これにより、平常時は電力市場取引で収益をあげながら、災害や計画停電などの非常時には自立電源として停電あるいは停電予定地区に電力供給を行う運用ができることを確認した。停電時を想定し、実配電網で蓄電池を電源として構築・運用されたマイクログリッドは日米において初めてとなる。
本実証事業の成果は今後、無電化地域における太陽光や風力発電施設を併設したマイクログリッドの構築や、発電機燃料の輸送コストが高い島しょ地域での再生可能エネルギーによる100%電力供給など、国内外で高い需要が見込まれる用途にも適用できる。
米国カリフォルニア州は、2045年までに電力の100%を温室効果ガスの排出がないエネルギーで賄うとする州法「SB100」を成立させ、再生可能エネルギーの大量導入に伴う電力品質低下の解決策として蓄電設備の導入を促進している。また同州では近年、森林火災や猛暑下に空調負荷が急増することへの対策として緊急で計画・輪番停電が行われることが社会問題になりつつある。そこでデータセンターなどの需要家側では、特定の分電盤(重要負荷分電盤)に接続された回路にのみ蓄電池の電気を流すなどの停電対策が行われているが、さらに広域での停電対策と電力システムのレジリエンス(回復力)強化が求められている。
このような背景のもと、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2015年9月から住友電気工業株式会社を委託先とし、同州サンディエゴにて長寿命で大型化に適した定置用蓄電池「レドックスフロー電池(RF電池)※1」を活用した実証事業※2を進めてきた。RF電池は、充放電のパターンやサイクル数が劣化要因にならず、また充電残量をリアルタイムで計測できるという特長がある。すでに2018年12月に現地の系統運用機関と始めた電力取引においても、自由度の高い入札パターンを選択できるなど、エネルギー市場(電力量の取引市場)とアンシラリーサービス※3市場の両方で収益向上に寄与する入札戦略の開発、実証試験※4を行ってきた。
さらに2021年にはRF電池設備を活用することで実配電網の一部にマイクログリッドを構築し、同州で問題となりつつある自然災害や計画・輪番停電への対策とする追加検証を決定※5、同年10月から実証試験を開始し、運用に成功した。停電時を想定し、実配電網で蓄電池を電源として構築・運用されたマイクログリッドは日米において初めて※6。
今回の成果
【1】マイクログリッドの構築・運用によるレジリエンス強化を検証
災害時などの停電地区への電力供給を想定し、容量8MWhのRF電池を接続した配電網の一部を商用系統から切り離した上で、RF電池を自立電源としたマイクログリッドを形成することで、66軒の需要家に電力を供給した。マイクログリッド内の電力需要や太陽光の発電出力は常に変動するが、RF電池が需給バランスの維持に必要な電力を充放電することで、配電線の電圧や周波数を安定させることができた。
系統連系状態からマイクログリッドへ移行する際は、停電状態で蓄電池を起動するブラックスタート移行と、需要家が停電を感じない無瞬断でのシームレス移行のいずれでも安定していることを確認※7した。
これにより、平常時は系統運用機関との電力取引で収益をあげながら、災害や計画停電などの非常時にはマイクログリッドの自立電源として停電あるいは停電予定地区に電力供給が可能であることを確認した。
【2】実証事業全体を通じてRF電池の性能を検証
マイクログリッドの運用を含む一連の実証試験により、以下の成果が得られた。
- RF電池の充放電パターンやサイクル数、運用SOC(State of Charge:充電状態)範囲が電池劣化の促進要因とならない特長を生かし、自由度の高い入札アルゴリズムを検討することで電力市場取引における収益向上につながることを検証した。
- 約4年間の実証運転において、RF電池はSOCが0%から100%のフルレンジで運用を継続しても、顕著な容量低下が認められず、設計寿命である20年後においても定格容量(8MWh)を確保できる見通しであることを確認した。
- 顕著な電池の劣化がないだけでなく、約4年間の実証期間においてシステムとしての大きな故障もなく、高い稼働率(99%)※8で運用を継続できる信頼性の高さを検証した。
本実証事業の成果は今後、無電化地域における太陽光や風力発電施設を併設したマイクログリッドの構築や、発電機燃料の輸送コストが高い島しょ地域での再生可能エネルギーによる100%電力供給など、国内外で高い需要が見込まれる取り組みにも適用できる。
NEDOと住友電気工業は、本事業の成果の普及展開により、電力インフラのレジリエンス(回復力)強化や、再生可能エネルギー導入拡大と温室効果ガス排出削減による脱炭素社会の実現に貢献していく。
※1 レドックスフロー電池(RF電池):バナジウムなどイオン(活物質)の酸化還元反応を利用して充放電を行う蓄電池で、電池反応を行うセル、活物質を含む電解液、電解液を貯蔵するタンク、電解液を循環させるためのポンプと配管から構成されている蓄電池。電極や電解液の劣化がほとんどなく長寿命であり、電解液が不燃であることや常温運転が可能なことから耐火性・安全性が高い。充電残量を計測可能なほか、出力(kW)と容量(kWh)を独立に設計できる特長もある。
※2 実証事業 事業名:「国際エネルギー消費効率化等技術・システム実証事業/米国加州における蓄電池の送電・配電併用運転実証事業」
事業期間:2015年度~2021年度
参考:NEDOニュースリリース 2015年9月11日 「米カリフォルニア州でスマートコミュニティ実証プロジェクト」
※3 アンシラリーサービス:供給される電力の品質を維持するための技術的、運用的な仕組み。たとえば、需給バランスの監視や系統運用、電圧、周波数の調整などがアンシラリーサービスにあたる。従来、日本では電力会社が担ってきた役割だが、電力自由化に伴い発送電分離が進むためには、アンシラリーサービスの各機能についても内容や費用が明示化されていき、機能によっては市場での取引対象となることが求められている。
※4 実証試験 参考:NEDOニュースリリース 2018年12月18日 「米国初、レドックスフロー電池の電力卸売市場での運用を開始」
※5 追加検証を決定 参考:NEDOニュースリリース 2021年1月22日 「蓄電池の世界初の平常時・災害時併用運転(デュアルユース)の追加実証を決定」
※6 停電時を想定し、実配電網で蓄電池を電源として構築・運用されたマイクログリッドは日米において初めて:住友電気工業調べ。
※7 安定して移行できることを確認:マイクログリッドの運用例としてブラックスタート(系統から切り離された停電状態からのマイクログリッド起動)にてマイクログリッド運転を実施した際の周波数および蓄電池の出力(負荷に追随)の波形を以下に示す。RF電池が自立電源となり、マイクログリッド内の負荷との需給バランスをとることで、安定な周波数を維持できていることを確認した。
※8 高い稼働率(99%):CAISO(California Independent System Operator)運用供試期間の稼働率、ただし電池設備以外の不具合による停止期間を除く。