化学強化ガラスは、表面に大きな圧縮応力を与えるほど強度が上がるが、その反面、内部に引っ張り応力が形成されるため、傷が深く入ると多数の亀裂が生じ破損してしまう。そのため強度が高く、割れにくい化学強化ガラスを製造するには、強化応力の大きさを適正にデザインすることが重要となる。
一方でガラスの破壊パターンは、亀裂が複雑に分岐する非常に複雑な現象であり、これまでのシミュレーション技術では再現することが難しく、強化応力の最適化には落下試験や割れの解析、破壊起点観察など多くの実験による試行錯誤が必要不可欠だった。
今回AGCの破壊観察技術と、JAMSTECの土壌や地盤の破壊解析に応用されてきた数値解析技術を組み合わせることで、強化応力の影響を考慮する新たな理論を組み込んだ「残留応力場の中での動的破壊進展解析手法」を開発した。化学強化ガラス中を伝搬する亀裂進展の過程をほぼ完全再現することに成功した、世界で初めての事例となる。
本数値解析は強化ガラス内部に蓄えられた応力の大きさに応じて変化する亀裂進展パターンをよく再現している(図1)。また、ナノ秒スケールの時間分解能で、亀裂伝搬中の応力波の様子を詳細に描き出している(図2)。
なお本成果は、「Physical Review LettersおよびPhysical Review E」に8月4日付け(日本時間)で掲載される予定である。