小型ステレオ画像センサーは2016年に初めて製品化され、ダイハツ軽乗用車「タント」に採用されて以来改良を重ねて、今回で2世代目の製品。これまでに、ダイハツ軽乗用車「タフト」、小型乗用車「トール」「ロッキー」などに採用されており、12月20日に発売されたダイハツ軽商用車「ハイゼットトラック」「ハイゼットカーゴ」「アトレー」にも新たに採用された。
国内における軽自動車の保有台数は年々増加している。軽自動車においても安全機能の向上が求められる一方、車両一台に掛けられるコストや搭載スペースが限られており、普通自動車と比較すると安全製品の搭載に制約がある。軽自動車にも安全製品を普及させるためには、低価格かつコンパクトな製品であることを前提に開発していく必要がある。
今回の製品開発では、従来品と同等の世界最小サイズと価格を維持しながら、性能の向上と機能の拡大を実現した。識別能力が高い単眼認識ICを追加採用し、イメージャーをより高感度なものに変更することで、衝突回避支援ブレーキ機能の対応速度や夜間の歩行者検知の性能を向上し、標識認識支援などの機能が拡大した。
■ 衝突回避支援ブレーキ機能の対応速度向上
前方車両の検知距離が伸びたことで、衝突回避支援ブレーキ機能の対応速度の向上に貢献した。
■ 夜間の歩行者検知
高感度イメージャーにより撮像性能が向上し、夜間の歩行者の検知が可能になった。
■ その他、対応機能の拡大
先行二輪車に対する衝突回避支援、道路標識の認識支援、ガードレールや側壁検知による車線や路線の逸脱警報などが可能になった。
私はハード設計のプロジェクトリーダーを担っていました。
ハードの設計においてもっとも苦労したのは、従来製品の基板サイズを維持したまま、単眼画像処理ICを追加した点です。一般的に部品密度が高まると、半導体同士が近接し、冷熱サイクルによって生じる “はんだストレス”が大きくなるため、車載信頼性の成立が困難になります。また、配線の自由度も低下するため、高周波回路設計の成立も難しくなります。しかし、軽自動車への搭載性を考慮すると、従来製品の基板サイズを維持することは必須条件であり、何としてでも達成させたいポイントでした。そこで私たちのチームは、部品の高密度化、車載信頼性、高周波回路設計の全てを成立させる困難な課題に挑戦しました。
チーム一丸となり、冷熱サイクルによる“はんだストレス”を定量化する設計手法を新たに確立しました。また、高周波回路設計についても一から見直しました。特に、高速通信の非アクティブ区間の設計は、デンソーに知見がなく、設計手法の確立に大変苦労しましたが、各担当者が「設計へのこだわり」を持ち、粘り強く頑張ってくれたおかげで、従来同等の基板サイズを実現できたと思います。一連の設計をお客さまへ説明し、感謝の言葉をいただいたとき、苦労が報われたと嬉しく思う反面、今後もお客さまそして社会の期待に応えるためには、継続的なハード技術開発が必要であると強く感じました。
画像センサーに求められる性能は年々上がっており、それに比例してハードの規模も大きくなる傾向にあります。今回の開発を通じて、軽自動車や小型車まで広く安心・安全を普及させるためには、”車両搭載性”は欠かせないファクターであると改めて感じました。今後も車両搭載性を考慮したハード設計にチャレンジし、安心・安全の普及に貢献したいと思います。
私は営業担当として、製品の企画から拡販、品質対応まで、一気通貫で担当していました。
軽自動車は車両が小さいため、製品のサイズやワンパッケージ化など制約も多く、さらにお客さまが掲げる“良品廉価”を実現するためにはコストを抑える必要があります。軽や小型車を中心とするダイハツさまならではの苦労や悩みを理解し、その先にいる軽自動車ユーザーの命と安全を守る製品を普及できるのは、黎明期から長年、ADAS製品を担当してきた自分しかいない、という強い使命を持って推進してきました。お客さまと社内の間で板挟みになるのが営業の常ですが、しっかりと双方の立場に立って状況やニーズを正しく理解し、少しでも期待に応えられる案を考え出し、着地点を見出すような粘り強い交渉を行うことで難しい局面も乗り越えました。
お客さまから「この製品はダイハツとデンソーの強力なパートナーシップ開発の一番の成功例です」と感謝の言葉をいただいたときは、本当に嬉しかったです。また、「(この安全システムが)二度も私を事故から守ってくれた」「安全なクルマを廉価で購入できるのはありがたい」など、ユーザーの方からの生の声も聞くことができ、改めてこの製品に携わることができて良かったと感じています。
私は、安心・安全は車格や車種によって差があってはならないと強く思っています。そういう意味でも、今回、良品廉価なADAS製品を軽自動車や小型車に普及できたことの意義は大きいです。現在は部署が変わり、担当するお客さまも変わりましたが、さらにADAS製品を普及させるとともに、今後は交通弱者や地方での移動手段の確保に取り組み、これからもすべての人に安心・安全な移動を届けることに貢献していきたいと思います。
私は品質保証の担当として、仕入先さまの工程品質確保と向上に重点をおいて取り組みました。
この製品の製造工程は、デンソー側で構成部品を生産、その後仕入先さまに支給し、組付け・調整・検査をしてデンソーへ再納入するというプロセスがあり、まさに仕入先さまとともに作り上げた製品と言えます。デンソーが求める品質レベルとその背景にある考え方まで、お互いの理解がすり合うまで話し合い、ともに品質を作り上げていきました。そして、品質審査に合格したときに仕入先さまからいただいた感謝の言葉が今も心に残り糧となっています。
私の信条は「楽をしたい」です。一見不真面目な言葉に見えるかもしれませんが、品質保証として「楽をする」というのは、良い製品を世の中に提供し問題を発生させないということです。早い段階で製造工程を作り上げ、品質レベルの高い製品を安定して生産することができれば、後追いの業務は減少し、品質保証は「楽」ができるのです。良いモノづくりの実現には苦労も多いですが、これこそがデンソーのモノづくりの原点であり、楽しくやりがいのある仕事です。
今後、モビリティ分野には最新技術が次々と導入されていくでしょう。しかし、その技術を支え、機能を実現するのは「モノ」です。設計の意図通りに正しく製品を作り上げるには、モノづくりに徹底的にこだわり、仕入先さまの工程、さらにその先の仕入先さまの工程にまで入り込み、見つかった課題には一緒になって解決策を探ることが肝要です。これからも、仕入先さまと本音で議論できるビジネスパートナーとして、ともに品質を高め合える関係を築いていきたいと思います。また、お客さまが期待する品質目標をクリアすることはもちろん、エンドユーザーの一人ひとりの安心・安全を守るため、品質にこだわった製品を提供していきます。