新型シエンタをガチライバルのフリードと比べてみると‥‥2列目、3列目の使い勝手や操作法はこんなに違う!

新型モデルで3世代目となるトヨタ・シエンタ。同車はトヨタラインナップにおけるもっとも小さなミニバン(=3列シートモデル)であり、ライバルはもちろん、ホンダ・フリードである。車体サイズもコンセプトもよく似た、ガチンコライバルといっていい。そこで本稿では、使い勝手を中心に新型シエンタとライバルのフリードを比較してみようと思う。
REPORT:工藤貴宏(KUDO Takahiro) PHOTO:中野幸次(NAKANO Koji)/平野陽(HIRANO Akio)/神村 聖(KAMIMURA Tadashi)

まずはボディサイズだ

新型シエンタ 全長4260mm×全幅1695mm×全高1695mm
フリード 全長4265mm×全幅1695mm×全高1710mm 

新型シエンタの車体は全長4260mm×全幅1695mm×全高1695mm。いっぽうのフリードは全長4265mm×全幅1695×全高1710mmだから、“違いは誤差程度”といって差し支えないだろう。新型シエンタは従来型に対して全高が20mm高くなったが、それもフリードよりは低い。とはいえ1695mmと1710mmの違いは「一般向け(ミニバンやSUV対応ではない)機械式立体駐車場に入る」という区分でもないから、「自宅や行動範囲の駐車場に全高1.7mの高さ制限がある」という人を除けば選択を分けるほど大きな差とはならないだろう。

ポイントは3列目シートの格納方法

両車を比べた場合、実用性を左右する大きなポイントとなるのは3列目の格納方法だ。シエンタは床下格納(2列目の下に畳んで収める)、フリードは左右跳ね上げ式となっている。

持ち上げた2列目シートの下に、3列目シートがすっぽりと収まっている状態。この後、2列目シートを元に戻せば、3列目シートは見えなくなる。
シエンタの3列目使用状態。
3列目を格納すると、その存在がなくなるためスッキリ。2列目を一度畳む必要があるため、操作はひと手間余計に掛かる。

その差が表れるのはシートを格納した状態。シエンタは3列目の存在を忘れるほど上手に隠れるのに対し、フリードは畳んでもシートが存在を強く主張し、荷室を狭めている。また、畳んで跳ね上げたシートが窓をふさぐことで斜め後方視界を遮ってしまうのも否めない。

フリードの3列目使用状態。
フリードは左右跳ね上げ格納のため、荷室をやや占領してしまうのと、後方視界にも若干の影響が出る。

ただし、3列目を格納・展開する際に2列目シートを動かす必要があるシエンタに対し、フリードはその必要がないのはアドバンテージとなる。結論として、シエンタは3列目を畳んだままにする人に向いていて、フリードは3列目を頻繁に畳んだり展開するような使い方とマッチングがいい。いっぽうで3列目を起こしたまま動かさないという人なら、格納方法の違いは気にしなくていいだろう。

シエンタとフリードは、2列目シートにも違いがある

シエンタが3人掛けベンチシート(乗車定員7名)だけの設定としているのに対し、フリードではそれに加えて左右席が独立した2人掛けシート(セパレートシート)としたタイプ(乗車定員6名)も選べるからだ。セパレートシートのメリットは開放感が感じられることと、2列目シートを畳まずに2列目左右席間の間を通り抜けて3列目にアクセスできること。

シエンタの3列シート車は7人乗りのみのため、2列目はベンチシート仕様のみ。
一方のフリードは写真の6人乗りも選べる。独立シートでセンターウォークスルーが出来るため、使い道が広がるのがうれしい。

後者の特徴により、2列目にチャイルドシートを2脚装着しても3列目を使えるのも見逃せないところ。3列目アクセス時に2列目を畳む必要がないセパレートシートと違い、畳まないと動線を確保できないベンチシートでは2列目にチャイルドシートを2脚装着すると、実質的に3列目が使えなくなってしまうのだ。チャイルドシートが必要な子供が2人いるファミリーなら、2列目にセパレートシートを選べるフリードのメリットは大きいといえる。

ところで、3列目の居心地はどうだろうか?

結論からいえば、シエンタ優勢だ。その理由は乗車姿勢が優れているからである。

シエンタもフリードも全長が短いゆえに、3列目の空間自体は広くない。どちらも「大人2人が無理なく座れるけれど、余裕はない」という印象だ。そんな状況ながら、シエンタのほうが床に対する着座位置が40mmほど高く、そのぶん足の収まりがよくて居心地がいい。

新型シエンタはフロアに対して座面がやや高く、より楽な姿勢で着座出来る。
フリードの3列目シートは座面の位置が低く、足を前に投げ出す姿勢になりがち。

ただし居心地の違いは声高に叫ぶほど大きなものではないので「3列目に大人が座ってロングドライブをすることが多い」というユーザーでなければ、両車の優劣を分ける決定的な要素とまではなり得ない。むしろ、3列目の居住性を気にするのならば素直にひとクラス上の「ノア/ヴォクシー」や「ステップワゴン」を検討するほうが幸せになれるだろう。

車中泊などに便利な2列シート車の場合は?

ここまでは3列シート車における違いに触れてきたが、シエンタにもフリードにも2列シート車が用意されている。それについても触れておこう。特に車中泊派にとっては、お互いの考え方の違いが寝心地に影響してくるところだ。

まず異なるのは、2列目シートの格納方法。シエンタがダイブダウン式(格納時に背もたれを前に倒すのと連動して座面も沈み込む構造)として低く畳まれるのに対し、「フリード+」を名乗るフリードの2列モデルでは前方へ座面を跳ね上げて畳む構造としている。そのため操作性はワンタッチでこなせるシエンタ優勢だ。

新型シエンタの2列シート車(5人乗り)はダイブダウンして沈み込むため、操作が簡単で床面も低い位置でフラットになる。

また、2列目を畳んだ際の荷室の前後長(車中泊を想定し1列目をもっとも前へスライド&背もたれも前倒しの状態)もシエンタのほうが15cm以上長い。荷室前後長はフリードでも約1.9mあるので大人がゆったりと横になれるが、より余裕があるのはシエンタだ。また、床面の位置もシエンタのほうが低い。

いっぽうでフリード+の強みとしては、前席との間に溝ができないことがあげられる。加えて荷室の床が驚くほど低いのも見逃せない。そのおかげで車両後方に広い床下荷室スペースが確保できるのも強みだ。天地高は375mmもあり、ここに荷物を置くことで荷室を広く活用できるのは便利だ。単純な荷室の広さではシエンタ優勢だが、空間の使い方が巧みなのはフリード+といえる。

フリードの2列シート車(フリード+)は、2列目の座面を跳ね上げてからシートバックを畳むタイプのため、荷室長さはシエンタよりやや短くなる。
床面の高さもフリード+は高くなりがち。一方フリード+だけの美点は、写真のように二段階荷室になるため、下面を荷物室として有効に使えることだ。

シエンタとフリードはほぼ同じボディサイズで、パッケージングもよく似ている。そして、どちらもよくできているのは間違いない。しかし、いくつか異なる部分もあり、使い勝手(特に小さな子供が2人いるとか車中泊重視といった状況)ではその違いをしっかりと見定めてクルマを選び分けるといいだろう。


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著者プロフィール

工藤 貴宏 近影

工藤 貴宏

自動車ライターとして生計を立てて暮らしている、単なるクルマ好き。

大学在学中の自動車雑誌編集部ア…