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エレガントなクーペフォルムが美しい
2015年5月に発表された現行4代目FDロードスターに遅れること1年半、「RF」は、翌2016年11月に追加された。もともと筆者は「クーペ」とか「大人の〜」的なものに弱く、マシーングレー(=ガンメタリック)の渋さも気に入った。あれからすでに5年半、RFに触れるのは久しぶりだ。借り出した試乗車は、RSの6速MT車。スポーツグレードのRSにはMTしかラインナップがなく、車両価格は3,977,600円である。発売当初の3,736,800円から24万円程度上がっている。
現行FDロードスターは四世代目で、2015年5月に登場した。FDロードスターは、ボディサイズもコンパクトで、排気量も1.8Lから1.5Lへと小さくなり、ロードスター本来の軽快感、ライトウエイトスポーツらしさを徹底的に突き詰めたことでロングヒットにつながった。1.5Lへの排気量ダウンを選択してまで、ボディの肥大化やパワーアップを路線を避けたわけだ。参考までに北米向けの「MX-5」は“さすがに1.5Lでは”、ということで発売当初より2.0Lを積んでいた。国内向けロードスターの1.5Lには、少なからずパワー不足を懸念する声が上がったのも事実である。
そして、その後に追加された「RF」は、ロードスターとは差別化されて、日本向けにも2.0Lエンジンが積まれた。開閉式のハードトップと2.0Lエンジン。このふたつがロードスターとの最大の違いである。RFとは「リトラクタブル・ファストバック」を意味する。ハードトップであっても、何よりも「ロードスターらしさ」を守り抜くことを最優先して開発、デザインされた。つまり、余計な重さも、美しさを損なうような造形も排除されてデザイン、設計されたということだ。結果、ソフトトップと比べて約45kg増に抑えた電動開閉ハードトップを開発し、クーペとしてのスタイリングとオープンエアの爽快感を見事に両立したのである。
クラシカルで落ち着くインテリア
RFに、乗り込んでみる。低くタイトなポジションは想定どおり。ロードスターならではの特徴はといえば、どこかクラシカルな雰囲気や、落ち着きが感じられるところだろう。意匠が古臭いというわけではないのに、スッと馴染んで気持ちが安らぐ。ウエストライン(サイドウインドウ下端の位置)も高過ぎない。囲まれ感と開放感のバランスが秀逸。上半身を少し外気に晒して座る感じのポジションがロードスター流だ。
RSの6MTは、ストロークが短くてコクコクと入りやすく、シフトをいじっているだけで笑顔になる。レザー貼り、ゴルフボール状の形状だけでなく、サイドブレーキレバーやステアリングに非常に近い位置にあって、ついついシフトノブに手がいってしまう。GR86/BRZもシビックもMTは気持ち良いが、個人的にもっともMTが似合うのはやはりロードスターかなという印象がある。RFは、ATとのマッチングも良いし、大人のクーペとしてはATが良く似合う。ただ、たとえそうだとしても、RFの「スポーツカーの部分」では、MTも楽しまないともったいないな、そんな感じだ。
RFのルーフ開閉時間は、全自動でわずか13秒。あまりに速いので調子に乗って、信号待ちの途中から開閉を試みて、青信号に間に合わないこともあった。オープンカーの中には50km/hでも開閉できるクルマがあるが、RFは5km/h程度まで速度が上がると作動がストップする。高速道路でのオープン走行は、100km/hプラスアルファ程度の速度では、アタマの先を風がやや撫でていく感じ。高速でのオープン巡航も平穏で快適だが、これ以上の速度域や、長距離巡航の場合は風切り音で疲れてしまうから、途中で閉めた方がいいだろう。運転中、ヨコを向けばBピラーが視界に入るから、開放感は「ロードスター」とイコールではない。ただ、真正面を向いている限り、視界は「ロードスター」とまったく一緒だ。
RFの開閉機構も「RF」だけの特典だ。Cピラーが持ち上がり、ルーフトップとリヤウインドウが3分割されながらシート後方に格納され、持ち上がったピラーが定位置に戻る。ここまでわずか13秒。狭いスペースに収まるギヤやリンク機構の作動状態を見ているだけで、オーナーなら何度でもニヤリとしてしまうはずだ。
芸術的なルーフ開閉動作を動画でも見てみよう。
1.5Lでも不満はないが、2.0Lの速さは邪魔にならない
ロードスターには21年12月の商品改良でKPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)が装着されている。旋回中にリヤ内輪にわずかな制動を掛けて浮き上がりを防ぐ機能だ。「KPCの効果は、(幌の)ロードスターや、とくに990Sなどよりも、やや重めでパワーもあるRFの方が違いが分かりやすいですよ」とクルマを借りる際にレクチャーを受け、ワインディングを楽しみにしていたのだが‥‥、芦ノ湖スカイラインに到着すると、急な雨と濃霧で前が見えない! KPCの有る無しを試すようなことも、残念ながら出来なかった。
ただし、手前の一般道までは、雨に見舞われずに済んだ。有料道路と同じペースでは走れないけれど、それでも自然にペースは上がる。この小ささがいい。この軽さがいい。エンジンが速過ぎないのもいい。タイトな山道をリズミカルに駆け抜けていく瞬間がロードスター(RF含め)のハイライトなのは間違いないということを思い出した。屋根は閉じているほうが、運転に集中できる。GR86や新型BRZと比べても、車体は小さく、軽く、なおかつ速すぎない。狭い道でも、ロードスターならではの利点は、それほど高くない速度域でも、運転行為自体を、肩の力を抜いて存分に楽しめるところだろう。
エンジンスペック ロードスター 直列4気筒DOHC 1.5L 97kW[132ps]/7000rpm 152Nm[15.5kgm]/4500rpm ロードスターRF 直列4気筒DOHC 2.0L 135kW[184ps]/7000rpm 205Nm[20.9kgm]/4000rpm
RFは、ロードスターそのものである
もともとは、クーペ好きが高じてRFのファンになった。しゃかりきに攻めるというより、屋根を閉じたときのクーペとしてのエレガントさや、余裕の2.0L+ATでゆっくり流す、という使い方に憧れた。もちろんそうした使い方も、ロードスターとは違ったRFならではの楽しみ方だろう。
でも、箱根のワインディングに足を踏み入れたときのRF RSは、エレガントなクーペの顔ではなく、ピュアスポーツカーそのものだった。クローズドのクーペボディも2.0Lエンジンも、実際の走りに効く。そもそもロードスターは、速くなくても楽しいクルマだから、1.5Lでも文句はない。ただその一方で、「速さ」も、スポーツカーの楽しさの一要素であることは疑いない。コーナー出口や立ち上がりで2.0Lの太いトルクが邪魔になるはずもない。そのトルクは、ターボでもモーターでもなくて、NAエンジンのそれなのだ。中速域でも、アクセルをボン、ポンと煽ると、ピックアップ良く反応して気持ち良い。アクセルで姿勢をつくる、なんてこともやりやすいんではないかな。
「パワーはあるけれど、RFは重いでしょ。重心も高いでしょ」という意見もあるだろう。それは、その通り。幌のロードスターには、パワーが小さくても、より軽快で開放感に満ちた魅力がある。でも、それはあくまで「ロードスター」と「RF」を比べればという話。RFは、それ単体で乗ったときに、十分に軽くて軽快で、ピックアップの良いNAエンジンを積んだ、生粋のピュアスポーツカーだ。RFも、あくまでもロードスターなのである。ロードスターの魅力に加えて、エレガントなクーペフォルムや気軽なオープンエアドライブも楽しめる。ガンメタリックのハードトップボディは目立たず、悪戯の心配も少ない。ピュアスポーツとエレガントなクーペ&オープンを全部持つ贅沢な一台で、なおかつどの部分にも一切の妥協がない。果たしてこれでもRFは脇役だと言えるだろうか。
マツダ ロードスターRF RS 全長×全幅×全高 3915mm×1735mm×1245mm ホイールベース 2310mm 最小回転半径 4.7m 車両重量 1100kg 駆動方式 後輪駆動 サスペンション F:ダブルウイッシュボーン R:マルチリンク タイヤ 205/45R17 エンジン 水冷直列4気筒DOHC16バルブ 総排気量 1997cc トランスミッション 6速MT 最高出力 135kW(184ps)/7000rpm 最大トルク 205Nm(20.9kgm)/4000rpm 燃費消費率(WLTC) 15.8km/l 価格 3,977,600円