ちたら死ぬ!!」

 かねてからインターネットなどで目にしていた看板のフレーズが脳裏をよぎる。日本の交通標語や注意書きには大げさ過ぎて効果ゼロのムダなものが多いが、これは本気である。落ちたら、そりゃあかなりの確率で最悪の結果が待っているだろう。正確に言えば、落ちたら死にそうな場所は日本中どこにだってある。でも、たいてい落ちにくいようになっている。ところがここは落ちやすいのだ。 屁理屈はともかく、この看板が放つメッセージ性は強烈で痛快だ。実物はどこにあるのだろうか?


カーブミラーがない……

ガードレールのない区間が延々と続き、視線の先には奈落の底が……。なるほど、「落ちたら死ぬ」の看板も単なる脅しではなさそうだ。夜中に走ったらどうなるのだろう?

 走り出してからしばらくしてふと気づいたのだが、この道には総じてガードレールがない。究極に危なそうな場所にはブロック状のコンクリート(メイン画像参照)が設けられているが、当たったらかなり痛そうだ。

 それでも崖から落ちるよりはマシだろうけど、意外と低いので勢いよく突っ込んだら乗り越えてしまうかもしれない。ときおり現れる小さな橋にも欄干がなく、さすがに危険ということでロープが張られていたりするが、 それだって金属を束ねたワイヤーではなく、ただの縄である。

 橋の幅を示す目印に過ぎず、クルマが突っ込んだら間違いなく転落防止の用を為さない。携帯電話はずっと圏外のままであり、何かあったら助けを呼ぶのは困難を極めるだろう。


 そしてなにより、カーブミラーがないことに閉口させられる。カーブの先が見えなければ、見通しの悪い交差点と同じ。カーブの度に一時停止……とまではいかないまでも、それに近いほどの減速を強いられる。だからちっとも前に進まない。

 これまでいくつかの酷道険道を走破してきたが、実際のところ言うほどストレスを感じたことはなかった。自分のスキルや適性に変な自信を持ちつつあったのだが、それは多分にカーブミラーの存在に助けられていたというわけだ。

 そして関東の酷道険道は、カーブミラーがとても充実していたという事実にもここで気づかされたわけである。

 ……ただ、ここまで書いておいてなんだが、カーブミラーはともかく、ガードレールがないことに筆者は個人的には悪い感情を抱かない。我が国は無粋なガードレールに溢れ、その多くが美しい景観を損ねている。

 安全であることはもちろん大切だが、できるだけ自然に近い姿を残し、そこを通る人間が細心の注意を払うべきという考え方も必要ではないか。欄干がなく、一見すると危険極まりない沈下橋が多く見られる高知県の四万十川を訪れたときにも、その成熟した思想に共感を覚えたが、今回もそれに近い感情を抱いた。


 麻那姫湖を過ぎてから1時間半ほど、撮影を挟まなければおそらく1時間弱ほどで温見(ぬくみ)峠に到着する。福井県と岐阜県の県境に位置する峠だが、付近にはとくに峠の名を表すものは見当たらず、福井県大野市に入ることを示す看板が岐阜県側に向けて掲げられているだけだ。眺望も特筆すべきところはなく、ここでひと息つく、という雰囲気でもない。

 温見峠を越えて岐阜県側に入ると、ググッと道幅が広がり、すれ違いも容易になる。「なんだ、もう酷道は終わりか」などと拍子抜けしたのも束の間、しばらくすると再び道は狭隘さを増して酷道らしい姿に戻った。

 あの一瞬の道の広がりはなんだったのか? ともあれ、最凶の酷道があっけなく終わってしまうなんて早計もいいところで、ここからが長いこと長いこと! 崖にへばりついたような細い道を延々と続き、走っても走ってもゴールに辿り着く── つまりフツーの二車線道路が現れる気配がない。携帯電話は依然として圏外である。


常にリスクを意識し続ける

果敢に川を渡っているように見えるが、これは洗い越しなのでSUVでなくても通ることは可能だ。温見峠の周辺では、こうした洗い越しが何度か現れる。

 国道157号線の酷道らしさ溢れる特徴として、洗い越しの多さも挙げられる。洗い越しとは道路と川が平面で交差している箇所のことだが、たいていは川というよりも水が道路に滲み出ているといった程度のものがほとんどだ。

 しかし温見峠周辺には左(モバイル版でご覧いただいている場合は上)の写真の通り、まるで本気の川渡りをしているかのように見える洗い越しが多い。とはいえ車体まで水に浸かってしまうような深さのものはないので、とくにSUVなどでなくても通過できる。

 落石注意の看板が多いのも国道157号線の特徴だ。実際、路上にはゴルフボール大からバスケットボール大まで、さまざまな石がゴロゴロと転がっている。こんなものが直撃したら……クルマももちろん心配だが、外に出て撮影する機会の多い我々は、生身の身体に一撃を喰らう可能性も高い。

 というわけでカメラマンと筆者は、今回バイク用のヘルメットを持参している。ヘルメットをかぶった男ふたりが路上でクルマを撮影している姿は異様かもしれないが、ここは安全最優先だ。

 実際、根尾黒津から根尾能郷の間(下写真の辺り)は、2005年11月に発生した岩盤崩落のために2012年10月まで7年にも渡って通行止めとなっていた。今回は筆者はヘルメットをかぶる機会はなかったが、備えあれば憂いなし。酷道険道とはそれほど危険な道であると、誰より自分に言い聞かせ続けたい。


 そんな最凶の酷道の旅の伴侶にジープ・レネゲードを選んだのは正解だった。ジープファミリーで最もコンパクトなサイズを持ち、狭隘な日本のクネクネ道でも持て余す場面は少ない。

 そしてなにより、コンポーネントを共有するフィアット500Xとの見事な作り分けに感心させられた。あちらは実際のサイズよりもコンパクトに感じられ、ワインディングでもついペースを上げてしまうのに対し、こちらはサイズ以上にガッシリと堅牢な印象で、「この中にいればとりあえず安心だ」と思わせてくれる。

 トレイルホークが積む2.4ℓ自然吸気エンジンのキャラクターもあるが、飛ばす気にはあまりならず、のっしのっしと歩を進めるサマがなんとも頼もしい。


ついにあの看板と対面! そして旅もフィナーレへ

一部の酷道マニアの間では名物にもなっている「落ちたら死ぬ!!」の看板。そのストレートな表現と強烈なインパクトには清々しさを感じるほど。

 滑落、落石、対向車、洗い越し……酷道険道ならではのあらゆるリスクに神経を尖らせながら走り続けること約3時間、ようやく酷道区間の終焉を示唆するものが現れた。

「落ちたら死ぬ!!」の看板である。

 ここにあるということは岐阜県側からアプローチする人のために掲示されていたわけで、ここから本格的に酷道が始まる───つまり福井県側からやってきた我々から見れば酷道はここまでということである。

 この看板に妙な魅力を感じていた筆者にとっては、温見峠よりもこの場所のほうが目的地というに相応しく、カメラマンが撮影している横で臆面もなくスマートフォンを取り出してパシャリ。気がつけば電波は圏内を示している。

「落ちたら死ぬ!!」の上にある落石注意の看板も味わい深い。岸壁に顔があり、その顔が口から石を吹き飛ばしている。その顔───いわば落石くん───の顔はかなり凛々しい。一方のクルマくんのビビリようもなかなかのもので、落石くんとの力関係が一目瞭然だ。

 これだけ印象深いということは、注意看板としては成功と言っていい。

 落石くん看板から3分ほど走り、左手に小さな発電所が見えるとセンターラインが現れ、“酷道”としての157号線は終わる。温泉施設や食堂も姿を見せ、沿道は一転して観光地の様相を呈してくる。何も知らなければ、この先に最凶の酷道が待ち受けていようとはなかなか予想できない。だからこその「落ちたら死ぬ看板」と「落石くん看板」であろう。

 国内最凶との呼び声高い国道157号線は、期待に違わぬ酷道っぷりだった。だが、これぞ日本ならではの醍醐味、とも思う。

 細長い国土に険しい山々が連なる日本、とりわけ本州や四国では、かつてこうした酷道険道は当たり前の存在だった。度重なる改修や道路網の発達によって徐々に姿を消しつつはあるものの、まだまだ我が国は酷道険道の宝庫である。

 もちろん道路にはライフラインという役目もあるわけで、改修や道路網の整備は進める必要があるが、一方で酷道険道をもっとポジティブに楽しむ文化があってもいい。

 最凶の酷道を走破した今、自分の酷道険道への想いがさらに強まったのを感じたのである。


〈国内最凶の酷道区間は約40km!〉岐阜県岐阜市から石川県金沢市を結ぶ国道157号線だが、国内最凶と言われる酷道は根尾から県境の温見峠を越えて越前大野に至る約40kの区間だ。言うまでもなくこの間には飲食店や商店は皆無だから、食事をすませるか食料を持参して向かうべし。ほとんどのエリアで携帯電話はつながらないので、事故や車両トラブルにはくれぐれも注意を。岐阜県側は東海環状自動車道の関広見IC、福井県側は北陸自動車道の福井ICからのアクセスが便利。

タフなクロカンAWDながらボディサイズはコンパクト。ジープ・レネゲードほど最凶の酷道に相応しいクルマもないだろう。今回の旅に供されたのは、最上級グレードのトレイルホークベースとした限定モデルのビーツ・エディションで、直列4気筒2.4ℓ自然吸気ユニットに9速ATを組み合わせる。

【ジープ・レネゲードトレイルホーク・ビーツ・エディション】
▶全長×全幅×全高:4260×1805×1725mm
▶ホイールベース:2570mm
▶車両重量:1560kg
▶エンジン形式:直列4気筒SOHC
▶総排気量:2359cc ボア×ストローク:71.0×75.6mm
▶最高出力:129kW(175ps)/6400rpm
▶最大トルク:230Nm/3900rpm
▶トランスミッション:9速AT
▶サスペンション形式:F&Rマクファーソンストラット
▶ブレーキ:Fべンチレーテッドディスク Rディスク
▶タイヤサイズ:215/60R17
▶車両価格:345万6000円

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