大盛況の旧車イベント「甲府駅自動車博覧会」でエアコン装備のホンダZに出会った!

ホンダZに電動エアコンをインサート! 空冷エンジンでも快適空間を実現!【甲府駅自動車博覧会】

6月5日に山梨県の甲府駅前で開催された「甲府駅自動車博覧会」が盛況だったことをお伝えした。多数展示された車両の中から、今回は空冷2気筒エンジンを搭載する古いホンダZを紹介したい。このクルマは国内仕様にない600ccエンジンを採用する輸出仕様。それだけでも珍しいのに、なんとエアコンを装備しているという。一体どのような改造を施してあるのだろう。

PHOTO&REPORT●増田 満(MASUDA Mitsuru)
1972年式ホンダZ600。

初代になるホンダZは1970年に発売された360cc規格の軽自動車。空冷2気筒エンジンによるFF方式を採用したホンダN360をベースにクーペスタイルが与えられた野心作で、1998年に車名が復活した2代目とは全く異なるモデルだった。6月5日に開催された甲府駅自動車博覧会の会場に1台のホンダZが展示されていて、フト見ると初期の空冷モデル。1970年発売の初代ホンダZはベースとなるN360がライフへモデルチェンジするのと同時に切り替わり、1971年には水冷エンジン車になる。生産期間が短いため空冷エンジンの初期モデルは非常に珍しいから、気になって足を運ぶとボンネットが開いている。N360を所有していたことがあるので見慣れたエンジンルームなのだが、何かがおかしい。そう、なんとエアコンらしきものが装備されているのだ。これは話を聞かなければ!と、近くにいたオーナーを直撃した!

エンジン本体の左右に見慣れぬ装置がある。
バッテリーがあった場所はエアコンのコンプレッサーと制御ユニットに置き換えられていた。
ラジエターがないためコンデンサーは左側に装備された。

オーナーの水町充宏さんは61歳で、2021年にこのホンダZを手に入れられた。比較的最近のことで、インターネットオークションに出品されているのを発見。しかもよくよく見ればただのホンダZではなく、輸出仕様のZ600だった。さらに右ハンドルなのでイギリス仕様かオーストラリア仕様と思われる。これは珍しいと落札されたのだ。話を聞けば水町さんはホンダZ600以外にもホンダS600クーペをお持ちだそうで、熱心なオールドホンダファンなのだ。

「水中メガネ」と呼ばれる特徴的なリヤスタイル。
フロントウインカーが国内仕様とは異なるデザイン。
リヤのナンバープレートベースの形状からイギリス仕様と思われる。
国内仕様はフェンダーミラーだがZ600にはドアミラーが採用された。

古いクルマに長く乗られてきたオーナーならエアコンもクーラーもない室内で、夏場どのように乗り切るかご存じだろう。長く乗っていれば炎天下で渋滞するようなシチュエーションでは乗らないのがベストと体感されているだろうし、どうしても乗らなければならない時には扇風機や冷感グッズ、タオルなどを持参して挑む。ただ、比較的最近になって手に入れた水町さんだから、旧来の方法には目を向けなかった。考えたのがエアコンを追加すること。ただし、一般的なクランクプーリーの動力でコンプレッサーを駆動する方法だとエンジンに負担がかかる。特に600ccとはいえ空冷2気筒エンジンには辛いことだろう。だが時代は令和である。電気自動車が普及してきた世の中なので、電動駆動によるクーラーやエアコンが普通に入手可能。なんと水町さんはネット通販サイトで電動エアコンキットを発見。これを手に入れクルマの電装工場へ駆け込んだのだ。

トランクにエアコン用バッテリーを追加装備した。

ホンダZのエンジンルームは狭い。ただ空冷エンジンなのでラジエターがないから若干の余裕はある。そこでエンジンの両脇にコンプレッサーやコンデンサーを配置してレイアウトを確保。コンプレッサーがあった場所は標準のバッテリー置き場だったので、これを移設することで乗り切った。困ったのが配管類で専門の工場でなければ装着するのは難しかっただろうと回想されている。またコンプレッサーを電気で駆動するため、標準のバッテリーだけでは根を上げてしまうことは目に見えていた。そこでトランクにエアコン用と標準、2つのバッテリーを配置することにした。これで夏場を乗り切れると走り出したのだ。

インパネなどのデザインは国内仕様と大差ない。
スピードメーターはマイル表示のまま。
ダッシュボードの助手席側に吊り下げ式のクーラーユニットを配置。
国内仕様より大きなヘッドレストが組み合わされたフロントシート。

夏場でも安心して乗れるようになったZ600は、電動駆動のためエンジンに負担をかけることなくエアコンを使っている。狭い室内だからエアコンの効きも上々で、エアコンがない状態で乗るのとではドライバーの疲労度がまるで違うと語られている。暑さだけでも人間はヘバるものだし、運転しているとドライバーの体温は上昇しがち。クーラーすらない旧車に夏場乗るとグッタリ疲れてしまうのはこのため。でもこのZ600なら涼しい顔して夏場を乗り切れる。このアイデアは何もZ600だけでなく、すべての旧車に応用できることだろう。クーラーをつけないのはエンジンに負担をかけたくないからというオーナーが多いし、事実炎天下の渋滞時にクーラーをつけていると水温計と睨めっこになるくらい水温が上昇する。するとキャブレターへ届く前にガソリンが気化するパーコレーションを起こして最悪エンジンが止まってしまう。ところが電動式ならエンジンへの負担はゼロ。これは真似したくなる装備だといえる。

クルマの脇にグッズを展示されていた。

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著者プロフィール

増田満 近影

増田満

小学生時代にスーパーカーブームが巻き起こり後楽園球場へ足を運んだ世代。大学卒業後は自動車雑誌編集部…