新型ヴォクシー試乗。舵が利き始めてからのフィーリングは、GA-Cに共通するダイレクト感がある。

GA-Cプラットフォームでしなやかな乗り味を手に入れた。【ひと口解説&プチ試乗/トヨタ・ヴォクシー】

技術系モータージャーナリストの安藤眞が、新型車の技術的なポイントとプチ試乗で要点をわかりやすく解説する。第1回めは、すべてを刷新して生まれ変わったベストセラーミニバン「ヴォクシー」だ。

REPORT:安藤 眞

GA-Cプラットフォームの採用とパワートレーン全面刷新

自販連の統計上では、昨年度のミドルクラスミニバンの最量販車種は日産セレナだが、兄弟車であるノアとヴォクシーを合算すれば、立場は逆転する。そんなノア/ヴォクシーが、今年の初旬にフルモデルチェンジ(FMC)を行った。前回のFMCが2014年だから、実に8年ぶりのことである。

しかも前回のFMCでは、プラットフォームのフロントセクションをキャリーオーバーしているから、土台からすべてが変わるのは15年ぶりだ。新型のプラットフォームは、50系プリウスで頭出しとなったGA-C。前回のFMCにはギリギリ間に合わないタイミングだったのだ。

新設計のモノコックは左右Cピラーの間隔を75mmも広げることで、セカンドシートを左右にずらすことなくロングスライドを実現。
パワーユニットの低重心・低慣性レイアウトが図られたオールニューのプラットフォーム。

GA-Cプラットフォームについては、すでにたくさん語られているため、多くは説明しないが、CAEによる解析を駆使して骨格構造を最適化し、パワーユニット系の搭載位置や補機類のレイアウトも“低重心・低慣性”を目標に再構築されたもの。プリウス以降、C-HRやカローラシリーズ、レクサスUXなどにも展開されているが、ノア/ヴォクシーのそれは、リヤサスペンションがマルチリンク式からトーションビーム式へと変更されている。これは恐らく、軽量化とキャビンスペースの確保を狙ったものだ。

GA-Cプラットフォームを得て、より足の動きが良くなったフロントサスペンション。

リヤサスペンションはトーションビームを採用してラゲッジスペースを確保。

パワートレーンもほぼ全面刷新。ハイブリッドシステムは、MG1(発電機)の減速ギヤに遊星歯車を使っていた第3世代から、平行軸歯車に変更した第4世代を飛び越して、RC-IGBTを使用して小型化したインバーターや高出力モーターを採用する第5世代へと2世代分、進化。WLTCモード燃費は23.0km/Lと、旧型比で23%アップという“あり得ない”レベルで向上している。

ガソリンエンジンも“ダイナミックフォース”と呼ばれるM20A-FKS型へと換装。トランスミッションも、発進用にギヤ駆動を追加した“ダイレクトシフトCVT”に換装され、燃費は10%以上、良くなっている。

使い勝手の面でも、電動も手動もどの位置でも止められるバックドアや、2アクションで折りたためて固定操作もいらないサードシートなど、従来型の“かゆいところ”に手が届くどころか、これから痒くなりそうなところに、すでにかゆみ止めが塗ってあるような配慮を満載。「合算すれば王座は安泰」状態は、しばらく続きそうな出来映えだ。

市街地の短距離試乗でも17.2km/lの燃費をマーク

新世代プラットフォーム“GA-C”を手に入れた新型ヴォクシーの乗り味は、ひとことで言うと「しなやか」。駐車場内を移動しているだけで、サスペンションがよく動いているのがわかる。真っ直ぐ走りながら、左右に軽くハンドルを切ってみると、ロールは無理に止めずに、ある程度、許容する感じ。アイポイントが高いため、少しゆらゆらする感じはあるが、軸の通った動きなので、不快ではない。ハンドルの効き始めも意図的にマイルドにしている感じだが、舵が利き始めてからのフィーリングは、GA-Cに共通するダイレクト感がある。

乗り心地は基本的にしっとり系だが、40km/h以下の速度域で荒れた路面を通過すると、少しタイヤが硬い印象がある。試乗車のタイヤが205/55R17というサイズだったせいもあるかも知れないが、ファミリーユースなら65扁平ぐらいのほうが快適ではないかと思う。

気をてらったところはなく、扱いやすくデザインされたインストゥルメントパネル。カップホルダーのクロームパーツとソフトパッドのはめ合わせなどに質感の高いフィニッシュが見て取れる。

河川敷の公園と、その周辺道路を少し走っただけだが、うねった路面でもサスペンションのストローク感が豊かで、収まりも良い。ピッチ方向の動きも、ドライバーの後頭部あたりに中心がある感じで、視線のブレが少なく、首への負担も小さい。これならロングドライブの際にも、肩が凝りにくそう。ステアリングの前後調整幅が大きいので、足首が窮屈にならないのも良い。

加速応答も電気モーターらしい俊敏なものだが、エンジンが稼働したときの音質がもう少し上質になると、なお良い。市街地のみ短距離の試乗で、燃費計の数値は17.2km/L。みなさんの日常使いでも、このくらいは走ると思う。

ハイブリッド車の燃費は先代モデルの19.8km/lから23.4km/lへと大幅(18%も!)向上。実走行においても燃費の良さは十分実感できる。
新型ヴォクシー/ノアはタイプに関わらず、全車1730mmの3ナンバーサイズになった。全幅の増加分以上に大きく堂々としたフォルムに感じられるのは、新型ヴォクシー/ノアの特徴だ。なお全長は、ライバル2車と異なり、全車が5ナンバーサイズの4695mmに止まる。
トヨタ ヴォクシー S-Z(7人乗り)
 
全長×全幅×全高 4695mm×1730mm×1895mm
ホイールベース 2850mm
最低地上高 140mm
車両重量 1670kg
駆動方式 前輪駆動
サスペンション F マクファーソン・ストラット R トーションビーム
タイヤ 205/55R17
 
エンジン種類 直列4気筒DOHC
総排気量 1797cc
エンジン最高出力 72kW/5200rpm
エンジン最大トルク 142Nm/3600rpm
モーター最高出力 47kW/2302-10455rpm
モーター最大トルク 195Nm/0-2302rpm
WLTCモード燃費 23.0km/l
 
車両本体価格 3,740,000円

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…