エンジンの性格を決めるカムシャフトを考察する[内燃機関超基礎講座]

カムシャフトは、シリンダーブロックより下側のピストン&コンロッドやクランクシャフトのように運動エネルギーの制御には直接関わらないが、クランクシャフトからチェーンやコックドベルトで回転力を受け取って、吸排気バルブの開閉を制御する重要な役割を持つ。

トルク&出力をどのように発生させるかはバルブタイミングを司るカムシャフトが一手に担っている。4ストロークエンジンでは、クランク2回転で1サイクルとなるから、カムシャフトは1回転で吸気/圧縮/膨張/排気の4行程を制御できるよう、クランクシャフトの回転は1/2に減速されてカムシャフトに伝えられる。クランクシャフトほど大きな加振力や慣性力にさらされるわけではないが、径に比べて長さが長く、バルブスプリングの張力に抗する必要があるため、一定の強度・剛性は必要である。鋳造の鋼製棒からカム山(カムロブ)を切削研磨して成形し、カム山の表面を高周波焼き入れや薬品処理で硬化させる製法が一般的だが、カム山だけを別体で作ってシャフトに焼き嵌めする手法も多くなってきた。

ティッセンクルップによる、組み立てカムの例(PHOTO:牧野茂雄)

ジャーナル部の支持は1気筒4バルブでカム山がふたつある場合、気筒間で支持する方法と、1気筒のふたつのカム山の間で支持する方法があり、一般論として後者の方が支持剛性は高くなる。ただしカムとジャーナル間の余裕がないためレイアウト設計は難しくなる。カムシャフトには開弁時には回転を押し戻す力が、閉弁時には回転を加速させる力が交互にかかるため、常にねじり振動にさらされる。カムシャフトがねじれると、気筒間のバルブタイミングが狂ってしまうため、シャフト自体の剛性以上に、支持剛性は重要となる。

クランクシャフトのジャーナルに比べて受容面圧が小さいので、潤滑は難しくない。シャフトの軸方向に穴を開けてオイルを通す方法が一般的。ジャーナル部よりカム山とバルブリフター(カムフォロワー)の当たり面の潤滑のほうが重要であり、また昨今ではシャフトの先端に可変バルブタイミング機構が取り付くことが多いので、潤滑経路には工夫が求められる。

カム山はカムシャフトの心臓部であり、バルブの開閉タイミング、開閉時間、リフト量を制御するプロファイルが成形されている。カム山が移動しながらリフターを押す(スプリングによって押し戻される)際には、カム山の頂点付近(ノーズ部)には強いこじり力が働く。それを防止するために、直動式ではタペット上部にDLC等のコーティングを施したり、ロッカーアーム式ではカムフォロワーにローラーベアリングを設けることが多い。カムのノーズに直接ローラーベアリングを仕込む例もある。カム山のこじり摩擦を緩和するために、直動式ではタペットの中心とカムシャフトの中心をわずかにオフセットさせ、タペットを回転させて当たり面をずらすことも行なわれる。また、カム山部はタペットとの摺動抵抗の他にも、バルブジャンプやバウンスによる衝撃も受けるため、強度が求められる。

直動式はカムシャフトとバルブの軸中心を一致させないと(微小オフセットは無視)動作が成立しないが、ロッカーアーム式であれば、ロッカーアームの配置と支点の取り方でカムとバルブの配置には自由度が出る。特にバルブ挟み角が狭く、エンジン高の低減が求められる今日のエンジンでは、ロッカーアーム式に利が多いものの、バルブ駆動の正確さ、ロスの少なさでは直動式が有利と言われる。ローラーロッカーアーム式で吸入空気量を増やす為にバルブリフトを大きくしようとすると、カム山とローラーの当たり面が平面でないことで、開弁に必要な加速度が足りず、結果的にバルブリフトを増やせない。そこで、ローラーロッカーアーム式ではカム山の側面Rを凹ませるようになった。

スバルFB16DIT用のカムシャフト。凹カムの(カム)プロファイルを使うことで開弁初期の加速度を上げられるのでリフト量が増大し、閉じる間際の減速加速度も上げることができる。

また、直動式ではカムプロファイルがそのままバルブの動きとなるが、ロッカーアーム式ではほぼ例外なくレバー比が発生すると同時に、アーム長の設定によって滑り率も変化する。設計要求が同じプロファイルでも、直動式とロッカーアーム式では実際のカム山の形状(特にリフト=ノーズ高)は異なる。現在主要なメーカーで直動式を採用するのは、日産とフォードのみである。

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