まずは、鮮やかなレッド(イグニッションレッド)のボディカラーだ。BRZというとブルー(WRブルーパール)のイメージが強いが、スバルは気持ちを込めて新しいレッドを開発した。
「3層コートを使っています」とBRZの担当技術者は説明する。「赤は陰影がすごく難しく、暗くなったり、ムラが出たりします。そこで、通常2層のところ、ベースコートを1層入れてしっかり陰影を出し、より明るい赤を重ね、最後にクリアを載せることで、従来の赤に対して目の覚めるような発色の高い赤を実現しました」
後述するように「空力外装」も新型BRZのこだわりのひとつだが、よりミクロな視点で開発したのが、「空力テクスチャー」だ。フロントバンパーダクトの内部に、サメの肌の特徴を模して生み出した独特のテクスチャーパターンを採用。走行試験を繰り返し、付与角度にこだわりながら開発した。サメの肌にヒントを得た細かな凹凸が小さな渦を発生させることにより、乱流を抑える効果が期待できる。樹脂部品を作って検討するには金型を起こす必要があるため、テストでは時間的にもコスト的にも効率的なシートを用いて検討を重ねた。
「86は5度、BRZは20度の角度を付けています。86は水平に近くして風の流れをスムーズにする考え。BRZは少し前傾させてダウンフォースを得る考えです」
86とBRZは細部にも、細かな考え方の違いが宿っている。従来のクルマの運動性能、操縦安定性、旋回性は、「動力」「車体」「足回り」の3つの要素で調整するのが一般的だった。ただ、どの要素であっても、手を加えると大仕事になってしまう。そこで、BRZの開発にあたっては比較的手を付けやすい「空力」に着目。従来は主に空気抵抗値(いかに空気抵抗を減らすか)に着目して開発が行なわれていたが、新型では操縦安定性に効かせる視点で開発を行なった。この技術を「空力外装」と呼んでいる。
一例が、フロントホイールアーチ後方のエアアウトレットだ。タイヤがバンプした際のホイールハウス内の空気を抜くのが主な目的ではなく、車体の側面を通る空気の流れに作用させるのが狙いだ。
「クルマの横を流れる大きな風の流れに対し、45度の排出角でアウトレットから出る風を当てることで分解し、調整することで、クルマが揺れる力を減らします。30km/hくらいから体感できるレベルで効いてきます。高速道路でレーンチェンジした際は、車体の収まりが良くなっているのを感じていただけると思います」
フロントバンパーコーナー部のダクトもこだわりが詰まった一品だ。単純な筒状の穴ではなく、内部は複雑な構造になっている。空気の流れと排出圧力を調整するためだ。ダクトの位置や向きに数など、何度も吟味を重ね、最適化したという。「こんなに複雑なの?」と、正直、実物を見て驚いた。それだけ、手間を掛けて開発したということだ。
BRZは水平対向エンジンのシルエットを模した大型液晶メーターを採用している。シフトレバーの手前にある「TRACK」のボタンを長押しするとNORMALモードからTRACKモードに切り替わり、メーター表示も切り替わる。スポーツ走行やサーキット走行を念頭に置いた情報を表示するが、サーキットを走っているときにメーターを注視する余裕はない。そこで、ギヤの段数や自分が設定したエンジン回転数に達したかなど、必要な情報を目立つ色で表示することにより、周辺視野で情報を得られるようにした。
車体構造はスバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)の知見を生かして進化させている。前型はリヤのクォーター部に「部分的につながりきっていないところがあった」という。しっかり結合し、ねじり、曲げ剛性を向上させたのが新型のボディだ。走らせた瞬間にワンランク上質になったと感じるのは、進化したボディの恩恵が大きいように思う。
「とくに頑張ったのがCピラーです。前型はここが接続していなかったせいでボディがねじれてしまっていました。新型はサスペンションタワーまわりをしっかり結合することができ、ねじれ剛性が50%アップしています。前型でしっかり培ってきた技術があったからこそ、どこを分解して再構築すればいいのか、的確な答えを導き出すことができました」
「どうやったら1mmでも重心を下げることができるか」という命題に対する回答のひとつが、アルミルーフの採用だ。スバル初採用である。「難しいというより面倒臭い」と担当技術者は言う。アルミと鉄という特性の異なる材料を接合しなければならないからだ。BRZ(繰り返すが、他の技術も含めて86も同様)では、窓枠部にスポット溶接+トグルカシメ、SPR(セルフ・ピアス・リベッティング)、ルーフ部にブラインドリベット、構造用接着剤、機械締結という合計5つの接合技術を使い、アルミルーフを実現している。
低重心化に貢献しているのはシートも同様だ。カップルディスタンスを7.4mm縮めたのは、重量物である人間を重心点に近づけるため。シートの調整代を工夫することで、ドライバーを5mm低く座れるようにした。また、シート自体を3〜4kg軽量化したという。
こだわったのはホールド性と乗心地だ。前型はコーナリング時に大きな横Gが発生した際、面圧がうまく分散せず点で接触していたため、しっかりホールドできていなかった。新型では、上半身をしっかり背中でホールドすることでステアリング操作に集中できるようにし、サイドサポートで下半身を支えることでペダル操作が楽に行なえるようにした。また、前型は1ヵ所に荷重が集中するため腰が痛くなる問題を抱えていたが、新型では荷重分布を緩和させ、長時間のドライブでも快適に過ごせるようにした。
水平対向エンジンはFA20からFA24になり、排気量が400cc増えて2.4Lになっている。数字が変わっただけに見えるだろうが、「80〜90%作り換えている」という。
「前型で培ってきた知見やお客様からの要望をもとに1回すべてをばらし、どこをどうすればいいか考えて組み直しました。排気量が上がると熱量が上がるので、オイルクーラーは水冷にしました。86×86mmだったボアストロークを94×86mmにしています。ストロークは一緒ですが慣性質量が大きくなるので、何もしないと回転数は落ちてしまう。そこはD-4S(直噴、ポート噴射併用)の技術を使ってポートの吸気を最適化することにより、7400rpmの最高回転数を維持しました」
トランスミッションの基本コンポーネントは前型から踏襲しているが、エンジントルクの増加に合わせてトルクを受け止めるトルクコンバーターやクラッチなどを強化。ケースは部分的に補強を入れたという。6速MTは小気味良いシフト感を目指し、チャンファー(シンクロ機構を構成する部品に備わる爪)の形状に手を入れた。
6速ATはスポーツモードの制御を変更。減速度や加速度からスポーツ走行をしていると判断すると、減速時にブリッピングしながらシフトダウンして高いエンジン回転数を保った状態でコーナーに進入。立ち上がりは引っ張りすぎずにシフトアップする。前型でも似たような制御を採用していたが、新型では制御を見直し、サーキットだけでなく一般道でも楽しめるようにした。
新旧スポーツモードの違いは歴然としている。前型の制御はおとなしく、「これだったらMTを選ぶかなぁ」という印象だったが、新型は「これは楽しい」と、ワクワクする制御になっている。「ATでもしっかりスポーツを楽しめる」という技術者の言葉に誇張はない。