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一般家庭での普通充電が、BEV普及のキーポイント
最近テレビCMでもお馴染みの日産「サクラ」が販売絶好調です。日産グローバル本社で7月上旬に行われた報道陣向け試乗会の時点で、初期受注は1万7000台を突破。その上で「東京や大阪などの都市部だけではなく、鹿児島、滋賀、香川、岐阜といった地方でも我々の想定以上の売れ行きです」とサクラのマーケティング担当者は驚いた様子です。また「普通充電に対するユーザーの理解も広がっています」と話します。
改めて、普通充電とは自宅や会社などで使っている交流の100V電源、または電気工事などをして200V電源にした状態で充電する方法です。
サクラの場合、電圧200Vで電流14.5A(200V×14.5A=2900W【2.9kW】)の普通充電では、約8時間で充電残量がほぼゼロの状態から満充電になります。サクラの電池容量は20kWhですので、20kWh/2.9kW=6.9h(6.9時間)となりますが、電池の温度管理など制御が入るため約8時間という解釈になります。
約8時間といえば一晩ということなので、「家に帰ったら充電をルーティンにしてください」と、日産では提唱しているのです。
サクラと兄弟車である三菱「eKクロスEV」でも同じような周知活動をしています。
航続距離は180㎞ですので、エアコンや暖房など電力消費量が大きい機器を使って多少航続距離が落ちたとしても、軽EVのような日常使いならば、一晩の普通充電で電欠の不安はない人がほとんどであると、日産や三菱は考えています。
もちろん、日産「リーフ」、トヨタ「bZ4X」、スバル「ソルテラ」、テスラ「モデル3」、ポルシェ「タイカン」など中大型の乗用BEVでは一般的な急速充電についても、サクラは対応しています。
急速充電とは、日本の場合は三相交流電源から400Vなどの高電圧直流に変換して、一気に充電する方法です。例えば、電圧400V×電流125A=50000W【50kW】でサクラを急速充電すると、20kWh/50kW=0.4h(24分)となります。ここに電池の温度管理の制御やリチウムイオン二次電池の特性などを考慮して、約40分間で満充電の約80%まで充電できるという解釈になっています。
急速充電器は、2010年代にリーフや三菱のi-MiEVの発売が始まったタイミングで、東京電力などの電力会社が中心となり、日本が発案したCHAdeMO(チャデモ)という規格を作りました。
技術的には、モビリティをチャージ(充電)するといった意味合いなのですが、「充電中にはゆっくり、“お茶でもどうぞ”」といった語呂合わせにもなっています。これは、2010年当時、筆者がチャデモ企画発案の中心人物から直接聞いた話です。
また、2010年代には「急速充電は電池を痛めて、電池の劣化を早める危険性がある」とも言われていました。皆さんもお持ちのスマホでも、同じような話があると思います。
確かに、2010年代のBEVは、近年発売されているBEVと比べると、電池の温度管理などがまだ初期的対応だったことや、電池の特性などもあり、電池の劣化の度合が多少大きいといえます。ただし、リーフの電池の再生事業を手がける、日産と住友商事の合弁企業「フォーアールエナジー」を直接取材しましたが、長期使用された実際の電池で走行データや充電に関するデータを検証したところ「電池の劣化は充電方式よりも、走行中のアクセルのオンオフの度合による影響が大きい」とのことです。
そのため、普通充電を基本として、遠出の際には計画的に急速充電するのがBEV賢い使い方だといえるでしょう。
こうした充電に関する考え方は欧米や中国などBEV普及が進む各国でも同じです。
ただし、欧州では急速充電の超高電圧化の動きが出てきており、ポルシェが実用化している350kWはもとより、1000kW越えの実証実験も始まっている模様です。
いずれにしても、日本では普通充電を日常生活に組み込むことがBEV普及のカギになることは間違いなさそうです。
著者PROFILE●桃田健史
1962年8月、東京生まれ。日米を拠点に、世界自動車産業をメインに取材執筆活動を行う。インディカー、NASCARなどレーシングドライバーとしての経歴を活かし、レース番組の解説及び海外モーターショーなどのテレビ解説も務める。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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