ディーゼルの基本③:コモンレールシステム[内燃機関超基礎講座]

(PHOTO:DELPHI)
超高圧で燃料を多段噴射する、現代ディーゼルにとって欠くべからざるキーデバイスがコモンレール・システムである。
TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji)

ディーゼルエンジン(DE)が「クリーン・ディーゼル」へと変貌を遂げるにあたり、大きな役割を果たしたのがコモンレールシステム。過去のDEは、燃料供給を列型・分配型などのメカニカルインジェクションによって行なっていた。しかし、これらの作動は回転数依存であるため、特に低回転時には噴射圧力が高められない、といった問題があった。機構そのものの調整にも習熟が要求され、メンテナンスが行き届いていないと燃焼不良を起こし、これが大きなガラガラ音や黒煙の原因となっていた。

それらを置き換えるものとして、1995年にデンソーが初めて量産化に成功した電子制御式インジェクションがコモンレール・システムである。高圧サプライポンプによって燃料に圧力を加え続け、気筒間で共用するレール内部に蓄えておく。高圧とすることで噴射時間を短縮し、圧縮行程1回あたり3~5回もの噴射を行なう。また噴孔の径を極小化することで、燃料液滴を微細化し、燃焼を促進する。

(ILLUST:AUDI)

上のイラストはコモンレール・システム全体と、インジェクターおよび燃焼室の関係を表わしたもの。高圧サプライポンプはクランク軸からベルトで駆動され、デリバリーパイプを介してコモンレールへ加圧した燃料を送り続ける。このエンジンはV型6気筒なので、燃料を高圧化しつつ蓄えておくコモンレールは左右バンクに1本ずつ配されている。インジェクターはピストン中央部に配され、高圧で微細化した燃料液滴を燃焼室内部に噴射する。

(ILLUST:BOSCH)

上はコモンレール・システム全体の構成図。コモンレール内部の圧力は2000bar(200MPa)に達する。インジェクターノズルは1/1000秒単位で、しかも常に正確なタイミングで開閉しなければならない。制御系の高度化も重要なキーとなっており、自動車メーカーとサプライヤーが一体となって開発に取り組まなければ、高性能DEを作り上げることは不可能とまでいわれる。

コモンレール・システム構成要素の中でも、技術開発の大きなポイントとなるのがインジェクターだ。仮に最高回転数を4500rpmとする。4気筒エンジンなら、1ストロークあたりにかかる時間は約6/100秒の計算になる。しかも、これは上死点から下死点までのストロークにかかる時間であり、実際にDEで燃料噴射が有効となる時間は、さらにその半分以下だ。そのわずかな時間の中で、3~5回もの燃料を、しかもそれぞれ異なる量で噴射し続けるという、恐るべき精密機械がコモンレール・システムのインジェクターである。

(ILLUST:RENAULT)

インジェクターの構造は、大別して2種類がある。ノズル開閉の機構にピエゾ素子を用いるものと、電磁石(ソレノイド)を用いるものだ。上のイラストはいずれもピエゾ型で、左が平時、右が噴射時を示す。

ピエゾ素子は、圧電体を2枚の電極で挟んだ素子を基本とした構造で、電圧を加えることで力を発生する。この力が積送された素子部全体を変形させ、その動きがニードル作動部にはたらいて燃料噴射を行う。特徴は最短噴射間隔が0.1ミリ秒程度という反応の速さで、噴射回数が増やせるメリットを持つ。


ソレノイド型は、ガソリンエンジン用インジェクションでも使われて来た構造。軸部を組み込んだニードルを、圧力バランスを変えることで開閉させ、燃料を噴射する。ソレノイドに通電して磁力が発生すると、ニードルが開く、という仕組み。最短噴射間隔は0.4ミリ秒程度だが、コスト面なども含めたトータルバランスでは競争力を失っておらず、最新DEでも採用例はけっして少なくない。

【パイロット噴射】
あらかじめ燃焼室内に混合気を作っておき、着火性を高めるための噴射。ドライバビリティと燃焼音改善に効果がある。
【プレ噴射】
メイン噴射前に、燃焼室内に種火を作るための噴射。NOx低減と燃費改善に効果がある。
【アフター噴射】
燃え残った燃料を完全燃焼させるための噴射。排気ガス温度を上昇させ、有害物質の後処理装置の作動効率を高める目的で使われる場合もある。
【ポスト噴射】
排気ガス後処理の効率を高めるため、排気温度上昇を目的とした噴射。出力には寄与しない。

(FIGURE:FUSO)

1燃焼あたりに行なう複数回の燃料噴射には、それぞれ異なる目的がある。たとえばパイロット噴射は、燃焼初期段階の圧力上昇を緩和するための微量噴射だ。あらかじめ少しだけ燃やし、燃焼開始を穏やかにすることで、本燃焼の圧力上昇によって生じるカラカラ音を低減するのだ。

ノズルの噴孔から噴射された燃料は、急激に拡がりながら内部に空気を流入させることで、微細な液滴となっていく。液滴は表面から蒸発しながら空気と混合されていき、おおむね理論空燃比となった部分から着火し、周囲に燃え広がることで燃焼が行なわれる。

(ILLUST:熊谷敏直)

燃料に圧力を加えるサプライポンプの構成。上は燃料供給部分のカット図で、カムによって押されたピストンの動きで燃料を加圧する。ピストンは3ヶ所に配され、偏心カムによって順に作動。一作動あたりで生じる圧はそう大きくないが、3個が常に作動し続けることで、最終的にレール内部には2000barもの高圧が生成される。

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