航続距離180kmは短いのか、十分なのか。日産サクラ & 三菱ekクロス EV検証!

街乗りならこれで十分?日産サクラの航続距離180kmは軽EVとしての適正なのか?

軽BEV(電気自動車)として5月20日にデビューした「日産サクラ」と「三菱 eKクロスEV」の航続距離は180km。バッテリー総電力量は20kWhと日産リーフの半分程度だ。はたして、この性能は日常使いにおいて十分なものなのか、それとも我慢を強いられるのか? かつて初代リーフに乗っており、現在は軽自動車で軽バンライフを楽しんでいる自動車コラムニストが、ユーザー目線で解説する!
TEXT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)

新型の軽BEV「日産・サクラ」と「三菱・eKクロスEV」が搭載する駆動モーターの最高出力は47kW、最大トルクは195Nmとなり、リーフ譲りというバッテリー総電力量は20kWh、WLTCモードでの一充電航続距離は180kmとなっている。つまり満充電から電欠するまで走ったとして180kmしか走れないということになる。

過去にBEVで電費を測定した経験でいえばWLTCモードの測定方法はそれなりにリアルワールドに近い印象がある。実際、ホンダの「Honda e」に試乗した際には初めて乗ったのにもかかわらず、ほぼカタログ値で走行することができた。それは試乗当時に、筆者が初代リーフを日常的に乗っていてBEVの走らせ方に慣れていたという面もあるだろうが、いずれにしてもBEVについていえばWLTCモード測定は現実的に再現可能と思える。

「日産・サクラ」同様に、日産・三菱自動車の両社で共同開発を行い、三菱自動車の水島工場で生産される「三菱・eKクロスEV」

それでも、カタログ値で航続距離が180kmということは、実際の航続距離は140km程度となるだろう。これまたBEVに乗っていた経験からすると、バッテリーの充電率が20%を切るとさすがに心配になる。週末ドライブを想定した場合、自宅を100%で出発したならば、残り20%の手前くらいで帰宅するというのが精神衛生にも良いルートだ。途中で充電しないのであれば片道60~70kmくらいのドライブが適切な性能といえる。

これは、長距離ドライブが好きなユーザーからすれば、まったく満足できる性能ではないだろうし、そうした第一印象から「短距離しか走れない電気自動車は使えない」と判断するのも当然のこと。

一方で、日産・三菱といったメーカー見解は、軽自動車の平均的な使われ方をリサーチした結果として「一日50kmを走る性能があれば十分にニーズを満たす」という風に主張している。

ユーザーの直感的な「航続距離180kmは短い」という感覚と、メーカーが考える「航続距離180kmは余裕を持った数値」という主張は、どちらが正しいのだろうか?

前述したように、筆者が初代リーフに乗っていた経験と、現在は軽自動車に乗っているオーナーとしての感覚からすると、平均的な軽自動車としてみれば航続距離が180kmというのは、街乗りメインの平均的な軽自動車ユーザーであれば、かなり余裕を持たせた性能であると考えられる。

ここでいう平均的な軽自動車の用途というのは、家族の送迎や買い物、職場への往復といったケースを想定している。そうなると一日の走行距離は20~30kmほど。日常的に高速道路を100km以上走ることは少ないだろう。つまり、街乗りメインであれば50kmの航続性能で十分にユーザーニーズをカバーできるという、メーカーの主張は納得できるのではないだろうか?

では逆に、50kmを走る性能があれば十分なら、航続距離180kmはオーバースペックではないか?と思うかもしれないが、そう単純な話ではないのだ。

メーカーの調査では、「一日50kmを走る性能があれば、平均的な軽自動車ユーザーのニーズを十分に満たす」というう結果を導き出している。

街乗りメインの軽自動車に必要な航続性能とは?

下の写真は、かつて個人的に乗っていた初代リーフ(30kWh車)を街乗りメインで使った際のメーター表示だが、バッテリー充電率52%で、航続可能距離88kmという数値を示している。

筆者がかつて乗っていた初代リーフのバッテリー残量表示

初代リーフの一充電航続距離はJC08モードで280kmだったが、メーターに表示される航続可能距離は満充電でも200kmを超えるくらいだった。それは実際の電費が悪いからというのではなかったと思う。(専用アプリによれば自分自身の運転による電費は夏場を除いて9km/kWh弱で推移していたこと確認している)

元テストドライバーでも、レーシングドライバーでもなく、運転スキルとしては一般レベルの“自動車コラムニストごとき”が出せる電費というのはけっして特別なものではなく、誰もが再現できるレベルなのは間違いない。

実測値として、とある年の4月~10月の月間平均電費は以下のようになっていた。

4月 8.8km/kWh
5月 8.8km/kWh
6月 8.2km/kWh
7月 6.9km/kWh
8月 6.3km/kWh
9月 8.2km/kWh
10月 8.9km/kWh

このくらいの電費で走っていても、メーター表示では満充電での航続可能距離が200km程度となっていたのは、それなりに安全マージンをとっているということなのだろう。

つまり、一充電航続距離180kmというカタログスペックに対して、メーター表示では満充電時でも150km前後になるだろう(直近の電費によって表示は変わるロジックになっているため、ユーザーの運転次第では変わるだろうが)。

街乗りメインの軽自動車で、毎日の走行距離が平均20~30kmと仮定した場合、少なくとも3日間は充電しなくても大丈夫なバッテリー容量を確保している計算となる。

ユーザーがメーター表示をベースに判断するとして、満充電での表示が150kmだとすると、おそらくメーター表示におけるバッテリー充電率が50%程度まで減ってきた段階での残り航続可能距離は70~80kmになると考えられる。おそらくBEVに乗りなれていないうちは、このくらいの表示になってくると少々不安を覚えるようになってくるだろう。
しかし、満充電で150km表示で、毎日の走行距離が平均20~30kmというのであれば、3日間は不安にならずに運転できる計算となる。つまりBEVの航続距離に関するストレスを感じなくて済むということだ。

机上の空論でいえば、必要な航続距離をギリギリで満たすバッテリーを積んだ方が軽量化やコストダウンにおいてメリットはあるが、現実的に不安を感じることなく運転できる余裕も必要なので、カタログ値で180km、リアルワールドで150km相当を走れるバッテリー容量というのは非常にバランスがとれた性能といえるだろう。

自宅の普通充電で一晩で満充電できる絶妙なバッテリー容量

また、3日間乗って50%程度まで減ったとしても、20kWhという数値から計算すると10kWh程度を使ったという意味であり、自宅駐車場で普通充電(2.9kW)につなげば3~4時間で満充電まで戻すことができる。さらに、ギリギリまで使ったとしても一晩あれば余裕で満充電状態まで戻るはずだ。

専門的にいえば「基礎充電」と呼ばれる自宅や職場での普通充電を基本とするのがBEV本来の運用といえる。基礎充電でバランスよく、そして不満なく運用できるバッテリー総電力量として考えると、「日産・サクラ」と「三菱・eKクロスEV」の搭載する20kWhという数値は、実にちょうどいい。

外出先での「急速充電」はバッテリーに負担が掛かるため、「基礎充電」と呼ばれる自宅や職場での普通充電を基本とするのがBEV本来の運用といえる。

WLTCモードでの一充電航続距離180kmがそもそものターゲットだったのか、軽BEVとしてコストバランスを考えたときに結果的に180kmに収まったのかはわからないが、街乗りメインの使われ方を想定した軽BEVとして考えるバッテリー総電力量20kWhで一充電航続距離180kmというのは、けっして航続距離が短いとも思えないし、また余裕があり過ぎるとも感じない絶妙な設定だ。車両価格としては、もうひと頑張りを期待したいが、航続性能については、ちょうどいい性能にまとめてきたというのが個人的な結論だ。

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