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佐賀空港への配備計画、大きく前進
陸上自衛隊が機体とその運用部隊の整備を進めるV-22オスプレイ。
米国ベル社と同じくボーイング社が共同開発した航空機で、米国での初飛行は1989年とされている。陸自はこのオスプレイを17機導入、2020年より部隊配備を開始した。
輸送航空隊に属する第107飛行隊、第108飛行隊の2個飛行隊を置いている。場所は千葉県の木更津駐屯地だが、ここは暫定配備地という扱いで、本来は島嶼防衛の中心地域となる九州沖縄方面へ置きたかったはずだ。
当初、オスプレイの拠点候補地はさまざまに取り沙汰されたが、なかでも佐賀空港が注目された。
佐賀空港と、たとえば隣県の長崎県佐世保市の陸自・相浦(あいのうら)駐屯地までは直線距離で約80kmといった位置関係で、近くはないが航空機ならば遠いわけでもない。
この相浦駐屯地には陸自・水陸機動団が置かれている。水陸機動団とは島嶼防衛での陸上勢力の中核的存在、離島作戦部隊だ。
つまり佐賀空港を発したオスプレイは相浦駐屯地で水陸機動団の勢力をピックアップし、南西諸島などへ向け急行する。こうした仕組み・運用が浮かぶものだ。
2022年11月1日、オスプレイの佐賀空港配備計画に関してニュースがあった。
FBS福岡放送によると、佐賀県と地元の有明海漁協は、佐賀空港を自衛隊と共用しないと明記した協定を見直すことで合意したという。
同漁協の西久保敏組合長は佐賀県の山口知事に対し、公害防止協定の覚書の見直しに応じることを伝えた。この覚書には、佐賀空港を自衛隊と共用しないことが明記されていたという。当地の漁業者は地権者となっている。
佐賀空港へのオスプレイの配備計画は2018年に山口知事が受け入れを表明、これ以降、同漁協と協議を続けてきた。今回の合意により今後は、佐賀空港内にオスプレイ輸送飛行隊の施設等の増設や、部隊を置く新たな駐屯地を設ける準備などが始まるはず。
筆者は2021年4月に佐賀空港や空港のある佐賀市川副町、有明海を臨む同町鹿江地区など地元の町を訪れたことがある。ここは有明海で育まれる名品「有明海苔」の産地だ。鹿江地区の川副支所に近い道路沿いには『オスプレイ反対』と書かれた赤い幟が林立し、静かな海辺の町に異質な雰囲気を醸していた。
この近所で有明海苔漁を営む男性と世間話をしていると、当地はもともと保守地盤だったが、佐賀空港への配備計画案が持ち上がると、それに反対する方々が移ってきて反対住民の会を作り活動を始めたという。この男性は我が国の防衛や安全保障上必要なことなら整備して構わないと考えていたが、住民のなかには反対に回る人も増えた。結果、賛成・反対で二分されるような形にもなったという。
先の報道で佐賀県有明海漁業協同組合・西久保敏組合長は「苦渋の選択」と話していた。配備計画に基づく空港工事や、事後の装備運用中になんらかの事象や事故などの発生による漁業被害などを心配してのことだろう。防衛省による計画推進には、より丁寧な姿勢が必要だと思う。
いま一度、おさらいを
ここで、V-22オスプレイのおさらいをしておこう。
オスプレイはティルトローター機と呼ばれ分類される航空機だ。ご存知の方かたも多いと思うが、オスプレイは主翼の左右両端にエンジンと、これに接続するプロペラに似たローターブレード(回転翼)を持っている。
この2基のエンジンとローターごと角度を変えて飛行する方式だ。傾ける(ティルト)ことで垂直離着陸を行ない、この傾きを戻して水平飛行に移ると固定翼機同等の高速性を発揮する。こうした可変機構が最大の特徴だ。
つまりヘリコプター(回転翼機)と固定翼機の能力を併せ持っており、ヘリの短所である、固定翼機と比較した場合の低速さをこの可変機構で解決しているわけだ。
エンジンを内包した「ナセル」は約90度の範囲で可動し、水平から垂直位置まで動く。ナセルの角度調整は自動と手動の切り替えが可能で、双方任意で変化させられるという。
重複するが、ナセルを垂直位置にすると回転翼機モード(ヘリコプター・モード)となり、ヘリ同様に垂直離着陸やホバリングができる。
ナセルを水平位置にすれば固定翼機モード(エアプレーン・モード)となり、高速飛行が可能だ。垂直離着陸でなく、短距離離着陸(STOL)を行なう場合、ナセルの固定角度を斜め前方約60度に固定して前進するそうだ。
次にスペック。
オスプレイの最大速度は固定翼機モードで約565km/hだ。陸自の輸送ヘリCH-47JAの最大速度は約270km/hだから、この倍以上の高速性を持つ。
巡航速度は約463km/h。これは固定翼の連絡偵察機LR-2の巡航速度約440km/hを上回る。
そして航続距離は長く、約2600kmとなる。航続面では格納式の空中給油プローブを使って空中給油を受ければ距離や滞空時間の延長も可能だ。
積載性は少ない。貨物積載量は約9トンで、輸送ヘリCH-47JAのような大きな積載能力はない。
人員ならば24名を収容して運ぶことができるが、機内は狭く、CH-47JAのように高機動車などを丸ごと積み込むことなどはできない。オスプレイは高速で高機動だが荷物が積めない。
そこで陸自は「汎用軽機動車」というATVを導入した。汎用軽機動車はオスプレイの機内に収容可能なサイズで、搬送する人員が降機した後の機動力・地上輸送力の一部としている。本車は陸自水陸機動団に配備されているという。
水陸機動団とは前述したように島嶼防衛での離島作戦部隊だ。陸自版海兵隊と呼ばれ、水陸両用戦を行なう。水機団は水陸両用車AAV7で上陸戦などを実施するが、オスプレイで現場への高速進出も行なう。水機団がオスプレイに乗ることで陸上勢力の離島急速展開ができるという目論見だ。
オスプレイの災害対応面などを見ると、ヘリ同様の飛行特性や固定翼機の高速性、航続距離の長さは、離島地域でこそ重要性が増す。ティルトローターの能力を活かして遠距離離島で発生する急患や傷病者の航空広域輸送を行う活用も充分期待できる。
佐賀空港への配備は、きっと光るはずだ。