今まで軽自動車用以外にあまり見られなかった3気筒エンジンが、ここに来て急速に脚光を浴びつつある。その理由はもちろんダウンサイジング、レスシリンダー化。4気筒エンジンから1気筒分を取り除くことで小排気量化を図ると同時に、機械損失の低減をも狙おうというものだ。
その背景には、近年のエンジン設計においてモジュラー化が進んでいることにより、気筒数の増減がしやすくなっているという環境的な要因もある。もちろん、ブロックやクランクを造り直す必要はあるわけだが、動弁系や燃焼室、ピストンなどの設計が流用できるメリットは大きいという。
他にも、意外なまでに3気筒エンジンの振動は制御しやすいということや、その振動についても、最も振動を感じやすいアイドリング時にエンジンを停止するアイドルストップの急速な普及から、要求が緩くなってきていることなど、追い風的な要素は数多い。このあたりは、レスシリンダー化の究極ともいえる2気筒が振動対策の難しさから、現在のところ拡がりが限定的となっていることとは対照的だ。
そしてもうひとつ、3気筒には見逃すことができない、重要なメリットが存在する。
クランクシャフトが2回転するうちに、吸入、圧縮、膨張、排気という4つの行程を消化する4ストロークサイクルエンジンは、クランクシャフトが2回転、要は720度回転することで全ての気筒が全行程を終える。これはどんなに多気筒化が進んでも不変の要素。4気筒では180度ごとに同じ行程が次の気筒へ移っていく、つまり180度ごとの点火となるわけだが、バルブタイミングは吸排気ともに各行程の開始/終了の基準となる上下死点よりも早めに開いて、遅れて閉じる。バルブが開くことになる吸排気行程の理論的なクランク角範囲は180度だが、実際に吸排気バルブが開いている範囲は220~230度前後。180度ごとに次の気筒へと同行程が移る4気筒では、吸排気側ともに複数の気筒で同時にバルブが開くことが避けられず、吸排気の流れに気筒間での干渉が起こりやすい。特に排気での干渉は燃焼ガスが完全に排気されずシリンダー内に残留し、高圧縮化の障害になるなど、デメリットが多いのだが、これを避けるためには排気管の集合部分までの寸法を長く取るなどの工夫が必要となる。寸法的な制約が厳しい現代ではあまり歓迎されない要素であることは間違いない。
これに対し点火間隔が240度となる3気筒では、吸排気ともにバルブの開閉タイミングが爆発間隔の中に完全に収まり、吸気側、排気側ともにバルブが開いている気筒はひとつだけ。つまり、気筒間の干渉を考慮する必要がないため、吸排気系をコンパクトにまとめられる。さらに排気干渉がないということは、ターボを組み合わせる際にもツインスクロールの必要がないことも意味する。ダウンサイジング化に欠かせないターボとの相性も実に良いのである。
3気筒エンジンではクランク2回転ですべての気筒の全行程を終えるため、720度÷3=240度つまり240度毎に同じ行程が繰り返されることとなる。さらに、4ストロークエンジンではひとつの行程が基本的に180度の間に行なわれるので、同じ行程の間隔は240度-180度=60度(インテークを例にすると、#1で吸気行程が終わる#1の下死点から、次の吸気行程が始まる#3の上死点までの間隔)。バルブタイミングは、インテーク、エキゾーストともに上死点、下死点を跨ぐかたちで余裕を持って開くかたちとなるが、この“余裕”部分が3気筒では気筒間の間隔となる60度の間にピタリと収まる。
※グラフはホンダのE07型エンジンのバルブタイミングを参考に作成