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ミッドシップ車設計における技術的課題のひとつが、パワーパッケージとドライブトレーンの構成である。レーシングマシンの場合は、レギュレーションと空力的要求との兼ね合いによって、その時々の最適構成は自然と導かれがちである。しかし市販車の場合、力学的・機械的な最適構成が、商品性の向上につながるとは限らない。そもそも「エンジンを車体中央近くに、なるべく低く搭載する」ことと、乗員の快適性ならびに実用性そのものが背反しがちである。さらに変速機や駆動系部品をレイアウトした上で、燃料タンクやスペアタイヤ、ラゲッジ用のスペースも確保しなければならない。そのために繰り広げられた試行錯誤の歴史をたどってみよう。
エンジン縦置き/トランスミッション縦置き―1
エンジンからFDUまでを順に、直列に配置する。最もベーシックかつシンプルで、前後重量配分、重心位置などの点でも理想的と考えられる構成だが、特に市販車では採用例は稀である。
理由は単純明快。ドライブトレーン全体の前後長が大きくなり、車両パッケージ上の制約が大きくなってしまうこと。イラストでは、便宜的にトランスミッションハウジング内にFDUを組み込んで前後長を稼ぐ構成としているが、それでも他の構成と比べてエンジン搭載位置は前進せざるを得ない。さらに、燃料タンクや補機類の配置をどうするか?といった問題にも直面しがち。ミッドシップ化の本質的な意義に忠実な構成だが、商品として最も成立させにくいのは皮肉な事実である。
エンジン縦置き/トランスミッション縦置き―2
トランスミッションを後輪車軸の後方に配置し、カウンターシャフト側から出力を前方のFDUに伝える。いわゆるトランスアクスル方式で、エンジン縦置きミッドシップ車のスタンダードな構成である。
市販ミッドシップ車の祖であるデ・トマゾ・ヴァレルンガがこの構成を採ったのは、VWビートルのトランスアクスルハウジングを流用したことが理由。トランスミッション部の重量が車体後端側に寄ってしまうが、車体パッケージとの兼ね合いで考えた場合、特に小排気量車では大きな問題ではないとの判断だ。しかし、高出力エンジンを搭載し、トランスミッションを大容量化しなければならない場合、その重量が操縦性・安定性に与える影響が無視できなくなってくる。
エンジン縦置き/トランスミッション縦置き―3
FR車で一般的なドライブトレーン構成を、180度反転させて搭載した構成。トランスミッション部が車室内に侵入することになるが、それはFR車でも珍しくはない話だし、シフトリンケージの配置はかえって楽になる。
パオロ・スタンツァーニがカウンタックに採用したこのレイアウトは、市販ミッドシップ車のパッケージにおけるひとつの論理的必然といえる。特に2500mm程度のホイールベースの中に、12気筒など前後長の大きい、高出力エンジンを搭載しながら、前後重量配分を少しでも適正化しようと考えた場合は、究極解であるともいえる。ただし、問題は騒音、熱、振動などの点。特に近代の基準からすると、このパッケージを成立させることは困難がともなってくる。
エンジン縦置き/トランスミッション横置き
エンジンからの出力伝達方向をベベルギヤ等で横方向に変換してから、横置きトランスミッションの入力軸に伝える。イラストはクラッチハウジングをドライブトレーン後端に配置するフェラーリ348tbを参考としているが、トランスアクスル部の構成しだいで、他の配列でも成立させられる。
重量配分の自由度を確保した上で、リヤオーバーハング重量を低減できることに加え、機構的にもあまり複雑化させずに済むため、レーシングマシンでも採用例は少なくない。市販ミッドシップ車においても、重量配分の適正化と車体パッケージ自由度を両立させる上で、最適解のひとつと考えられる。今後のミッドシップ像を考えるなら、4WD化には向かないのが難点といえば難点か。
エンジン横置き/トランスミッション横置き
エンジン横置きミッドシップ車の祖とされるのは、レーシングマシンを一気にミッドシップ化させるきっかけとなったクーパー500(1947年)だ。ただし、これはモーターサイクル用エンジンを搭載したゆえの“結果”である。車両パッケージ効率を高めるための横置きは、ホンダ初のF1マシンであるRA271(1964年)がその祖と考えるべきだろう。そして近代における横置きは、フィアットX1/9に端を発するFF用トランスアクスルユニット流用がその意義となっている。コスト低減、パッケージ効率向上というメリットはあるものの、エンジン搭載位置が大きく制限されがちなことで、ミッドシップの本質的な意義との整合性が問われがちな構成ではある。