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ジャストサイズのスポーティセダン
スバルWRX S4は、いわばレヴォーグ・セダンである。SGPのver.2とも言えるフルインナーフレームを持つ強靱なボディにスバル得意の水平対向4気筒ターボ+シンメトリカルAWDを組み合わせたスポーティなセダンだ。
生粋のスーパースポーツだったWRX STIと同列に見られがちだが、WRX S4はあくまでも4WDスポーティセダンだと思ったほうがいい。エンジンは、前型が2.0ℓFA20ターボだったのに対して新型はFA24ターボを採用した。つまり約400ccの排気量アップを果たしたわけだ。にもかかわらず、新型は前型より25ps/50Nmダウンした最高出力275ps/最大トルク350Nmのパワースペックとしている。
フルモデルチェンジで出力を落とすという離れ業をやってのけたのだ。
今回WRX S4を借り出したのは、レーシングドライバーの谷口信輝さんの試乗用だ。WRX S4の運動性能やエンジンのフィールについては、これからたっぷりと動画でお届けできるので、それを楽しみにしていてください。
おとなしく走ってみる……
というわけで今回は、WRX S4のそれ以外の性能について、である。
どんなスポーツモデルを購入したとしても、常にアクセルを全開にするわけではない。リラックスして高速道路を流す、あるいは近所のスーパーマーケットにショッピングに行く、あるいは通勤に使う……というように、アクセルをそっと踏んでいる時間の方が多いはずだ。そのとき、どうなのか? そこを試すことにした。
恵比寿にあるスバル本社地下駐車場でキーを預かる。見慣れたスバルのブルーをまとったWRX S4は、リヤに羽(リヤウイング)こそ生えていないが、ブラックの前後バンパーとフェンダーアーチがなんとも精悍だ。
乗り込んで走り出すと、ステアリングのしっかり感(ステアリングコラムの剛性が高いというのか)とボディのがっちり感が心地いい。都内中に交通規制が敷かれていたために、街はあちこちで渋滞していた。ゆっくりのペースで走ると、乗り心地ははっきりと硬い。不快ではないけれど、本気モードからほど遠いときには、ちょっと硬い過ぎるかも。
第三京浜道路で横浜へ向かう。高速道路では制限速度でACCを使う。今回220kmほど走ったが、スピードの上限は約100km/hとしていた。あくまでも、「ひたすらおとなしく走ったら」がテーマだったのだ。
初日は56.3km走って11.1km/ℓという燃費だった。
最新のクルマはどれもとても燃費性能が優れているから、11.1km/ℓは正直もの足りない。走り方からしても14~15km/ℓくらいはいってほしいところだ。
とはいえ、WRX S4はただのスポーティセダンではない。前後輪のトルク配分をセンターデフで前45:後55に不等配分するVTD-AWDなのだ。「走行状況に応じて前後トルク配分をコントロールすることで、コーナリング時の回頭性と走行安定性を高度にバランスする」と説明書きにある4WDなのだ。
ご存知のとおり、スバル車はドライブモードを選べるようになっている。
WRX S4 GT-H EXの場合は
I/S/S#の3つのモードがある。SとS#は谷口さんにお任せして、筆者は基本的に「I」で走行した。
ノーマルモードにあたるIだと変速制御も通常、変速特性もCVTらしく無段階変速だ。対してSやS#を選択すると変速特性は「8段変速」となる。
おとなしく走っている分には「I」でまったく不満はない。熟成の域に入っているリニアトロニックCVT(WRX S4に搭載しているリニアトロニックCVTは「スバルパフォーマンストランスミッション」と名付けられている)は、かつてのようなラバーバンドフィールは一切ないし、ベルトではなくチェーンを使うリニアトロニックが悩まされてきたノイズもうまく抑えられていて、まったく不満のない2ペダルトランスミッションに仕上がっている。
燃費性能はやっぱりちょっと苦手
WRX S4で一番気に入ったのは、ボディサイズだ。全長×全幅×全高:4670mm×1825mm×1465mmは、扱いやすくなおかつデザイン的にはバランスのとれたサイズ感だと個人的には思っている。
ちなみに、筆者のマイカーであるF30型(つまり先代)BMW 3シリーズセダンののボディサイズは全長×全幅×全高:4645mm×1800mm×1440mm。つまり、ほぼ同じサイズなのだ。
違うのは、最小回転半径だ。先代³シリーズが5.4mなのに対してWRX S4は5.6m。水平対向エンジンをフロントに搭載するスバルは、どうしてもフロントオーバーハングが長くなる。エンジン幅が広いからハンドルの切れ角も大きくはとれない。となるとどうしても小回り性は犠牲になる。狭い住宅地の狭い道を走っていると、フロントのオーバーハングが気になる。スバリストの皆さんはどうしているのだろうか、これ。
翌日の集合場所は千葉県の袖ケ浦フォレストレースウェイだった。高速でも狭い郊外路でも、WRX S4の舵は正確。慣れてしまえば、硬めの脚もイヤではない。
今回の試乗では合計で216.2kmを走行した。これは谷口さんがドライブした分は含まない。つまり、大変おとなしく乗った距離である。
燃費は、トータルで11.46km/ℓだった。
正直言って、大変物足りない。と思ってスペックシートを見たら
WLTCモード燃費:10.8km/ℓ
市街地モード 7.6km/ℓ
郊外モード 11.4km/ℓ
高速道路モード 12.7km/ℓ
となっている。あれ、つまり今回はモード燃費以上だったんだ! ということは、WRX S4の燃費性能はほぼ引き出せたということだ。前述したとおり、今回の走り方で11.5km/ℓは4WDであることを差し引いても、やはり物足りない。これはスバル車全般が抱える問題だ。他のクルマの燃費性能がここ数年で一気に上がっているから余計気になってしまう。
比べるのもなんだが、新型シビック タイプRのモード燃費は
WLTCモード燃費:12.5km/ℓ
市街地モード 8.6km/ℓ
郊外モード 13.1km/ℓ
高速道路モード 15.0km/ℓ
である。MTであること、2WDであることを考えてもWRX S4は分が悪い。
日本車でもインポートカーでも、WRX S4くらいのサイズのバランスのとれたスポーティセダンというのは、そんなに選択肢がない。だからこそ、WRX S4にはもっと磨きをかけてほしいと思う。素質は充分なのだから。
(個人的に勝手なことを言わせていただければ)ブラックの迫力あるアーチモールもディフューザー風のリヤバンパーもいらない。2.4ℓではなくCB18型、つまり1.8ℓターボでいい(燃料もレギュラーだし)。ボンネットのエアインテークもないほうがいい(CB18型を積むアウトバックにはないし)。4WDシステムも普通のオンデマンドでもいい。地味だけど大人っぽいエクステリアと必要充分な動力性能、そしてスバルの4WD制御技術が載ったセダンがあればいいなぁ、と思う。
それがあった上に、今回のWRX S4があり、そのうえに(登場は未定だが)、走りの頂点を極めるWRX STIがある……というのはどうだろう? セダン人気が低い現在では実現の可能性は低そうだが、WRX S4のポテンシャルは上にも下にも拡げられそうな気がする。拡げてこそ光るスバルらしさ……というわけにはいかないだろうか?
スバルWRX S4 GT-H EX 全長×全幅×全高:4670mm×1825mm×1465mm ホイールベース:2675mm 車重:1600kg サスペンション:Fトラット式/R ダブルウィッシュボーン式 駆動方式:AWD エンジン 形式:水平対向4気筒DOHCターボ 型式:FA24 排気量:2387cc ボア×ストローク:94.0mm×86.0mm 圧縮比:10.6 最高出力:275ps(202kW)/5600rpm 最大トルク:375Nm/2000-4800rpm 燃料供給:DI 燃料:無鉛プレミアム 燃料タンク:63ℓ トランスミッション:CVT WLTCモード燃費:10.8km/ℓ 市街地モード 7.6km/ℓ 郊外モード 11.4km/ℓ 高速道路モード 12.7km/ℓ 車両価格438万9000円(+op価格22万円)