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新型はハイブリッドにも4WDを設定
前型のシエンタはガソリン車にのみ4WDが設定されていたが、新型はハイブリッド車にのみ、リヤに小型のモーターを搭載するE-FOURを設定している。北海道や東北など、降雪地帯での「ハイブリッドでも4WDがほしい」との声に応えた格好だ。発売直後の段階では、受注の8割程度がハイブリッド車だという。
プラットフォームはトヨタ最新世代のTNGA・GA-Bプラットフォームを採用。ヤリス、ヤリス・クロスと同じプラットフォームということになるが、同じといえるのはボディ前半のみ。シエンタは3列シートを備えるため、ボディ後半は専用だ。例えばハイブリッド車の場合、ヤリス/ヤリス・クロスは2列目シートの下にバッテリーを搭載するが、シエンタは3列シートがあるので、同じ場所に搭載したのでは3列目乗員の足の置き場と干渉してしまう。
そこでシエンタでは、フロアの下に薄〜く収めている。ニッケル水素電池のバッテリーパック自体は前型と同じだが、セルと制御に改良を加え、動力性能と燃費を向上させている。WLTCモード燃費は、最上級グレードのZ・7人乗りで28.2km/Lだ。前型シエンタは少し強めにアクセルペダルを踏み込むと、エンジン回転が上昇してうなりを上げる傾向があった。新型では、前型より低いエンジン回転で同じ走りをこなせるようにした。「電池の使い方だけでなく、エンジンの使い方も進化させています」と、開発責任者の鈴木啓友氏は説明する。
E-FOURもパッケージング上の工夫を施している。ヤリス・クロスではリヤモーターの上にインバーターを載せている。シエンタでそれをやると荷室を侵食してしまうので、リヤモーター用のインバーターは助手席の下に搭載している。乗員のためのスペース、荷物のためのスペースを犠牲にしないためだ。
ボディサイズを変えずに室内を広くしたい
「シエンタは小さいことに価値があります」と、鈴木氏は続ける。「しかし、二律背反が起きます。ミニバンと言った瞬間に、広いことに価値が出てくる。3列シートにしたり、荷物が積めたりと。小さいけど、広くしたい。全長や全幅を変えずに、二律背反を成立させるところが工夫のポイントです」
4260mmの全長は前型と同じ。2750mmのホイールベースも変化していない。なのに、1列目と2列目の間隔を示すカップルディスタンスは80mm拡大している。「そのカラクリは?」と聞けば、なんのことはない。2列目シートのスライド量を80mm後方に拡大したのだった。
「調べたのですが、普段からフルに7人乗っているシエンタって、なかなかない。ノア/ヴォクシーだってそうです。3列目シートは安心材料のひとつになっている。普段は2列以下で使っていることが非常に多いのです。だったら、3列目シートを使わないときは、はじめからなかったかのようにすっきり格納できるようにし、2列目シートのプライオリティを高くしようと考えました」
2列目シートが80mm後方にスライドすると、子供が座っても足が前席シートバックに届かないので、ドンドン叩かれることもない。1列目との間隔が広くなったので、チャイルドシートの脱着もしやすくなっている。両側スライドドアの開口部は前型に対して高さを拡大(+60mm)して乗降性を高めた。2列目にサンシェードを設定(Zに標準装備)したのもニュースだ。「サンシェードは高級車の装備みたいなヒエラルキー的な考えはやめました。要るものは要るんだと」(鈴木氏)
スマホなどの充電に便利なUSB端子は運転席シートバックの高い位置に設け、その両脇にスマホの収納便利なポケットを設けた。センターコンソールの後面にUSB端子を設置する例が多いが、この位置に端子があると、つないだコードに子供が足を引っかけやすい。使われ方の実態を調査したうえでの配慮である。
開発に携わる技術者が実際の使われ方を自分たちで確かめたうえで採用した装備にカップホルダーがある。運転席の右前、助手席の左前にあるカップホルダーだ。そこには500ml入りのペットボトルが入るだけではなく、500ml入りの紙パックが入るようになっている。「紙パックなんか持ち歩く?」と縁のない筆者は思ったが、リアルワールドではコンビニで買う例が多いのだそうだ。
シエンタの車内は静かで、上質ですらある
ユーザーのためだからと、なんでもかんでも装備を追加していくと、小さなアルファードになって手の届きにくい車両価格になってしまう。どこかで帳尻を合わせなければならない。策のひとつが、ホイールサイズを15インチに一本化したことだ。シエンタはコンパクトだとはいえボリューム感があるので、スタイリングのことも考えれば、16インチも設定して視覚的なバランスがとれるようにしたい。
新型シエンタはそこを割り切り、15インチのみ(185/65R15)の設定とした。16インチサイズのことを考えなくていいので、タイヤ切れ角に余裕が生まれ、最小回転半径は前型より0.2m小さい、5.0mを実現した。視覚的なバランスは、タイヤの前後に黒い樹脂製のモールディングを配することで解決している。タイヤと合わせた黒い部分の面積が広くなるため、足元を貧相に見せない効果がある。この樹脂パーツは、擦ってしまった場合にここだけ交換すれば済む実利上のメリットも生む。飾りではなく機能部品として、きちんと機能しているのだ。
ユーザーによろこんでもらおうとするアイデアの数々を実車で確かめた段階で感心しきりだったが、運転してみて驚きが倍増した。アクアに乗ったときの感動に似ていて、乗り心地が非常にいい。乗り味がやさしい、と表現したほうがいいだろうか。クラスを超越している。ルーフに減衰性の高い接着剤を最適に配置し、振動を抑制している効果も大きいのだろう(ヤリスやアクアでは非採用)。振動面で不利な、大きな箱形ボディにもかかわらず、シエンタの車内は静かで、上質ですらある。
ハイブリッド車が静かなのはある程度予期していたが、ガソリン車が静かなのには驚いた。低回転からしっかりトルクを発生するエンジンと、CVTの絶妙な制御のおかげか、エンジン回転を上げずとも(だから、静か)、巡航スピードに達することができる。頼もしいパワートレーンだ。Z・7人乗りでハイブリッド車は28.2km/L、ガソリン車は18.3 km/Lと、燃費には決定的な開きがあるが、ガソリンエンジン車が日常的なドライブで我慢を強いられることはなさそう。検討の価値はあると思う。