古いクルマとの出会いは運だったり縁だったり、何かしらの偶然が付き物だ。どれだけ欲しいと思っても相手が見つからなければ話にならないわけで、無理して探した結果にガッカリしたというような話をよく聞く。逆にそれほど欲しいと思っていなくても相手から近寄ってきてくれて、幸せなカーライフを過ごしている例もある。昨今では旧車の相場が高騰しているのでなおさら、縁や運を大事にしないと高いばかりで壊れてばかりな個体を掴んでしまうこともあるだろう。どれだけエキスパートが選んだとしても、運に見放されるとロクなことはない。逆に良縁で巡り合った場合は大して手間も費用もかからないまま、楽しく日々を過ごすことができる。6月18日に取材した栃木県足利市で開催された「クラシックカーヒストリックカーミーティングTTCM」の会場で、良縁に恵まれた典型のような人とお話しすることができた。今年55歳になる中地敬一とロータス・エランがまさにその典型的な例だったので紹介したい。
中地さんが2010年に入手したこのロータス・エランはシリーズ最終モデルとなるロータスビッグバルブエンジンを搭載するS4スプリント。昔からの方程式だとフェンダーアーチが広がる前までのS1やS2が人気で、サイドウインドーにサッシが付いたS3までなら許せるというマニアが多かった。逆にフェンダーアーチが広がったために角張ることになったS4以降の人気は低く、室内のスイッチが従来のタンブラータイプからロッカータイプになったこともマニアから敬遠されたもの。これらはエランが現役だった頃を知る世代までの定義で、今では所有する層が一巡したのだろう。あまりこのような流儀を聞くことは少なくなった。現在55歳の中地さんは古い流儀とは関係なくS4スプリントを選んでいる。エランのなかでもスプリントは126psを発生する最強のビッグバルブエンジンを搭載しているし、最終モデルというだけに程度の良い場合も多かった。スタイル同様に走りを重視してエランを選ぶならスプリントは最高の選択肢といえる。中地さんがこのエランを選ぶときもボディサイドにストライプが走るこのスタイルに惚れてのこと。しかもオープンではなくクーペというところもポイントで、エアコンがある新しいクルマならともかく、この時代のオープンカーは日本で乗るには時期を選ぶし楽しめる日数は意外と少ない。けれどクーペであれば天候に左右されず(真夏は厳しいけれど)楽しめるというものだ。
中地さんが手に入れたスプリントは入手時すでにレストアが施されていたと思われ、内外装はおろかエンジンルームまで仕上がった状態だった。そのためだろう、購入から10年を経ているのにトラブルを起こしたことはなく、わずかにクラッチを交換しただけだという。クラッチは考え方によっては消耗品といえるので、これは壊れたうちに入らない。とても良い健康状態を保っているスプリントだといえよう。ただし熱対策は念入りにされている。古い英国車は日本のような高温多湿な気候を想定していないから、真夏になるとオーバーヒートしやすいもの。実際、この手のクルマだと真夏に水温計が100度を超えてしまい、冷却水を循環させるためヒーターをつけなければならないという冗談のような話がある。同じエンジンを積むヨーロッパに乗っていた筆者も真夏にヒーターをつけた記憶が多々あるほどだ。そのためかラジエターは新品にされているようだし、エンジン側にシュラウドを作って電動ファンが追加されている。さらにエンジンルーム先端付近にオイルクーラーを増設してオーバーヒートに対しては万全の構えになっていた。
古いロータスと聞けばトラブルが連続するようなイメージが多いと思うが、一度しっかり直されていれば思ったほど壊れないという典型だろう。中地さんは普通の中古車ショップで手に入れたそうで、専門店からレストア済みの状態で購入されたわけではない。一般的に趣味性の高いモデルは専門店から購入するのがベストと思われがちだが、中地さんのように店を選ぶのではなく個体の状態を見て選んでも良い結果になることだってある。それこそ良縁に恵まれた結果といえるだろう。普通なら修理代に追われそうなところだが、大きな金額がかからなかったこともありアルミホイールや車高調システム、ステアリングホイールなどを好みのものに入れ替え、予防整備的にドライブシャフトを交換されている。購入から10年を経てもこの状態なのだから、この先10年くらいは同じように楽しめるのではないだろうか。そう考えるととても良い買い物をされたと、うらやましく感じられてしまうのだ。