【海外技術情報】ダイムラー:バッテリー式電気自動車と燃料電池トラックの量産に向けた道筋が労使間で合意

Zukunftssicher, nachhaltig und flexibel: Mercedes-Benz Werk Wörth stellt Weichen für die künftige Serienproduktion von batterieelektrischen und Brennstoffzellen-Lkw Future-proof, sustainable and flexible: Mercedes-Benz plant in Wörth sets course for future series production of battery-electric and fuel-cell trucks
ヨーロッパメーカー各社が続々と乗用車の完全EV化を宣言しているが、商用車の動向も気になるところだ。ダイムラーは先日、2030年までに乗用車を完全にEV化すると発表したばかりだが、商用車の脱ICEについてもリリースを発表している。ここでは、そのリリースを翻訳・要約してお届けしよう。
TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)

 ヴェルトにあるメルセデス・ベンツ工場は、メルセデス・ベンツのトラック生産ネットワークにおけるCO2排出のない輸送の中心地になりつつある。経営陣と労使協議会は、同工場における将来目標について合意したと発表した。2021年10月に量産を開始するメルセデス・ベンツ『eActros』に加えて、『eEconic』や『eActrosLongHaul』といった、メルセデス・ベンツ・ゼロエミッショントラックの生産も、将来的にはヴェルトで行われる計画である。ダイムラーは今後数年間、このヴェルト工場に多額の投資を続ける。

 メルセデス・ベンツ・トラックのグローバル生産ネットワーク担当責任者のSven Gräble氏は以下のように述べた。
「私達はメルセデス・ベンツのトラック生産における将来の基盤を築いています。地域排出のないトラックへの技術シフトは、工場と生産の大きなシフトを意味します。将来的には、ここヴェルトで電気トラックの生産を大幅に拡大する考えであり、すでにそのための環境を整えています」

 ヴェルト工場のThomas Zwick会長は以下のように述べた。
「経営陣との集中的な交渉の結果、工場の将来に関する強力で実行可能なビジョンに合意しました。これにより雇用の確保と既存の集団協定の遵守に成功しました。労使協議会がヴェルトで新しいモデルを生産するというコミットメントを受け取ったことを誇りに思います。これにより工場の長期的な未来を確保し、従業員と一緒に自信を持って変革を形作ることができます」

 ヴェルト工場の将来のビジョンは、2029年末までの期間の労働協約で決定される。実施の詳細は、今後数か月以内に経営陣と労使協議会の間でさらに詳しく検討される。生産の転換を含む今後のサイトの変革には多額の資金が必要になる。そこでダイムラーは今後数年間、この目的のために工場への投資を継続する。ただし、変革には公共部門からの支援も必要である。そこでダイムラー・トラックは、水素および燃料電池技術への資金提供の一環として、ドイツ政府に申請書を提出した。ラインラント・プファルツ州政府は政府宣言で既に支持を表明している。

 ドイツ国内のパワートレイン工場(ガゲナウ、マンハイム、カッセル)に関しては、経営陣と労使協議会が現在、将来の方向性について、集中的に話し合いを行っている。

ゼロエミッショントラックが工場の長期的利用と雇用確保を約束する

 ダイムラー・トラックはCO2に中立な輸送への転換において、バッテリーと水素ベースの燃料電池という2つの電気駆動技術を活用している。これにより、都市の流通から、計画が難しい数日間の輸送まで、あらゆる顧客の、あらゆるニーズを柔軟性にカバーできる。

 最初のBEVトラックとして、流通輸送ルート用のメルセデス・ベンツ『eActros』が2021年10月からヴェルト工場で生産される。来年には、これに『eEconic』が続く。長距離輸送用のBEVトラック『eActrosLongHaul』は2020年代半ば以降に発売される。ヴェルト工場でゼロエミッショントラックを製造することを決定したことで、プラントの長期的な稼働率と安定した雇用を確保した。

未来への鍵は「労働者の技能」と「柔軟性の拡大」

 必要なインフラストラクチャを含めて、代替駆動システムを備えたトラックを生産するために、新しい組み立てプロセスがヴェルト工場に導入された。この目標に到達するための決定的な要因は、労働者の技能と生産の柔軟性であり、将来に向けて労働力を準備する。2018年以降、約2,000人の従業員がヴェルトにある自社の訓練開発センターにおいて、高電圧車両およびコンポーネントの取扱いに関する資格を取得し、電動トラックの組み立てに不可欠なスキルを習得した。

 柔軟性の高い生産により、今後数年間でメルセデス・ベンツ工場で従来型トラックとゼロエミッショントラックの両方を効率的に生産できるようになり、工場全体の競争力が高まる。いわゆるフルフレックスコンセプトにより、ゼロエミッショントラックを既存の生産に統合することが可能になる。このようにして、プラントはそれぞれの市場の需要に効率的かつ迅速に適応し、メルセデス・ベンツの厳しい品質基準を確実に満たすことができる。また年内に2シフトから3シフトへと切り替え、現在の好調な受注状況に合わせて生産能力を大幅に増強する準備を進めている。

グリーン工場:生産はカーボンニュートラルになる

 製品に加えて、生産を含むヴェルト工場全体が、カーボンニュートラルになる。他の全てのヨーロッパのダイムラー・トラック工場のように、それは2022年に達成される。ダイムラー独自のグリーン電力のコンセプトが、それを可能にする。再生可能エネルギー源からの電力調達が、その基礎を形成する。その一環として、2022年以降、風力発電所や太陽光発電所、水力発電所から電力を調達する。工場のエネルギー効率の改善も重要な役割を果たす。その一例をあげると、長期的なアイデアとして、空調への中央吸収式冷凍システムの導入が考えられる。これが電気の代わりに既存の熱を使用して、現在工場にある数百もの分散型空調ユニットに取って代わる。既存の建物やインフラもエネルギー効率の面で全面的に改装される。塗装工場のエコペイントプロセスなどの新技術が生産に使用される。

 ヴェルト工場は、1963年にヴェルトアムラインに設立された、メルセデス・ベンツ・トラック最大のトラック組立工場である。メルセデス・ベンツ『Arocs』と『Atego』の両トラック、それに世界で最も成功した大型トラック『Actros』を20年以上にわたり生産している。あの『Unimogu』もここで製造されている。顧客の要件に応じてカスタマイズされた最大470台のトラックが、毎日工場から出荷される。このライン川沿いの工場は、グローバルなメルセデス・ベンツ・トラック生産ネットワークの中心である。

キーワードで検索する

著者プロフィール

川島礼二郎 近影

川島礼二郎

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系…